25:俺と遥の関係
ケンカの後はやっぱり店長?
一途と遥は仲直りできるのか!?
晴れやかなバイトの時間というものはないけど、これまで以上にため息のつく時間はないだろう。
一途のことを考えながら俺は総菜パンをならべる作業をこなしていた。
「あんた、例の男のコと喧嘩したでしょ?」
店長が俺の肩に手を置いて声をかける。総菜パンの陳列が終わった後に、俺はため息交じりに店長に悩みを相談した。
「まあそうです。自分が少し冷めたように話したせいでそいつの逆鱗に触れたみたいで胸倉つかむほどに」
「えっ? まじのケンカ?」
「いや。胸倉掴まれた後向こうが手をそっと下ろしたんで、一人になりたいだろうと思ってなにも言わず帰りました」
俺は真面目にことの詳細を話していく。こんな話し方しかできなかった。どうしても、一歩引いてしまう。
もう大人だからとか、子供のようなケンカは労力の無駄だとか感じてしまって感情的になるのがおっくうになってしまってたのかもしれない。とりあえず体を動かしながら話していいよと言われたので今度はコーヒーメーカーの方に向かった。店長は俺についてきて話を聞き続けてくれた。
「一途ちゃんはさ、どうしたいん? このまま何もしないの?」
「俺は話したいです。でも、どうやって話したらいいかわからなくて......」
俺は横で聞いている店長の言われた通りにコーヒー豆を補充したりしながら話していると、店長はハッキリとした口調で答えた。
「普通に話せばいいんじゃない? 仲直りするならいつも通りで話ことが一番よ」
「いつも通りか......。俺にできますかね」
「『一途ちゃんなら、できる!』なんてことまでは言わないけど自分のペースでやればいいんじゃない?」
いつも店長には助けられている。給料面でも面倒見の良さでも俺の居心地のいいバイト先だ。だからこそ店長の言葉を信じられる。いろいろと人生相談に乗った後、今日は定時で帰らせてもらった。
いつものバイト帰りよりも明るい道なりに沿って自転車をこぎ続ける。今日もきっと霜野遥は神野エルとして配信をしているころだろう。本当は面と向かって話したいけど、ここは少し落ち着いて話したいから自分の部屋に帰ってパソコンを開く。
「あいつの配信でも見てやるか」
一人ぽつりと画面の前でつぶやいて、Utubeのホーム画面を開く。登録していたアカウントにログインしてエルちゃんのチャンネルに飛ぶ。一つ赤くライブと書かれた動画があるのでそれを開く。
『最近、リア友と喧嘩してさー。まじおこって感じなんだよね。だから殺意を持って今日はまじこの場にいるEPEX民倒すから』
遥のちょっと笑いながらも本気のプレイに少し戦慄する。こいつは本当に全員キルするつもりだとはっきりわかった。しかも、俺への怨念が詰まっている。こいつ、まじで根に持つタイプだ......。
【一途な一号】『殺意高......』
コメントをとりあえず書いてみる。コメントはスルーされてる気がする。まあ、ゲームプレイに集中していて見ていないということもあるかもしれないが、ちょっと寂しい気もする。
ちょこちょこコメントを打ちつつも、スマホで遥にラインを送ってみる。多分彼は見てはいない。それでも、『今見てるよ』と話しかけたかった。
エルちゃんはいつもよりも動きが鋭く、ヘッドショット率も高い。どんどんとレアな銃を持ったプレイヤーたちを倒していく。
『おらぁ、どんどん倒しちゃうもんね!! 今日は攻撃的に行っちゃうよぉ!』
そんなエルちゃんに対して、コメントのみんなはやってしまえと言わんばかりに投げ銭を送っていく。ハチの巣になるプレイヤーとすり減る俺の精神......。なんか、俺がやられているような感覚さえ出てきた。それでも彼女(彼)の行動も顔も好きだ。やっぱり俺はエルちゃんが好きだ。
\1,000【一途な一号】:『今日のアグレッシブエルちゃんも好き!!』
スーパーチャットで許してくれとは言わない。これは、いつものファンとしてのいつものスーパーチャットなんだ。そう勝手に言い訳しつつ送りつける。
今日はエルちゃんの大健闘で動画が締めくくられた。優勝まではいかなかったが面白いプレイを見せてくれた敬意として彼女に投げ銭を浴びせる。
「今日配信見てたの?」
遥からぶっきらぼうなラインが返ってきた。
「うん、面白かった。俺の怨念はこもりっぱなしだったけど......」
「ゲームやったらさすがに頭冷えたわ。一途、昨日はちょっと言い過ぎたわごめん」
「俺もちょっとお前の気持ち組まずに話して悪かった。またなんかおごるわ」
「じゃ、プリンよろしく」
彼の軽口はいつもの調子の遥だってことがはっきりわかる。
しゃあねえな。また、あいつに貢いでやるかw
次回からは恋のライバル編?
鷹野 仁登場!(多分)