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28/122

28:配信して、女装して

一途と遥の二人がただダラダラ話すシーンが書きたかった。

 『今日は配信に来てくれてありがとうね! それじゃ、またえる~』


今日も配信頑張ったなぁ。オレはちょっぴり良質なゲーミングチェアの背もたれによりかかって伸びをする。Vtuberとして配信を始めてだいたい2年くらいがたっていることに気づいた。窓の外を見るとすっかり日が落ちている。


「あー、2周年の雑談配信明日にでもやろっかな」


 狭い寮で一人、独り言を言っているとスマホの画面が光った。一途いっとからライン?

スマホを取り出してラインの画面を取り出すとスタンプ付きで会話が流れていた。


『配信お疲れ! ところで2周年の雑談とかやらねえの?』


「お疲れ」と書かれた初めてのエルちゃんラインスタンプが表示されている。

最近やっとスタンプ作れたのもうれしいんだけど、親友が使ってくれているのがちょっとくすぐったい。


『そうそう。明日くらいにやるつもり。』


いつもの調子でラインを返す。ぶっきらぼうに返しても一途はいつも通りに受け答えしている。友達との会話は気を使わなくてもなんとなくでアニメの話とか、ゲームの話で盛り上がれるから好きだ。


『ちょっと時間取れるなら今から晩飯くいにいかね?』


 一途からの誘い、しかも飯の誘いは珍しい。最近遊びに行けてないし、ご飯も一緒に食べると言ったら大学の学食くらい。こうやって晩御飯をともにしようと思うのは初めてに近いかもしれない。オレ少し浮かれてオッケーとだけラインを返して外出の準備を整える。普通に大学行くときの格好で行こうかなとも考えたけど、ズボンに片足を突っ込んだところでやめた。


「女装していったろw」


ちょっとしたいじわる心と高揚感でお気に入りの一般女子大生コーデに袖を通す。夏もあけたし、ブラウンのロングスカートと黒のセーターを着ていく。まだちょっと暑いけどもおしゃれは我慢ともいうしね。


 最近は衣装だけじゃなくて化粧も外に出るときはするように心がけている。あまり派手になりすぎないように自然ナチュラルに見えるようにきれいに彩っていく。押崎さんからも少し化粧のこと聞きたかったけど、彼女の意見はどちらかというとコスプレイヤーよりの意見だったので独学でしかない。


「これで、変じゃないよね......」


少し、口調が女性らしくなる。別に女性らしくなりたくて着はじめたわけじゃない。自分が自分として楽しくいられる姿でいたい。だから、女装だろうが、普通に服を着ようが変わらない。カバンを背負って玄関のカギを閉めて自転車に乗って一途いっとが集合場所に指定した焼き肉店近くの公園に合わせてペダルをこぐ。


「ちょっと遠いんだよなぁ」


足を踏みしめる。タイヤが回る。上を見上げても星は街頭で見えない。公園が見えてくるとそこには自転車にもたれかかる男がいた。スマホの明かりから垣間見えるニヤケ顔が少し気持ち悪くて笑える。デートの待ち合わせに遅れる彼女のようにオレは声をかける。


「おまたせ」


「おお、来たか......って、なんでそんな格好してんだよ」


「なんだよ、悪いかよ」


「悪いとは言ってねえよ。たださぁ、一言くらい言ってくれよ」


「かわいいからドキドキしてるんでしょ」


自分で言って自分の心臓も大きく速く動き出している。一途の顔が歪みだしてスマホの明かりでも赤らめているのがわかる。こいつはとても分かりやすい。こいつの拗らせ方は高校のときから変わらない。


「うっせえな、さっさと行くぞ。焼肉! そんな恰好したこと後悔すんなよ!?」


 焼肉に行くと匂いはつくし暑いけど、これはオレの選択だ。迷いはない。オレはこのこじらせ童貞をいじりたくてこの格好にわざわざ着替えなおしたんだからな。そう心でほくそ笑みつつ二人で焼肉店に入る。充満する焼けた肉とタレのにおい。煙が上の換気扇にどんどん吸い込まれていくのを見つめつつ店員に案内された席に向かい合うように座る。


「なんで前に座るんだよ」


「いつもそうしてるだろ。それとも、隣に座ってほしかった?」


「はぁ......。適当に頼むか。おまえ何食べたい?」


「カルビ、タン塩」


「俺は、ハラミとロースっと......。遥って結構あっさりが好きめ?」


「まあな。ついでにニュルニュルなホルモン系は苦手だな。絶対頼まん」


「ええ? あれがおいしいのに」


次々と並べられる赤い生肉を熱い網の上に置いて行く。肉が白くいいにおいを出してジュージューと焼けていく。それぞれが勝手に取り出してタレや塩で口に運ぶ。


「おまえとは食の意見に関しては合わなそうだな」


「遥、顔にタレついてんぞ」


「え、どこ?」


俺が捜していると一途は少し立っておしぼりで俺の顔をそっと拭いてくれた。なんとなく、目が合った。一途の体が固まった。急におしぼりを投げ出し、勢いよく座りなおした。


「自分でやれよ。なんで俺がやってんだか......」


「ケチ......」


冷たいおしぼりで顔を拭く。少し化粧が落ちている。ちょっと嫌な気分になったけど、一途はオレが女装するとやけに優しくなるからいじりたくなる。でもそれを通り越してさっきみたいにイケメンムーブをやってのける。......おしぼりが温かくなってきたように感じたのは、きっと焼肉が熱い網の上で身を焦がしているせいだ。



そろそろ大学の文化祭とかもやろうかな。

でも、3人は部活とか入ってないんだよなぁ......。


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