14:オレの配信を見ろー!
昨日は休んで申し訳なかったです。
どうしてもやらなくちゃいけないことがある。
ストレスに耐えられなくなって言っちゃいけない相手に自分の秘密をバラしてしまった。
友達の推しはオレが築き上げたと口走った責任は、俺自身と神野エルとしてのけじめをつけなければならない。配信をやめたくない。きっと辞めると言っても彼は止めるだろう。分かっている。
ちゃんと向き合おう。
それでも照れ隠しというか、自分自身で言いたくなくて、つい女性の格好をしてしまった。一途はオレの家に来てくれるだろうか。初配信のときよりもそわそわとして家をウロチョロとしているとインターホンがなった。カメラを見ると一途が映っていた。彼の顔にも少し覚悟を決めたような面持ちがあった。
「来てくれてありがとうな。まああがれよ」
「おう」
ぎこちない会話とともに彼を家へと入れた。大学生らしいジーンズと意味の分からないクマのキャラクターのTシャツ。彼が床に座ると一言、つぶやいた。
「高2くらいから付き合い悪かったのはエルちゃんを動かすためだったんだな」
「そうだね。ジンさんとか秋津いなさんとかに憧れて芸大の姉貴に頼み込んだんだ」
「エルちゃんの衣装見せてくれたときあったよな? そんとき、つけてたバッジってグッズの初期プロットかなんかか?」
「さすがは名探偵、めざといな。そう、あれはオレがはじめに発注した案だったんだけど、最終的におまえらに行き渡ったものになったんだ」
そういうとしばらく沈黙が続いた。オレはこれ以上、こいつに何を言えばいいんだっけ。コミュニケーションってどんな風にしてたっけ。どうやって笑ってたっけ......。
「ごめん、いままで騙すようなことして......。金を返せっていうなら返すよ。もう見ないっていうならそれでいいし、いつかバレることだったんだ。やめても」
そうグチグチと言い訳ばかりしていると彼は大声で遮っていた。
「俺は今も変わらないし、推しが俺のせいで消えるのは絶対に嫌だ! むしろ、俺は続けて欲しいと思ってる! おまえは勉強も活動もちゃんとやってきたんだろ! だから俺たちはついてきたんだ。改めてお前を尊敬するよ。だから、そんな簡単にやめるだなんて言わないでくれ......」
彼は誰がエルだったとしても変わらない結論を出すだろう。変わらずに推してくれる。それがうれしかった。俺も覚悟が足りなかった。友達に自分のことを伝えることがどれだけ大変なのかを知らなかった。
「じゃあ、オレの前で見ろよ。最前列、いや超々最前列でオレの晴れ舞台を見届けてくれよ!」
「ああ、当たり前だ! いつだって見届けてやるさ。おれはお前の【一途な一号】だからな!」
ん? あれって比喩だよな? いやそんなわけがない。こいつからこの単語が出てくるということはやっぱりそういうことなんだろうか。でも、あいつは俺が推しだってことは知らなかったはずだ。
「一途な一号って......」
「おう、俺のアカウント名だ。知らなかったのか?」
「ええええええええええええええええええええええ!?」
オレは目が飛び出そうになった。でも一途がどれくらいのファンかなんて関係ない。あいつはオレの秘密を知っても友達として、一人のファンとして接してくれようとしてる。今度はオレの番だ。
オレはパソコンを取り出して配信画面をつけ、ヘッドホンのマイクを握りしめた。
ロックバンドの歌手のようにオレは、彼女に命を吹き込む。すべては配信を見てくれているファンのみんなのために、そして目の前にいる一途なファンのために。
引き続き、小鳥 遊とその作品をよろしくお願いします。