15:俺たちの目的意識
小田倉一途は押崎香菜と霜野遥の中を取り持ちたいと思っていた。
自分ができることを考えた末にたどり着いた結論とは!
ついに俺と遥は秘密を共有する仲になった。彼の配信はエルちゃんそのものだったことに感銘を受けてますますファンになった。遥が頑張ったから俺がいる。このことを他の人に教えたい。でも、教えたくない。
「何考え事してるの?」
急に押崎さんの顔が目の前に現れた。彼女の吸い込まれるくらい純粋な黒い瞳と首を傾げたときに肩にかかる少しウェーブがかった黒髪が俺を惹きつける。
「えっ!? いや、別に......」
「どうせ、エルちゃんのことでしょ」
俺の肩を小突く遥は少しからかうようにニヤニヤと笑いかける。
「ち、ちげえし......。いつでもおm、エルちゃんのこと考えてるわけじゃないんだからねっ!」
「なにこの空間......ちょっといいかも」
押崎さんは俺たちの掛け合いを見て思わず写真を撮っていた。
「押崎さん、なにしてるの?」
「あっ、ごめんね......。いつもの癖が」
「癖?」
これは俺が弁解しないとな......。俺と二人のときは写真撮っていいと言った俺にも責任がある。
「俺が説明するよ。押崎さんは、そのおr」
「しゃ、写真が好きなんだよ! 私の趣味で、特にかっこいい男の人とか撮るの好きなんで」
「ふーん」
押崎さんはとっさに俺の口を塞いでいたけどその時彼女の胸が近くて心臓の鼓動が聞こえそうになった。その距離のバグり方にも俺の心臓もおかしくなりそうだ。授業のチャイムに救われて遥はこれ以上押崎さんに言及しようとはしなかった。代わりに隣の席である俺に遥の言葉の刃が向けられた。
「押崎さんとはどういう関係なの? まじで」
「いや、別に......。友達?」
「『友達?』って煮え切らねえな。モテねえぞ」
「それ店長に言われて傷ついてるんだからやめてくれよ。スパチャやってやんねえぞ?」
「はあ? こっちだって推しの供給無くしてもいいんだが?」
小声で喧嘩していると教授がこちらをにらみつけているように見えた。
委縮して黙り込んでいると授業がまた再開された。ふぅと二人で肩を落としてお互いに授業に集中しはじめる。授業なんかよりもずっとこの3人でバカ話したり、Vtuberの話とかしていたいなぁ。
いっそのこと3人で活動でも始めるか? いやいや、遥は絶対乗らない。押崎さんとはそこまで仲良くなれてないし、もっと仲良くなって欲しい。なにかいいアイディアはないだろうか......。
アイディアをこまねいていると教授が少し面白い話をしていた。
「この物語の重要な点は主人公と敵が同じ目標に向かって共闘するところであります。つまり、同じ目標であれば悪であれ正義であれ、どんな人間でも協力できるというテンプレートがあるのです」
同じ目標か......。オタク共通の目的と言ったらコミケ参加とかかな?
あれ、今度のコミケに参加というていで2人を結託させられんじゃね?
むふふと怪しい笑みを浮かべながら俺は、必死に教授のミミズのような黒板の文字を解読して書き写す。
隣の遥に若干変な奴認定されたような感じもするけどそんなことはどうだっていい。俺はやり遂げて見せるぞぉ!
そんなこんなで授業の鐘がなった。そして彼らに壮大な話をする時がきた。
「「コミケに向けた同好会を作る??」」
「そう! 参加しようぜ、コミケ」
遥と押崎さんはすぐに首を縦に振らなかった。二人とも個人で出るって言ったら終わりだしな......。でも3人で参加できるチャンスなんだ。逃さない手はない。
「個人で行こうと思ってたんだけど、一途くんがそういうなら私はいいよ」
意外ッ!! 押崎さんがプッシュしてくれた。後は遥を丸め込むだけだ。
「二人には悪いけど......」
「私たちと思い出、作りたくないんですか?」
「作りたくないのか? そうかそうか、君はそういうやつだったんだな......」
「やめろよ。だいたい、3人で出るったって何すんだよ。同人誌でも出す気か? 俺もお前も絵もSS描くのとかやったことないだろ」
「うん! でもコスプレならできるだろ!! それに......」
そういって、遥を連れて耳打ちした。
(公衆の面前で女装できるチャンスだぞ。やってみたくないか?)
(......。写真撮られるの恥ずかしいけど、やってみてえよ。だってオレかわいいもん)
そういって遥はウインクをした。彼の上手なウインクに心臓が飛び跳ねそうになったけど、よしこれで決まりだ。俺たちはコミケに行くぞ!!
3人は一つの目的のため同盟を組むことにした。
3人の仲はどのように変化していくのか?