11:配信仲間と遊ぼう!
遥は配信のために今日もゲームを一生懸命にこなす。
彼のもう一人の恩人は彼のためにつくしている。
今日は待ちに待ったジンさんとのコラボ配信だ。
オレがゲームをしているとボイスチャットからいつもの元気のない挨拶が聞こえた。
「げんきぃ? ハルちゃん」
「お疲れ様でーす。仁さん」
鷹野 仁さんは神野エルがオレであることを唯一知る人物だ。Vtuberの先輩で、事務所に入った時やもろもろの相談事に乗ってもらった二人目の恩人である。そして、FPSの立ち回りがとんでもなくうまい。
「今日はどうする? Epexランク戦でいいんだよね」
「そうですね。今日生き残れればランク上がれるんで」
「おっけー。がんばろうね」
配信の準備が整い、チームとしてオレたち二人はホストルームで配信を始める。
『聞こえてるかな? 画面とか大丈夫?』
コメントから大丈夫という声が多数届く。コメントもしっかり見えている。大丈夫みたいだ。
『じゃあ、始めよっか。 こんばんは、今日もあなたのハートをロックオン♪ JKスナイパーの神野エルです! 今日はコラボでEpexやりまーす』
『まーす。JINでーす。エルちゃんとえるちゃんねるのみんなよろしく』
【一途な一号】:二人の共闘楽しみです!!
【kana0909】:今日もジンくんがカッコいい姿みたい
さて、マッチングが終わると早速、マップから降下地点を選ぶ。戦闘になりやすい中心部分より端を狙うのが安定した定石だとオレは思っている。支援ボックスからハンドガンやライフルを取り出していく。ジンくんは救急箱と手りゅう弾、閃光弾を中心に装備していく。
『ドロ―ン出すねぇ』
敵の偵察、かく乱を得意戦術とするジンさんのキャラクターはひっそりと他のプレイヤーの動きを確認していく。ジンさんのクリアリングで敵と極端に遭遇しなくてすんでいる。同じくらいか、それ以上のゲーミングスキルを持った人間がここに集っていると考えると手が震えてコントロールが鈍る。
俺はよくスナイパーを使っている。自分ではうまいとは思っていない。単純にスコープを覗いた先の敵を打ち抜く爽快感を味わいたかった。静かなところで打ち抜くのはいいが、敵が多すぎると近接戦は免れない。だからこそ、ハンドガンとナイフが必要になってくる。
『射程にいるんで下、狙い撃ちます』
『おっけー。来たら言うね』
一人、また一人とキル数が増えていく。マップにいる人数も減ってきた。人が減るとスナイパーは勝ちやすい。近代的でいりくんだ構造の多いゲームならなおさらスナイパーの狙いやすいスポットがある。
ジンさんからの声掛けがないってことは二人組!?
『だったらそこに潜伏してるやつを狙うよね!!』
『あ、ごめん。一人漏れた!』
スコープを覗くのをやめて正解だった。人が少なくなることのデメリットは狙われやすくなることだ。ハンドガンに切り替えて相手を威嚇する。素早い動きで敵は交わしていく。相手はナイフや飛び道具の多いアサシン。クナイなようなものを投げて少しHPが減った。そんなことは気にしたら負けだ。
『おりゃああああああ!!』
ナイフじゃ勝ち目がない。さっき敵が落とした銃剣を取り出した。銃剣の剣先でアサシンの短剣を受けた後、払いのけて相手の体に剣をさして引金を引いた。
『やるねえ。エルちゃん。さすが、JKスナイパー』
『さっきのは完全にスナイパーのムーブじゃなかったけどね。あれ?』
どうやらさっきのが最後の生き残りだったらしい。 夢中で気づいてなかった。画面には[YOU SURVIVE] の文字の後、ランクが上がったの文字があでやかに画面を彩った。
『やったぁーーーーー!! みんな、勝ったよ!!』
配信はオレ達の勝利で事なきを得た。負けても次は頑張ろう楽しかったねでもいいんだけど、やっぱり勝つ方が楽しい。無事にすべてが終わって勝利に浸っていると仁さんから連絡が入った。
『今日はおめでとう。これでお寿司でも食べて』
チャットが流れるとそこには寿司チェーンの宅配割引が張られていた。仁さんはオレを弟のようにかわいがってくれる優しい兄のような存在だ。彼から受けたものはなんでもありがたい。
『ありがとうございます!! いただきます』
俺はそれを受け取ってお寿司を頼んだ。
お寿司なんていつ以来だろう。それこそ、誕生日だったり、特別なイベントのときくらいだろう。
今日はお寿司がとてもおいしい。大学生の青春はこういう豪遊をしてもだれも怒らないところにある。
それを噛み締めて、風呂に入って眠った。
遥自身の勝利は思いがけないアクシデントを生んでしまう。
彼の意識の高さが障壁となるか、あるいは......。




