4:二重生活が崩れる音
遥パート:遥はどうせバレないと思い女装して外出しようと考えていた。
だが、一途とばったり出くわし出鼻をくじかれてしまう。
今日はめちゃくちゃ女装も決まってるし、この時間は知ってる人とは会わない。
コンビニで買い物行くくらいこの格好で行っても大丈夫だろう。
これがすべての間違いだった。
目の前にいるのは俺と晩御飯を楽しみにしていそうなアホ面。隠し通さなくちゃ......。そう思っていてもとっさになればなるほど本音は出てしまう。
「い、一途? どうして」
はい、終了~! お疲れ様でした! 『どうも兄がお世話になってます(裏声)』とかでもなんとかなっただろオレ!!こいつだけには見られたくなかった。恥ずかしいし絶対いじって来るし、小田倉だし。
「ハル、なのか?」
「なんだよ、こっちじろじろ見んなよ」
少し照れてしまった。今日の俺は特にガーリーファッションに挑戦してしまったのだ。ピンク系のロリータファッションは肌にあわないと思っていたけど、オレは天才美少年なのでなんでも似合うのが嫌になる。
「おお、コスプレか? やっぱり女の子の格好も様になるなイケメンは。ところでそれで買い物に行くつもりだったのか?危険だろ。俺が晩飯買っといてやったから、一緒にカレーつくろーぜ」
意外にもこの台風のように攻め入る男にはデリカシーという単語があるらしい。こいつの優しさを無下にはできないし、提案に乗ることにした。
「恥ずかしいし、料理つくるし着替えていいか?」
「おまえエプロン持ってないの?」
「話聞いてます?」
恥ずかしいから着替えたいっつうんだよ、このスカタン! なんでエプロンという発想に至るんだ! お前も親友の女装ずっとみたいわけじゃないだろ!
「いや、なんかメイド喫茶みたいになって雰囲気出るかなって」
「いやです。着替えます」
「いいや、ダメだね。君はそれを着て外に出ようとしたんだ! それなのに俺に見られたぐらいで恥ずかしいって言ってんじゃあ話にならんぞ! まずは人に見られることに慣れろ!」
こいつ、ぐうの音もでないこと言いやがって......。確かに一途に会わずに買い物に行ったとしてもどこで恥ずかしいと思っていただろう。ここはオレが折れるしかない。エプロンは一応持ってるし、大丈夫だろ。
一途がジャガイモやニンジンを剥いていく。
オレは狭いキッチンで手際よくたまねぎをきざむ。いいところを見せたいと思い、オレが一途の方を見ながら包丁を動かす。ドヤ顔を決めていると、指にスッと痛みが走る。
イテッ、少し指を切ってしまった。
「オイオイオイ、大丈夫か?」
「すまん、ちょっとテーブルの上の小物入れから絆創膏とって」
一途小走りで絆創膏をとって張り付けてくれた。わざわざそんなことしなくても
「これで大丈夫ですよ。お姫様」
「あ、ありがとう セバスチャン」
少しぎこちなく彼の調子にのると、一途は顔をそらしてきた。なんなんだよ。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎカットした鶏肉を炒めて煮込んで、カレールーをぶっこめばカレーのできあがり。炊飯ジャーからごはんをよそってカレーをたらしいれる。二人で揃って晩飯を食べるのは初めてかもしれない。カレーライスは誰が作ってもおいしい。これはまぎれもなくゆるがない。おいしい。
「うーん、おいしいぃ!」
つい、エルちゃんみたいな感じで言っちゃったけど大丈夫かな?
一途は少し俺の言葉に驚いたみたいだけど見つめていたら急にカレーをむさぼり食っていた。ほんと今日の一途おかしいぞ? そういえば、オレエプロン付けたまま食べてたな。これじゃカップルの晩御飯みたいだな。
「なにがおかしいんだよ、ハル」
「おかしいよな。オレが女装して飯くってるなんて」
「別に似合ってるんだからいいだろ。というかもっと頑張ってさ、今度は俺の推しのコスにも挑戦してくれよ」
に、似合ってる!? お前に言われると思わなかったその言葉にドキッとさせられた。
少し自分の服装に自信が持てた気がする。オレはこいつを筆頭に、ファンを大事にするためにもがんばらなくちゃな。
遥たちは食べ終わった皿をキッチンの流しに置いた後、数時間ほどゲームをして遊んだ。
彼らの関係は少しも揺るがない。