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23:俺のドキドキよ届くな

迷子の遥を無事見つけてコミケを堪能する3人。

そしてまさかの事実に遥と一途は目を丸くする。

 このドキドキはなんだ? 走って息が上がっているのか? それとも女装した遥と手をつないで恥ずかしいから? いや、そんなわけはない。きっと前者の方だろう。


人通りを抜けて走る、走る。コミケ独特の人通り、ロボットもいれば露出の高いコスプレの人もいる。意味の分からないニッチなコスプレをしている人もいる。そんなカオスの中で、友達を見つけるなんてことは難しかった。それでも俺はあいつに、遥の元へ行きつける自身があった。


「もう離れんじゃねえぞ」


「お、おう」


 遥は散々迷った挙句最初に迷った場所、今回ではコスプレに着替えたトイレに戻ってくるミラクル体質だ。まあ、それに気づいてないのが厄介なところなんだが......。そういういままでの積み重ねみたいなのが俺が遥にたどり着けたんだと思う。押崎さんにだってこれからそういう積み重ねがあると思う。それまでは、少し遠回りになるかもしれないけど必ずたどり着けると思ってる。


「おかえりなさい、二人とも」


「ただいま、押崎さん。迷惑迷子、連れ戻してきたよ」


「迷子って......。ごめん、遅くなった」


遥が小さく頭を下げるが、俺は腕を使ってさらに頭を下げさせた。不思議と俺たち3人は笑っていた。

 これでやっと俺たちのコミケが始まる。3人でまずは被写体になってカメラマンに愛嬌を振りまく。お互いに写真を撮りあったりもした。さらにはメインである同人誌やグッズの販売を見て回る。


「見てください! エルちゃんたちの合同誌ですよ!?」


「ホントだ、あんまりエッチそうじゃなくてよかった」


「同人誌はエッチなものばかりじゃないんだよ。普通に可愛い系の百合ものとかBL本とかあるんで悪くないと思いますよ。もし、致したいことがあればその道のプロ紹介するけど」


やけに押崎さんの目線が鋭くなっている。眼鏡があれば絶対光ってるやつだ。多分、前の俺だったら唾を飲み込んで『お願いします』と土下座をして頼み込んだだろう。しかし、相手が俺の友達だとわかった以上なんだか心がギュッと締まる気持ちになる。エルちゃんはエルちゃん、遥は遥......。分かってはいるけど避けては通れないつながりだ。


「い、いや大丈夫です。それにしてもV界隈の同人誌増えた気がするな」


「そんだけ性癖カップルが増えてんだよ。競争も激しいしな」


ヌルっとシビアな雰囲気の顔で遥が会話に入ってきた。こいつの言葉の重みは外側からの意見じゃなくて歴戦の戦士の言葉に近い。


「びっくりした、みやげちゃんの顔でそんな神妙な顔すんなよ、心臓止まるかと思ったわ」


「それにしても一途、エルちゃん含めて3期生ってそんなにグッズ少ないんだな」


そういうと押崎さんはジンの同人誌を両手に持ちながら語りだした。


「まあ、1期生の人気はいまだ衰えてないですからね。これからですよ、これから。個人的にもみやげちゃんは応援したいし」


みやげちゃんになぜか愛着があるみたいだ。いつもジンくん一色なのに、遥を見る目はなにか子供を見送る母親のようだった。


「押崎さんがどうしてみやげちゃんを?」



「え!? ああ、まあ“ママ”だから......かな?」


そういって髪の毛をかきあげると耳が赤くなっていた。恥ずかしそうにスマホを取り出し、俺たちに見せてくれたのはみやげちゃんのラフスケッチのようなものを見せてくれた。押崎さんはみやげちゃんを生み出した絵師ママなんだとはっきり分かった。


「すごいよ、押崎さん! そんなこともしてたなんて......」


「Vの絵いっぱい書いてたら依頼が来て初めて作ったんだ。だから思い出深くて......。エルちゃんとのコラボも見たよ!! めっちゃ可愛かった! 今度二人の百合同人書こうかな」


3人ともコスプレにも満足したし、財布の中身も少なくなってきたところでこれ以上の散財を防ぐためにも外に出ることにした。後はもう無事に家に帰るだけだ。いろいろあったけど俺はエルちゃんたちの日常系同人を一冊と公式のVtuberキャラピンバッジを10個購入して終了した。二人は俺以上に欲しいものがあったらしく、紙袋いっぱいに詰め込んでいた。


 帰り道はみんなくたくたになって電車でウトウトとしながら外を見つめる。夕焼けがきれいで少し目が覚めるとメイクだけ落として女装姿もままの遥が俺の肩に寄り掛かってきた。

 彼の制服姿をまじまじと見ると実は女の子なんじゃないかと勘違いを起こしてしまいそうだ。心臓の音が大きくなる。もう一方の肩が重くのしかかってくる。押崎さんの石鹸のようなさっぱりとした匂いとスースーと寝息を立てる彼女の姿にドキドキが止まらない。はたから見たら女子二人に寄り掛かってハーレム状態野郎なんだが、うれしいわけでもない。二人の重さは心を許された信頼の重さなんだと思うと少し背筋が伸びる。


「駅に着いたら絶対遥はつねってやる」


反対方向の電車が小言を掻き消す。電車は俺たちを家路へと運んでいった。





遥が家路につくと一軒のメールが届いていた。

それは独りの男からだった。

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