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22:迷子のハルカくん

人混みに流されて右も左もわからなくなってしまった遥。

彼は一通り一途や押崎さんを捜すも見つからず、落胆する。そこに現れる謎の男......。

更衣室から一途いっととともに出ていくと人の流れは思っていたよりも多くなっていった。波というよりベルトコンベアのように流れていく。オレと一途の距離がどんどん遠ざかる。まあでも、目印を作ったんだし迷うことはないだろう。


 それでも大きな人の流れには逆らえない。縦に流れる人混みを横切るということがどれだけ大変かって言うのが体で理解した。目的地からどんどんと遠ざかっていく。一途の後ろ姿もまるで見えない。


もしかしてオレは迷子というものなったのか?


「一途のやつ迷子になったのか?」


強がっても一途はいない。むしろ知っているやつなんて誰もいない。そんな中で女装した男が孤独と焦りで方向感覚を失ってくる。右ってどっちだ? どっちにいけばあいつらにたどり着けるんだ? スマホを見ながらウロチョロしていると声が聞こえた。


「ど、どうかしましたか?」


すらっとした自分より背の高い男が声をかけてきた。顔は意外にもこざっぱりとした印象だが、人と話すのに慣れていないのかキョロキョロしながら小声でなにかしゃべっている。


「友人と離れまして......入口付近にもどりたくて」


「スマホとか連絡してます?」


「ラインとかしてるんですけどまだ返事がないというか」


「じゃあ別にいいんじゃないかな? その友達も大丈夫だと思って探検してるよ。 よ、よかったらぼくと一緒にコミケ見て回りませんか? かわいい子を放っておくわけにもいきませんし」


「いや、友人と行くって約束してますし、かわいい子だなんて......。自分は男ですよ」


「声ですぐ分かってましたよ。でもコミケで女装してる間はあなたはお姫様です。普通にいたら変な奴にナンパされますよ」


「まあ、見て回っている間に見つかるかもしれないし、見て回ってみます。ありがとうございました」


「えっ? 一人で行っちゃうんすか? ちょ、ちょっとクールすぎない? ねえ、きみ」


オレの手を男がとっさにつかみ取る。振り払おうとしても力が強くてどうにもならない。


「放してくれませんか? ていうか、“きみ”じゃなくてハルって名前あるんですけど」


知らない人間に名前を本名をいってはいけない。それでもこの人の強引さに頭に来てしまいつい口走る。ぼやかすようにハルとだけ伝えたが彼はいっそう食い下がってくる。


「ハルちゃん......。そうか、君とはここで出会う運命みたいだったみたいだ」


意味の分からないことというかなんかのモノマネ?のようにも捕らえられる。


手に持っていたスマホが揺れる。一途から電話だ。


「まじ一途どこいんの?」


『俺のセリフだっての! とりあえず今の場所教えてくれ』


ここがどこかなんて言われても、それが分かれば苦労しない。


「そんなこと言われても......ってちょええ!?」


ぐいぐいと引っ張ってくるひょろりとした男。彼は一点を見据えてすたすたと歩いて行く。手は痛いくらいに力強い。どんどん引っ張られる。


『おい、ハル!? どうしたんだよ!』


「いや、ちょっと......。知らない人に引っ張られてて」


『はぁ? 意味わかんねえ。とりあえず俺が見つけてやるから、それまで待ってろ!!』


そういうと急に電話が切れた。彼は地味にキレやすい。それでも行動力のあるやつだと思ってる。だからオレは待たなければならない。


「どこ連れて行こうってんですか!?」


「人のいないところ」


「いないところったって......。オレはここで待つって決めたんです。放してくださいよ!」


「それで彼がこなかったら? それじゃ来た意味ないよね。じゃあ誰と行動しても一緒だよね、霜野遥くん」


えっ!? どうしてオレの名前を? こいつと前にあったことがあるのか? いや、こんな奴知らない。初めての感覚、男に襲われる恐怖感は体全体に鳥肌を立たせる。


引っ張られる腕を放そうと何回も振り払うも力強く粘り強く引っ付いてくる。そこに違う人間の腕がすばやく男の腕を掴んでいった。


「俺の友人になんか用っすか?」


一途いっとの久しぶりに見る静かな怒り。彼は怒ると大声で叫ぶと言うより静かに燃え盛るキャンプファイヤーのようだ。一途はオレに言い寄ってきた男の腕をそのまま男の背中に回して警察官のまねごとをしていた。


「イテテテテ......。ギブギブ、まったくオタクは手加減をしらなイ、テテテテ! わかった、わかったよ」


男を突き放し、オレの目の前に突っ立って頬をつねる。


「おはふらふん(おだくらくん)、おほっへまふ?(おこってます?)」


「方向音痴が迷うな、バーカ。だからこんな変な奴に掴まるんだよ、気を付けろよな」


「すまん......」


あたりを見回すと言い寄ってきたすらっとした男はいなくなっていた。一体なんだったんだ? コミケの洗礼恐ろしすぎるだろ......。うなだれていると一途が俺の手を引っ張ってきた。


「これで、迷子になんねえだろ。さっさと押崎さんと合流しようぜ」


「え、あ、ああ」


さっきの男とは違って優しく引っ張り上げる。一途を見上げると、彼の背中が少しかっこよく見えた。目をこする。そんなわけはない、そうじゃないと思いつつも彼の頼もしさを思い出に残したくて心の隅にしまう。







謎の男の正体がわからずじまいだったが無事に合流できた一途たち。

青春は短い。だから今を強く生きよう。

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