46:酒粕事件 その2
ガンガンという頭痛とともに朝目覚めた遥は置かれている状況に狼狽える。
さらには彼のマネージャーに変な誤解をされる始末で......。
さぁ、どう弁解する!?
ズキズキという痛みとともに目が覚めた。今、何時だ?
「うぇぇ......。頭痛ぇ。昨日何してたっけ」
敷いてあるベッドなんかじゃない、こんなそばに机がある。
それに昨日からなんも着替えないで寝たのか? 配信で疲れて寝たとか?
いや、ありえない。いままでだって配信で疲れたとしてもそのままベッドになだれ込むことなんてしなかった。メイクをしたまま寝てしまうと肌に悪いし、男だからなのか化粧のノリも悪くなる。だからしっかりメイクを落とすことを習慣にしていたはずッ!
「なんだこの状況は! とにかく顔を洗わないと......。ん?」
風呂場の方へ向かおうとするとなにかに足をぶつけた。フニフニとした感触。聞いたことのある声......。思わず下を向いた。
「ぐぇ......!? い、一途!?」
どうして一途が俺んちで寝てんだ? しかも、こいつさっき蹴った割にのんきに寝ていやがる。
だけど、なんだろう......。こいつが寝てるのは俺のせいな気がしてきた。た、たしか昨日の夜にこいつが来た気がする。そんでなんかもらったんだ。晩飯? でも、晩飯くらいで記憶飛ぶのか? 記憶飛ぶといえば......酒? いや、俺ら未成年なんだから飲めないし買えないだろ......。
瞬間、俺の脳内であふれだした恥ずかしい記憶。
かす汁を食べて俺は酔っぱらったって言うのか? ありえねえ。そんな記憶知らねえ、憶測でしかない。
「ま、まさかな......。それってオレってめっちゃ下戸ってことじゃん」
一旦頭をスッキリさせるためにも一途をまたいで、浴室にある洗面台で顔を洗いに行く。
手を使って泡立ててもふもふと化粧を落としていく。昨日のことがまだ、石鹸のあわのように白いもやがかかってて見えない。一途から渡されたかす汁を飲んだまでは覚えている。だが、その後はほとんど覚えていない。結果として一途がなぜかオレの家で寝ていることになっているのも謎だ。あの寝顔がちょっとかわいいから頭の中に焼き付いて離れない。今は原因を調べるんだ。一途の寝顔なんかいつでも見れる。
「ふぅ......」
一通り、顔を洗い終わったら12時を過ぎて魔法が解けたシンデレラのように元に戻ってしまった。ああ、あのままかわいい子のままなら一途をもっと困らせられるのかな。困る姿が見たいわけじゃないけど、一途との距離をもっと他のものにしてみたい。 鏡の中の自分にため息をつきながらリビングに戻ると、一途が仏陀の涅槃像のように寝そべって俺を見つめた。
「おはよう、ハル。よぉく寝れたかい?」
「お、おう......。申し訳ないんだが、昨日俺たちになにがあったんだ? なんでお前がここで寝てんだ?」
そういうと、一途はため息交じりに首を振った。
「君のためだ。知らない方がいい」
「どうして」
「きっと、酒が飲めなくなる」
「ちゃんと酒を飲む前に知っておきたいんだ! 俺が酔うとどうなるのか! すぐに寝てしまうのか?豹変するのか!? 笑い上戸か、泣き上戸なのかどっちなんだ!」
「論外、そもそも配信生命に関わる致命傷......。とだけ言っておこう」
そんなに悪い酔い方したのか? どんだけ弱いんだ。たったの一杯だろ? しかもそんなにアルコール濃度も高くないだろ。
「なん......だと......。だけどさ、そんな人聞いたことないよ。料理で使われた酒で酔う奴なんて」
「俺んちの母親がお前と全く同じなんだよね。だから基本母さんはかす汁を作らない。 お前はそういう体質だ」
「嘘だと言ってくれよ。なぁ、冗談キツイぞ! みやげちゃんとの酒飲み配信したいんですけど!? お酒飲んで配信して寝オチする推しをみたくないのか!」
「見たくないと言ったら嘘になる。だが、俺は酔ってキャラ崩壊して素のハルにならないか心配なんだ!」
そんなにヤバかったのかよ。正直、そんなになるなら教えてほしい録音して教えて欲しいものだけど。こんなところで引き下がるわけにはいかない。俺は配信でお酒をちょいとでも飲みたい!
「ならない! 一口程度なら大丈夫だ! オレは素にはならない!」
「死んでしまうぞ、コンテンツ的に! 酒を飲まないと言ってくれ遥!」
言い合いをしていると突如としてインターフォンが鳴った。誰だよこんな時に......。
『門田ですぅ......。スゥ......霜野さんいらっしゃいますぅ? ラインしたんすけど出なくて』
門田なつき......。オレが事務所に入ってから数カ月後に配属されたマネージャーと言う奴だ。言っても基本事務所は自由主義なのでおっきい案件がない限り連絡はない。
「ゲッ、なつきさんかよ、よりによって」
「誰だよ、なつきさんって」
「なんでもねえよ。マネージャー......。一旦出るわ」
はいはい、今出ますよとドアを開くとスーツ姿で黒くて長い髪をなびかせた女性がすらりと立っていた。息の多いしゃべり方さえしなければ完璧キャリアウーマンのような容姿端麗さだ。
「どうもぉ......。スゥ......。あいかわらずいい匂いですねぇ。? おやおやおや、お邪魔でしたかな? エルちゃん、隅に置けませんぞ」
一途が軽く会釈していると、彼女は少し口に手を当てて邪推するが、どうしてこの人はいつも脳内お花畑なんだ。女装姿を見たときも写真を撮っては男の娘だとかどうとか息を切らしながら拝んでいたっけ......。
「そういうのじゃないってば。とりあえず入って」
「今日学校お休みならばぁ、打合せしたいんですけどぉ......。スゥ......。そこで仁王像みたく凄んでる彼氏どうにかしてくれません?」
「か、彼氏ではないですって! とりあえず酒のことは後で話そう。な、一途」
一途は肩を落としてなつきさんに一礼して外に出ようとしたその時、なつきさんの嗅覚がなにかを感知した。
「スゥ......。ごめんなさい、ちょっとした質問なんですけど。すごく簡単な質問でですね、あなた方未成年飲酒で一夜を共にしたんですか? いや単純な好奇心なんですけども......」
この爆弾発言に部屋は暖房をつけているというのに凍り付き、風さえ感じた。冷汗が暖房の熱でじっとりと乾かされていく。
急遽始まった遥のマネージャーとの謎の三者面談。
一途は飲酒配信に対して懸念をするも......。




