10:俺と彼女の推しは似てない。
小田倉一途はなぜか押崎さんの元へお呼ばれされてしまったのだ!!
そして著者は話数を間違える!!
すまん!
一体どうしてこうなったんだ?
今、俺は講義が終わって彼女の部屋にいる。彼女は特に他意はなく呼んだのだろうけど、これは俺史上最大のイベントだ。たとえそれが明日のコラボ先であるジンくんを知るための強化合宿だったとしても。
始まりは何かは分からないが、自分の推しのグッズの話だったかそれともコラボ先を知らないまま挑もうとした自分の落ち度か......。その両方が彼女の地雷と向上心を生んだのか、彼女はイキイキとした表情でパソコンをプロジェクターにつなげている。
「い、いつもそのプロジェクターで見てるの?」
いつも以上に声が上ずっているのが自分でもわかる。なんて情けない声なんだ。
「ん? ううん、普段は映画を見るときに使ってる。お父さんがくれたんだ。でも今日は一途くんのためにジンくんの動画を見せるね。プレゼンは任せて!! あ、後その辺のグッズ触っても大丈夫なおさわり用だからどんどん手に取って見てね」
ジンさんはエルちゃんよりも早くに事務所に所属していたからグッズ展開も多い。二頭身になったキーチェーンやバッジ、そして壁紙やポスターだ。彼女の部屋にはジンくんのポスターやらアニメのポスターが張られてある。ここまでくるとオタクの信頼感が違う。これはただのオタク友達の家、オタク友達の家......。落ち着くんだ。
「ほんとにジンくんが好きなんだね。こういう生活憧れるなぁ、一体どういうバイトしたら」
「えっ!? ああ、まあいろいろバイトしてたら貯まるのは貯まるよ」
なんだろう言いにくいバイトでもやってるのかな? そういえばハルの奴もやけに金持ちだよな。
全然気にしてなかったけどゲームとか多分、他の高校生より多いし、最新のソフトをそろえるのもやたら早い気もしていた。普通に流行に敏感なタイプだと思ってたけど、気になりだしら違和感が残る。
そう考えているとジンくんが初めてUtubeに投稿した自己紹介動画が始まった。
そうすると押崎さんは動画を一度止め、解説を始めた。
「では、まずはじめにジン君がはじめて降り立ったときの動画を見てもらいます。彼の推しポイント気だるそうな話し方に注目しましょう!!」
そういった後、彼女はパソコンのマウスをクリックした。
『えーと、みなさんこんばんはー。なんとなくVtuber始めましたー、一ノ瀬ジンと申しまーす。気軽にジンでいいっす。後何言ったらいいんだろ』
なんというか、すごい適当そうな人だなぁ。ていうか、一ノ瀬ジンって名前だったの?
「あれ、名前......」
「いい所に気づいたね、一途くん! 実は1ヶ月だけ彼は一ノ瀬ジンだったんだ。でも、なんか一ノ瀬も言いたくなくなったからって理由で今のJINになったの! とてもいいね」
「ん? なにが?」
ダメだ、完全に“何かはよくわからんけどとりあえずヨシ!”状態になってる! 推しだとよくあるんだよなぁ。俺もセリフ甘噛みするエルちゃんかわいいと思っちゃうもん。そして相変わらず写真を撮るのが早い。
それからひたすらジンくんのEpex配信を見たり、彼のグッズについて解説してまるで偉人館に来ているみたいだった。彼女はそこの案内人。とても上手とは言えない案内人は、俺と言う旅人を沼に落とし込む。そんな彼女が少し俺に似てるとも思った。なんどもハルにエルちゃんの良い所を紹介したし、切り抜き動画を見せてきた。
「ど、どうでしたか? 私のプレゼンは!? 明日の予習になりましたか?」
「プレゼンはまあ、そこまでだけど熱意は伝わった。確かにこの人投げうまいね」
「投げるときに毎回『ひょいっと』っていうのが可愛いんです」
彼女の恋をしているような顔にグッときた。でも彼女のその感情は恋じゃない。それは俺も分かっている。その人を見届けたい、空気となって見守りたい。応援したいという気持ちが『推し』という曖昧なものなんだと思う。俺はエルちゃんが推しだし、彼女はジンくんが推しであるように人には推しがたくさんある。 そんな推しがいっぱいあるから俺たちは今日も楽しく財布のひもを緩ませている。彼女との時間は同志として嬉しい時間だった。
これからも彼女と同じ時間を過ごしてみたい。でも、時間はそれを許さない。
「長居しすぎちゃった、時間もあれだし今日は帰るね。じゃあ」
「あの......」
「どうしたの?」
「今度は、一途くんの部屋に遊びに行っていいですか? もちろん、今日みたいに友達として」
「わかった。じゃあ、また今度ね」
キョロキョロと動かし続ける彼女の瞳に俺はまっすぐとした心で受け止めた。
友達。そう、友達だから俺の推しのグッズを見て欲しい。俺の推しを知って欲しい。お互いにそうだと信じて彼女の部屋を後にした。
すいませんでしたーーーー!!!