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13:俺の推しと俺の友達

俺の友達は俺の推しだった。

その事実が重くのしかかる。

ただ、純粋に知りたくなかった。でも、知ってしまった。

一途は考えのまとまらないままバイトで体を動かして逃げていた。

俺の推しはすでに近くにいた。

親友である霜野遥が神野エルということが判明して、数日。俺はまだその真実を受け入れられていない。

あいつが嘘を言っているようには見えなかった。

彼のスマホのアカウント名はちゃんと神野エルVtuberの名前が書かれていた。


俺はなんで知ってしまったんだろう。

あいつはどうしてあそこまで追い詰められていたんだろう。


言葉が見つからないまま、午後のバイトが始まった。

店長が俺のどうしようもない顔を見てため息をついている。


「また悩んでる顔してるわね」


「はい、重症です」


「どうして休まなかったの? 体調悪そうだけど」


「いや、むしろ体を動かしていろいろ忘れたくて」


「そうね、嫌なこととかあったら動きたくなるわよね。なら今日はテキパキ働きなさい! アタシがめっちゃシゴイてあげる」


忘れよう、彼のためにも。

忘れよう、自分のために。


そうやって自分に言い聞かせて、自分で納得して、ジュースを並べる。

レジに人影を数人見たので急いで戻るとそこには清楚な女子高生がいた。この辺に高校はなかった気がする。それにその顔を俺はなんとなく見たことある気がした。


「レジ打ちのお兄さん、イケメンっすねぇ」


慣れ慣れしい口ぶりで話しかけてくる女子高生。その声を俺はどこかで聞いたことがある。大胆にも遥が俺のバイト先で女装してやってきたのだ。平常心でレジ打ちしていると遥は俺に紙きれを渡してきた。


「一途、ちゃんと話そう」


耳元でささやく声は遥そのものだった。女子高生のようにキャピキャピと手を振って帰っていった。あいつの情緒がよくわからない。それでも、自分自身で行くのが怖くて、自分を偽ってでも俺に言いたいことがあったのだろう。


「なに? あの子、知り合い?」


「この間言った友達です。そして、モヤモヤの元凶」


「なるほどね。紙にはなんて?」


「バイトが終わったらあいつの家に来いって汚い字で」


正直行こうか迷っている。どうすれば良いかなんてわからない。友達が自分の推しだったなんて考えたくもない。別に幻滅してるわけじゃない。ただ、純粋に推してきた人間として知りたくなかった。知りたくても知りえない情報を俺が知ってよかったのだろうかとも思っている。


「迷ってるわね、アンタ。そうやってウジウジしてたらモテないわよ!!」 


「も、モテッ......!?」


モテない。そんなの今は関係ないでしょ!!相手は男だし、俺の友達だし......。


「相手が男だからって、なんにも決めないでダラダラと行くつもりなんてしてないでしょうね」


「決めるってなにを」


「何があったかは知らないけどね、どういう面して会うかくらいは考えなさい!」


考える、か。友達のことで悩んだことなんてなかったし、推しのことで悩んだことなんて一つもなかった。ただ可愛かったから推した。友達になりたいと思ったから、友達になった。むしろ、いままで彼が頑張ってたから、俺は頑張れた。あいつが背中を押してくれたから楽しい時間が増えている。それを伝えたい。


「俺、決めました。友達として、あいつのことをもっと知るために行きます」


「ちょっといい顔になったじゃない。さ、さっさと仕事片づけてあの子の元へ行かなくちゃね?」


「はい!」


バイトの終わる時間になり、店長にお礼を言って自転車を立ちこぎしてあいつの元へ駆け上がる。

霜野遥は俺の友達で俺の推しだ。それ以上でも俺以下でもない。だからこそ、俺は一途なファン一号としてエルちゃんを応援したいし、遥と一緒に大学生活を友達として送りたい。両立は難しいかもしれないけど、きっと俺たちなら大丈夫。確証はないけど、俺はペダルを思い切り踏み込んで前に進んだ。

逃げない。そう決めた一途は遥の元へ駆けつける。

遥も一途から逃げようとせずに曲がりなりにも彼に自分というものを見せていきたいと思い始める。

彼らの青春はさらに加速する。

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