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2:二重生活はつらいよ

霜野遥は小田倉一途と同じ高校からの友人だ。二人は仲良く大学に通い続けていた。そんな遥には秘密にしていることがあった。それは「神野エルとしてVtuber活動をしていること」だった......。


「ふう、今日も配信終わりっと」


オレはマイク付きのヘッドホンを戸棚に直し、履いていたスカートと猫耳パーカーを畳んで寝巻のジャージに着替えなおした。


「こうやって女装して配信するようになったのもいつからだっけ......。いつの間にか、楽しくなっちゃったな。この格好するのも。ちゅーか一途いっとのやつ、急に押しかけやがって推しの配信炎上とかしたらどうすんだよ! ていうか、オレが推しだったら幻滅するだろ......」


一途はいつも正直でいいやつだ。俺と同じ趣味も持っているから話しやすい。それでも秘密にしなければならないことがある。それは、JKスナイパーの異名を持つ新人Vtuber『神野エル』がこのオレ、霜野遥であるってことだ。もちろん、他の大学生にも内緒だよ! この二重生活は高校からすでに始まっているんだけど、一途あいつがオレにハマっていることを知ったのはつい最近のことだ。


「はぁ、まあうまくいったからいいけど。これからも心配だなぁ」


冷蔵庫から作り置きを取り出して、適当に晩御飯をすまして配信の疲れに泥のように眠る。

これがオレのライフワークだ。


◆◇◆◇


目覚ましがけたたましくなる前に目が覚めると、少し損した気分になる。カーテンを広げて伸びをしていると、止め忘れたスマホのアラームが鳴り響く。大学生、しかも近くのアパートとなれば時間も遅くなる。とてもいい朝だ。


「さ、今日も気まずくサービスしますかぁ!!」


俺と一途の住む家はご近所さん。少し時間を早めに行動しているのは女装や配信をしていることを誰にも悟らせないため。だから今日も誰にも会わず、元気に大学名物の坂を立ちこぎして駆け上る。

 2限から来ているからか、ぱらぱらと大学生がラウンジに行き来している。2限が始まる直前までここで少し昨日の配信を見ながら反省会を始める。 立ち回りは大丈夫。会話のテンポがまだ悪いな。もう少しいろいろコメントとかも拾いたいけど、その辺はFPSゲーになると大変だな。


そうこうしているとチャイムが鳴った。急いで2限の講義室に入り、一途かれの分の席を用意する。俺を見る視線は美少女か美少年か......。どちらにせよ、奇妙な生物でも見るかのように振り向いてから席に着く。そんなにオレの顔はかわいいか? ま、実際自分も顔がかわいいとは思ったことはあるけど......。


「おまたせ」


オタクのようには見えない清廉な顔つきと服装で、一途はいつも寝ぐせをつけてやってくる。この光景が少しかわいいとも思える。別に好きってわけじゃないけど、しいて言うならおかん目線?


「また寝ぐせ、ついてるよ」


そういって彼の髪をとかしてあげると何人かの悲鳴が聞こえてくる。こちらにちょっと注目していた女の子たちだ。なんで悲鳴? よくわからんけど、彼を隣に座らせた。


「はやく座んな」


「お、おう。ありがとな」


授業ははじまると先生の子守歌のような話し方が始まっていく。多くの適当な学生は腕を組んで枕にしている。隣にいる時間ギリギリ野郎もお眠のようだ。彼の寝顔を横にオレは授業をなんとか書き留める。こいつには一応あっちでも(・・・・・)お世話になってるし、現実でもいろいろくれる。


「それでは、今日の講義はここまでにしましょう」


授業が終わると、大半の人間はゾンビのような声を出しながら伸びをする。

だが当然、隣の奴は起きない。今からお昼だと言うのにこいつは能天気だ。


一途の顔をちょんちょんと指でつつく。意外と柔らかい。

「ふにゃ」と言った後、彼は目を覚ました。


「おはよ」


「う、うわぁ//」


「なに赤くなってんの?」


「い、いや。一瞬エルちゃんに起こされたのかと思って......。それより授業は?」


「とっくに終わってるよ。お昼いくよ」


「はーい」


しゅんとした彼とともに、久しぶりの食堂。四月も二週目だというのにまだ食堂は俺たちと同じ1年生が多いようにも見える。俺たちの食事がそろったと同時に一緒に手を合わせた。


「「いただきます」」


小学生のようなノリでいただきますをして、箸を持つ。

さて、今日僕がいただくのは日替わりのハンバーグ定食。

全体的にまあまあな味付けであるながら、満腹になればそれでいいといった面の皮の厚さを感じる。それにしても一途いっとのやつはいつも決まってきつねうどんだ。

お腹減らないのかな?


一途いっと、いつもお前うどんだよな。 しかも食うのはえーし、ちゃんと食ってんのか?」


「俺ぁ小食なの。それに、ここのきつねはうまいぜ。それより、今日はエルちゃん最近流行りのホラーゲームやるんだって」


「......またVtuberのエルちゃんの話? おまえも飽きねえな」


そうだった。今日はオレの苦手なホラゲーするんだった。だってみんながやれって言うんだもん!! Utubeでもよく見るから便乗したけど、まじむりみ。今からでも配信無かったことになんねえかな。


「飽きないよ。この人、ホラー苦手なんだけどすごい頑張るんだよ。そこがいいんだよ」


まあそういわれちゃ、引き下がれないか......。


お昼を食べ終わり、一緒に帰ることにした。

別れ際に一途が遊ぼうと言ってきたが用事があると言ってごまかした。

彼は首をかしげるも、それ以上は聞かず帰ってくれた。そういう引き際の良さは尊敬するよ。


「さて、着替えますか」


今日もスカートに足を通し、ネコパーカーに袖を通す。下には女子学生風の制服も実は着ている。ほぼ姉のおさがりを勝手に持ってきている。昔は義務だとか、なりきるための道具でしかなかったけど今はただ楽しくて着てる部分もある。マイクと配信用のソフトを立ち上げて準備おっけー。


オレがワタシへと変わる時間。この時間が一番喜びに満ちてくる。イチコメにはオレの一番目のファン、【一途な一号】さん。初期から応援してくれる。やさしいお兄さん。


そして、このコメントの中にきっと一途のやつもいるんだろうな。

どういうアカウント名なんだろな......。つまんねえ名前とか中二丸出しだったら笑うけど。



神野エルは一途の最推しVtuberだ。

そして、神野エルの最大の支えであるファン「一途な一号」は小田倉一途だ。

お互いの正体も知らず、二人は今日も大学生活を謳歌していく。




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