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24/122

24:二人の絆

遥と一途のコミケの後はまさかのケンカ?

 眠気眼をこすりながら押崎さん、一途ときてオレはそれぞれ寮へと戻っていった。楽しかったことをした後の帰りはなんだか体がだるい。休みは残っているのにまたいつもの毎日が戻ってしまうようで、それでもオレはいつもの毎日でも楽しい。配信もできる。自分を推してくれる人がいる。今日はさすがに配信を休みにしちゃっているけど、いろんな人が自分のファンアートを今日も書いてくれている。


 SNSをチェックした後、メールを確認していると1件通知が届いていた。ジンさんからのメールだった。Vtuberは大体コミケに出払って大概の人が休んでいる中、ジンさんは配信を取っていたようだった。


『コミケお疲れ。今日は僕もコミケに顔出してから配信してたんだ。ハルちゃんは今日一日楽しんだみたいだね。どうだった?』



自分にとってもう一人の恩人、ジンさんの温かいメール。ジンさんもコミケに顔を出していたんだ。もしかしたらどこかですれ違っていたんだろうか、ちょっと顔を見てみたかったなぁ......。

その気持ちをしたためて返信した。


『ジンさん、配信お疲れさまでした。とても楽しかったです! 自分の同人誌もあって恥ずかしい反面、うれしかったです。ていうかコミケに顔出してたんですね! ちょっとお顔を拝見して見たかったですよ?w』


冗談交じりにしながらも半分は本気。彼に会って話をしたい、今後のことをもっと話していきたい。一途では離せない相談をしていきたいという思いと、会って幻滅とかされたらどうしようとも考えてしまう。そんなことを考えながらメールボックスを眺める。少し冷静になってパソコンの電源をつけてみる。単純にどんな人か知りたい。これまで何度も通話越しで話してるけどどうしても会ってみたくなる。そういうところでは、ファンの一号さんと話してみたいっていう時期もあった。ファンとのオフの交流はご法度だってことは分かっていた。それでも知的探求心が頭をくすぶっていた。


 一号が小田倉一途だと知って、びっくりした半面、なんだかホッとした。これまでずっと俺のことを推していると何度も言ってくれていたから、ちゃんとファンでいてくれたことに安心したし、俺って分かってからも普通に友達として接してくれている。


結局待てど暮らせど、ジンさんの配信をみていても、彼から返信が来ることはなかった。寝たのだろうか、動画がつまらないわけではないがついあくびが漏れる。針が重なって外ももう暗い。俺はアーカイブを止めてパソコンの電源を切って、ベッドに横たわった。


 明日は何をしようか、大学生は意外に暇だ。バイトをしなくてもいいくらいには稼がせてもらっているから本当にやることがない。仕事がないなら一途と一生ゲームとかできるのに......。いっそのこと一途もこっち・・・・に来てくれたら楽しいだろうに。でもオレみたいにできるのかな。


考えているうちにオレは眠りに落ちてしまった。



 気が付くとカーテン越しに日が差していた。カーテンを開けて伸びをする。今日も配信以外は何もすることがない。家の掃除でもしようか......。それとも、一途を誘ってゲームでもしようか......。


スマホを触るとメールボックスがいくつか溜まっていた。ほとんどはネットショップのメール広告だったりニュースメールだ。その中に知っている名前があった。ジンさんだ。


『今度、オフで会ってもいいよ』


短い言葉だった。それでも少しうれしかった。ジンさんに会う約束をしているとインターホンが鳴った。カメラを見ると一途が心配そうにこちらを見つめている。


「どうしたの」


「いや、ラインみた?」


少しぶっきらぼうな言葉にいら立たせながらもスマホをみつめると一途から連絡が来ていた。


「ごめん、色々あって連絡どころじゃなかったわ」


ああ、そうと少し膨れた様子で部屋の中に入る。今日はバイトが休みということで一緒に遊びたかったようだ。


「ちょっと待ってて。ジンさんにメール送るから、お前は適当に冷蔵庫のジュースでも飲んでて」


適当にあしらって俺は意気揚々とパソコンの前に座る。ジンさんに会える一心で言葉を何度も書いては消し書いては消しを繰り返していた。


「ジンさんって前にコラボしてた人だっけ。仲いいの?」


「仲いいどころか、恩人なんだよ。ちょっと文章考えてるから静かにしててくれよ」


 ジュースを片手にゆっくり飲んでこちらを見つめている。正直今は気が散るからいて欲しくない。彼も俺のピリついた雰囲気に気づいて静かにはしているが彼自身もつまらなそうにいろんなところを見つめている。送信し終わり、ジトっと一途の方を向く。なんだよと言わんばかりに流し目で見つめてくる。


「ほんとタイミング悪いんだよ一途。もうこんな時間じゃん、お昼買ってきてよ」


「いつも俺が買ってんだろ。お前が買ってこいよ、待たされた分もあるんだし」


「待つくらいどうでもいいだろ、器小せえな」


少し語気を強めると一途は言い返そうと口を開くがすぐに目をそらして冷静に言葉を紡いだ。


「やめよう、こんなしょうもない事で揉めんの......。大学生なんだし」


こういう一歩引ける一途はすごいと思うし、いつもならオレが折れて終わりなんだが、どうしても腹の虫がおさまらなかった。彼のその一歩引いたような言い方がズルく感じて、逆に俺の器が小さいみたいに感じてつい言い返してしまう。


「そうやって大人ぶるなよ、勝手に家来たのはお前だろ! お前の家ならわかるけど、ここはオレの家だ! 俺が待てって言ったら待つのは当たり前だろ。仕事してんだから」


「たかがメール一本打つだけだろ」


ダメだ。一途の言葉一つ一つが悪くとらえていく。理屈では分かっていても、どうしても気に食わない。昨日の今日まで仲良くできていたのに、オレは一途の胸倉を掴んでいた。子供のような怒りに任せた感情。


友達との初めての喧嘩だった。

一途はまた遥と仲良くなれることができるのか?

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