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12/122

12:二つは一つに

遥の気が抜けてしまったのかはわからないがアクシデントは突然起こる。

彼は一途にSOSをむける。

雑談やゲームをこなすたび、女装をする機会が増えた。少ないながらも外に出歩けるようにもなった。

授業に寝坊しそうになったとき、慌ててスカートを履きそうになったときもあった。それでも一途以外にはバレていない。

そのせいもあってか、昨日は寝間着に着替えていたと思ったはずなのにまだ女装したままだ。

着替えようとしたその時、とんでもない腹痛が走った。生ものに当たったような気分の悪さと吐き気で体中に悪寒が走る。


「お、お寿司が原因か? そんなわけないよな」


とにかく、頭痛もするし、風邪って言う可能性もある。熱を測ってみよう。

オレは引き出しから体温計を取り出した。少し体を落ち着けて体温計を脇に挟む。


しばらく天井を眺めた。

こんな時、一途がいたら助かるんだけど、いつも片付いている部屋じゃなくて、がっつり防音つけている配信部屋だもんな。きっと質問攻めしてくる。


ピピピ......ピピピピ......。


体温計を見ると37.5度だった。やばい、間違いなく風邪だ。風邪薬なんてあったっけ?

頭がボーっとする。これはもう緊急事態だ。一途に来てもらおう。


『一途、申し訳ないけど風邪で動けん。たすけてくれ。 鍵は開けとく』


もう、いっそのこと俺があいつの推しだってバレてもいい。早く、助けてくれ。俺は......。



「か......。るか、遥!! 大丈夫か、遥!! すごい熱だぞ!」


「おお、一途か。遅かったな」


「とりあえず、ボカリスエットと市販だけど風邪薬買ってきた。あと、おかゆセット......」


「悪い。ありがとう。 後は、自分で」


「ふざけんな! 病人はとりま寝てろ!!」


彼の力強い腕がオレをベッドに沈めた。こういう時の一途は頼りになる。

彼はお昼としてレトルトのおかゆを用意してくれた。



「ごはんくらいは自分で食べれるか?」


「男にあーんはされたくないね。大丈夫」


おかゆがあたたかくて身に染みる。水と一緒に出て行ってしまった水分を取り戻す。なんで風邪なんて引いちまったんだろう。昨日の勝利でだいぶストレスから解放されたから? 寝冷え? もうそんなことはどうでもいい。


「ところでさ、ハルって寝間着も女の格好なのか? というか、この部屋いつもと違うよな。なんというか実況者の部屋公開で見る防音吸収材あるし」


「まあ、いろいろとね」


やっぱり、言い出せない。こいつの理想を俺の嘘で崩したくない。でも、配信中に倒れたら誰が助けてくれる? アクシデントがあったら誰がオレを守ってくれる? またこんなことがあったら、しかも大丈夫だと思って配信したら、それこそばれてしまうんじゃないか? 


というか、今日も配信じゃなかったっけ......。

とにかく、こいつにはもう情けない姿は見せられない。友人として、何よりも配信者として。


「ごめん、もういいよ。帰って」


「なんだよ、そっけないな。まだふらつてるだろ、病院くらい連れ添わせろ」


やめてくれ、もう帰ってくれ。オレはお前の期待に応えなくちゃいけないんだ。こんなことがあってもオレは配信したいと思っている。だから、見ないでくれ。


感染うつしたらいやだ」


「固いな。どうしてだよ、いて欲しくないのかよ」


当たり前だろ、配信しないと、お前が残念がるし、ますます疑いがかかるだろ! 理想を崩さないためにもやらなくちゃいけないんだよ。


「そうだよ。だって、オレが配信者で......。エルちゃんだから、配信しないとだろ! お前に一番いて欲しくないんだよ! 一番のファンを語るお前に情けない姿を見せたくないんだろうが!!」


つい、本音を出してしまった。そして、最低な暴露だ。いつでもいう機会があった。これが終わった後でもよかった。それでも彼はオレに優しかった。


「そんなの今はどうでもいいだろ!! 配信なんて休んじまえばいいだろうが! 俺は、推しのやせ我慢なんか見たくねえ! 親友ならなおさら見たくねえよ。 寝ろ!! 俺たちはお前の配信が見たいだけじゃない。お前の楽しむ姿が見たいんだよ。だから、ちょっと休もうぜ。ハルカ」


知らず知らずのうちに俺は目から涙がこぼれ落ちていた。枕濡れて気持ち悪かった。嬉しくて、辛くて、温かった。俺は最低限のマナーとしてスマホのつぶやきで正直にはなして配信を休むことにした。

彼の言う通り、オレのファンは温かった。突然のお休みに批判されることもなく、ゆっくり休んでねというリプライが多かった。それが、ほんとにつよく印象に残った。


多分、この先ずっとこのことは忘れないと思う。一途がいたから乗り越えられたことがある。友達として怒ってくれたから、まじめに応援してくれたファンだったから怒ってくれた。それがいつまでたっても心に残った。

唐突な暴露に曇ることなく対応できた一途。


すんなりと受け入れられたわけもなく、彼は戸惑いを見せる。

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