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51:俺と押崎さんでデート!?

バイトをしていた一途に舞い込んできた押崎さんとのデート。

というより、彼女いわく買い物に付き合ってほしいということだった。

二人の珍道中が始まる。

人込みと窓ガラスとスクリーン広告の重なる渋谷......。

ジンさんの映像が、Utubeの広告として流れているのを見ると、本当にすごい人なんだって実感する。こんなことなら別にバイトなんてしなくてもいいだろうに。


「ごめんなさい......。待ったかな?」


いつものロリータ的なファッションじゃなくて、秋を彷彿とさせる暖色のセーターに茶系のロングコートが印象的だ。ふわっと巻いた髪をなびかせて汗をかく彼女に焦らず紳士に振舞う。


「べ、べつに待ってないでしゅよっ!?」


はい、終了ー。久しぶりに女の子としゃべったせいか、変に噛んでしまった。


「ふーん、そうでしゅかぁ」


それをあざ笑うかのようにニヤニヤしながら押崎さんがこちらを見つめる。

なんかすいませんでした。もっと、肩の力抜いて話したい。



「ふぅ。ごめん、なんか変に緊張しちゃって」


「ふふ、推しの慌てる姿見てるみたいでなんか新鮮でした。ごちそうさま」


「ええ......。そんなに俺とあの人、似てる?」


ゆーらいぶのJIN/一ノ瀬ジンのビジュアルがのった「新人ライバー募集中!」の広告を指さすと、彼女ははつらつとした声で


「うん! もっと、自分に自信持ってもいいんじゃない? 一途いっとくん」


「うーん、まあ変に自信過剰よりはいいと思うけど」


「そうかな? 私は自信過剰でいいと思うよ。昔ね、私ロリータファッションは似合わないって男の子に茶化されたりしたことがあるの」



「え、全然似合ってるのに」


「そんなこと言ってくれる人周りにいなかったから一回、着る自信がなくなって服を捨てようとしたの。そしたらママがね『相手の好きなものをけなす人の方が自分に自信がないんだから合わせなくていい』って......。変わった人でしょ」



「かっこいいね、押崎さんのお母さん。俺もそんな芯のある人になりたい」


「なれるよ! 一途くんは私たちを引き合わせてくれたじゃない。遥くんと私を......。一途くんのおかげで結構、大学生活楽しいんだよ? だから今日も誘ったんだよ? 早く中に入ろ。寒いよ」


押崎さんの笑顔はいつになくまぶしかった。俺も二人のおかげで大学生活がもっと楽しくなった。交流も広がった気もする。そうだ、俺ももっと今を楽しまないと......。俺たち二人はデパートの中に入っていった。


「あったけえ~。 さすがに11月になると寒いな。で、何か買う目星はついてるの?」


「うーん、ある程度は厳選してきたけどネタ系とガチ系どっちがいいかで迷ってる」


「ネタ枠も考えてるんだ、以外」


「ジン様のほしいものをあげたいというのもあるけど、やっぱり動画のネタになるならガチめでいくより大穴狙ったほうが楽しいかなって。でも、それ取り上げられなかったら本当に要らないものなわけで......。そこの線引きが難しいんだよね」


なんというか、戦略家な一面をみせる押崎さんの圧倒的なシリアス顔が印象的過ぎて逆にかっこいい。とはいえ、プレゼントか。難しいな。パーティーグッズ売り場で難しい顔をする押崎さんに倣って同じように難しい顔で考える。


 でも、一番に重要なのはプレゼントが欲しい気持ちとか、動画映えを考えることよりもなにかをあげたいって気持ちなんじゃないか? 


「押崎さんは何をあげたいの?」


「だから、それを今考えてて......」


「じゃなくてさ。一旦動画映えするような受け狙いとか考えるより、まず押崎さんのあげたいものを教えてよ。結局はあげたいって気持ちだと思うし」


そういうと、また押崎さんの顔が曇り始める。


「私のあげたいもの......。ジン様が欲しいものじゃなくて?」


「そうだね。できれば」


「男の人にプレゼントなんか渡したことないし、わかんないよ」


「だから俺を呼んだんでしょ」


アドバイスはできるかぎりするけど、最終的には押崎さんのピンときたものでいいとは思う。だから、それまでは俺がサポートしないと。


「うん、ありがと。でさ、リサーチがてら聞きたいんだけど女の子からもらってうれしいものってある?」


「うむ、なんでもうれしいとは思うけど......。手作りのものとかは考えた?」


「いや......考えたけど、私の料理とか本人にもJIN様ファンにも見られるの恥ずかしいし」


「そっか。もうちょっと歩きながら考えよっか」


一旦パーティーグッズのコーナーから離れて、俺たちはエスカレーターを行ったり来たり......。

服は重過ぎる。家電は予算オーバー。お菓子は消費されるだけ......。いろんな言い訳を並べてはいろんな場所を回っている。


「......ごめんね。つきあわせちゃって」


「いいよ。むしろあまり役に立ってなくてごめん」


「またそんなこと言って。だから遥くんとの関係も煮え切らないんだよ?」


何を言っているんだ? この子は


「はい!? これ以上、俺たちの何を発展させんだよ」


「誰かにとられちゃうかもよ? 遥くん、女の子にモテるだろうし」


「それが普通だろうね」


「ふーん。ま、私は二人のこと応援したいんだけど......。あーちょっと疲れちゃった、ゲーセンで憂さ晴らしだー! 行くぞ、一途少年!」


「お、おう......」


なんだかよくわからないけど押崎さんはズカズカよ今まで以上にしっかりとした足取りでゲーセンに向かう。二人でゲーセンに向かったものの、そこで彼女は天啓にあったように目を輝かせて指を差した。


「これ、JIN様みたい......」


それはタキシード姿のパンダだった。どこをどうみたらジンさんに見えるのか......。UFOキャッチャーーオリジナルのキャラなのか、ネームタグにはなにもない。こういうぬいぐるみの展開もあるのか?


「これにしようかな」


「いいんじゃない? UFOキャッチャーやったことある? とれそう?」


「頑張る!」


そうして押崎さんの挑戦が始まった。はじめは事細かにアームの位置を見つつ、調整しなんども挑戦した。100円が500円になり、それが1000円、5000円を超したところで涙目になった彼女が俺の方に向いた。


「ははは、仕方ないよ。大丈夫、俺こういうの得意だから」


俺は高校のころ暇で、よくこういうUFOキャッチャーで景品を取るのが遥との日課だった。その時に磨きに磨かれたキャッチセンスは高3の頃になると店員に引かれるくらいに上がっていた。一回出禁になりかけたし。


俺は100円玉を入れ、ボタンを操作し始める。狙いは押崎さんが頑張って出口まで追いやった子だ。これまでの彼女の行動を無駄にはしない。そろそろとアームをその子に引き寄せていく。狙いを定めてボタンを解き放つ。アームは下へと下がる。だけど、俺が思っている方向とは少し違う方へ曲がってなぜか二つもアームにぶら下がる。小さいわけでもないのに絶妙なバランスで一体も漏れずに運ばれていく。

まじか。そう思っているとプレゼントをもらえる出口には二体のぬいぐるみが転がり落ちていた。


「す、すごいよ! 一途くん!」


「お、おう! なんか、今日は調子よかったみたいだ。はい、これ」


俺は彼女にお目当てのパンダを二体も渡した。予定以上の大収穫に彼女はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「はい、これ。ひとつあげる。今日、来てくれたお礼ってことで」


そういって、彼女はパンダを俺に手渡してきた。


「取ったのは俺なんだけどなぁ」


「重要なのはあげたい気持ち! でしょ?」


それ、俺のセリフ......。頭では思いつつも俺は胸にしまっておいた。

今は、彼女の役に立てたことを喜ぼう。




押崎さんはどちらが好きというよりどちらも好きなのかもしれない。

推し仲間として彼女が二人とどうかかわるのか、それは今の一途はしるよしもない。

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