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17:押崎さんと俺の友達

小田倉一途は押崎さんに少し惚れているのかもしれない。

童貞だから仕方ないね☆

2人があの後うまくいったのか言い出せないまま、ラインのチャット欄は一番初めに勢いで作ったグループラインのみんなの『よろしく』だけだった。ちょっと距離を詰めすぎたかもしれない。それでも、俺たちは仲良くやっていけると思っている。俺は講義室の机とノートを見つめて考え込んだ。


「くん......! 一途いっとくん!!」


ハッと気が付くと押崎さんが心配そうに顔を覗き込む。かがんでのぞき込む彼女の緩やかな首元から胸元がちらりと覗いていた。初めて会った時よりもラフな印象をうけてまじまじと見つめてしまった。そのことに気づいたのか、少し顔を赤らめて胸元を押さえて座り込んだ。


「んなぁ!? ごめん、押崎さん」


俺も固唾を飲み込んで顔をそらした。その姿の何がよかったのか、今日もスマホの連写音が止まらない。韓国語の教室だから今日は突っ込んでくる遥もいないから出血大サービスだ。


いつもの調子にも見えるけど、今日の押崎さんは不安そうにこちらをチラチラと向いている。なにかあったのだろうか?それでも、俺は話しかけれるような心拍数じゃなかった。

少し無言の時が流れて少しした後押崎さんが話を始めた。


「実は相談があって......」


なんだろう。彼女の手がモジモジと動いているのを見ると彼女の質問が聞きにくい事なんだってことがなんとなくわかった。


「どういう相談?」


「実は、遥くんにデートのお誘いを受けていて」


「へー、そうなんだ。ってええ!? 高校の時女の子の誘いをことごとく断ってた遥が?」


「うん、なぜか女装した遥さんとデートしようと向こうから言われてどうしようかと」


アイツの事だ。女装で外に出たいから押崎さんを利用したいんだろう。まあ、変な誘いではあるけど仲良くなれるなら断らせるのもおかしな話だ。それでも結局は押崎さんがどう受け取るかだ。


「押崎さんはどうしたいの?」


「男の人ともデートしたことないのにコスプレ以外で女装した人とどう接したら」


「確かにね......。俺も初めにあいつの女装姿見たときはびっくりしたよ。でもちょっと思ったんだ。あいつの『女装して出かけたい』っていうのは俺たちが『おしゃれして外に出たい』とかそんな感じじゃないのかなって」


「遥さんってそんな日頃女装をしてるの!? ちょっといいかも......」


「ええ? いや、そういうわけじゃないけどただの挑戦意欲とかそんなんだと思うよ!?」


なんにせよ曇っていた押崎さんの顔はいつも通りの早口と笑顔を見せていた。まぁ遥の女装が絶望的に不細工じゃないし、“ザ・女装”って感じもないから変には見られないと思うんだけどなぁ。


「そういえば一途くん、こんどのコミケで着るコスプレなんだけど」


「そういえば俺のコス決めてなかったな」



彼女の笑顔に俺の悪寒センサーが反応した。その予想通り、彼女のスマホには彼女の推しであるジンさんの衣装が映っている。ですよねぇ......。


「一途くんにはこれ来て欲しい!」


「ええ......。いやぁ、でもなぁ」


「大丈夫! 一番のファンである私が太鼓判を押しているんです! しゃべらずに凛としていれば女性カメラマンに引っ張りだこだよ!!」


そういうもんなのかなぁ? 実際、鏡を見ながら授業中つけてる眼鏡をかけるけど凡人の眼鏡にしか見えない。これであの二次元かっこいいジンが現れるとは思えない。


「メイクみたいなのも少しは必要なんじゃない?」


「おお!! ちょっとやる気になってきてるねえ......。確かにそうだね。いまの一途いっとくんだとちょっとモサッとしてるからね」


「めちゃくちゃはっきり言うじゃん」


肩を落とす俺に押崎さんは俺の手を握りしめてキラキラとした目つきで語り始める。


「やってもらうにはさっぱりとしたジンくんに......。じゃなかった、一途いっとくんになって欲しいので」


「そうだな。せっかく、大学生になったんだし、ここいらでイメチェンするのもいいな」


彼女の押しの強さもあって、今のボサボサ髪からの脱却宣言をした。ファッションには疎いので髪の毛なんて短くすればいいと思っていたけど、彼女や遥にいいカッコをしたい。


店長は聞いても無駄だろうし、遥に美容院聞いてみようかな?

次回は押崎さんと遥のデートだぞ♪

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