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1:俺の推し活

小田倉一途は大学1年生だ。ある日はアルバイトに汗水を垂らし、ある日は学業に専念するごく普通の男だ。そんな彼には変えがたい趣味があった。それは「Vtuberの配信を見ること」。

彼は暇さえあれば配信に参加してコメントを残したり、時にはスパチャを投げて応援していたのだった。

 俺のパソコンの前では、可愛らしい女子高生が自分に手を振り笑顔を振りまいていく。

自分の好きな時間もこれで終わってしまうのかと思うと寂しくなってしまう。


『今日は配信に来てくれてありがとね♪ じゃあまたえる~』


はぁ......。今日も可愛い声で癒されるなエルちゃん。

そして俺の財布もモロに寂しくなる......。さらば、1万円。ありがとう、1万円。

スパチャ欄に赤く輝く俺のアカウント名、【一途な1号】

楽しい配信が終わり、ふと見るとパソコンの時間は夜の12時を回っていた。 明日の講義は1限必修か......。

寝るか。目覚まし時計のアラームを起動させてゴロンと自分の布団に転がり込む。

もう知らない天井には慣れている。おやすみ、エルちゃん。


◇◆◇◆


ピピピ、ピピピ、ピピピ......。


目覚ましがなった。半目になりながらアパートのカーテンをあけると日が差して否が応でも目が覚める。朝ごはんのパンをトースターで焼いた。実家とは違うこのワンフロアの解放感は少し気に入っている。パンをさっくりと食べ終えて、ゆっくりと身支度を済ませて大学近くのアパートから自転車で駆け上がる。

大学名物の坂道を前にしたところで自転車を降りて押しながら走っていく。


「うおおおおおお! まだ間に合え!!!!」


自転車を駐輪場に止めて講義のある教室へひた走る。

もうこんな生活はなれてしまった。別に時間にルーズというわけじゃないし、準備が遅いのでもない。ただ、時間が早すぎるんだ。


「はあ、はぁ......。ギリギリセーフかぁ?」


チャイムとともに教室の後ろから入った俺は、誰にも気づかれまいとひっそりと友人を探す。

それに気づいた友人は、イスに乗せていたバッグを下ろしていた。


「席取りありがとうな、ハル」


美少年のような顔立ちのハル、もとい霜野しもの はるかはいつも俺より早く授業に出て俺の分の出席カードを取ってくれている。こいつが女ならほんとに彼女にしてやってもいいくらい優しくて気が利く奴だ。


一途いっと......。お前、もっと早く目覚ましかけろよな」


「ごめん。後でジュースおごるから」


そういった後、俺はノートを取り出して黒板に書かれたことや先生の言葉をメモして90分間を過ごした。授業終了のチャイムが鳴ると俺たちは自販機に直行した。


「ハル、なにがいい?」


「うーん、ミルクティーでももらおうかな」


彼にミルクティーを差し上げた。彼の飲む姿はどう見てもテレビのCMみたいに様に輝いている。

俺とハルはさらに2限を根気で集中して今日の分をやりきった。

2限後、俺はハルを食堂に誘おうと思ったら隣にはもう彼の姿はなかった。


「あれ? 今日は昼は食べて帰らないのかな?」


 とぼとぼと一人食堂に直行し、少し寂しくうどんをすする。

きつねあげが少し甘くておいしい。......にしてもあいつ、もうちょっと付き合いよくてもいいのによお! なんですぐいなくなってしまうん?


「ごちそうさまでした!」


さて、このあとなんもないがどうしよう。今日はバイトシフト入ってないし......。

唐突にハルの家に行こうカナ?? どうせハルも暇だろうし、前に家突してもゲームしてただけだったし。 


「よし、行くか!!」


俺は鼻歌まじりで駐輪場へ向かった。自転車に乗り、下り坂を気持ちよく駆け下りつつハルの住むアパートへと向かっていく。俺とハルは徒歩でも行ける距離の別々のアパートに住んでから便利なもんだ。それに、あいつの部屋は俺と違ってパソコン以外にも最新のゲーム機とかもあるからある意味彼の家は秘密基地のようになっている。


ピーンポーン


インターホンを鳴らすがハルから返答がない。物音一つしない。

留守か? まさか、バイトを? いや、あのハルがか? ありえんなぁ......。


扉の前で少し悩んでいると、中からドタドタっと物音がし始めた。

え、なんか取り込み中? それとも別の事故か?


「大丈夫か? ハル? おい、返事しろ!」


ドンドンと扉を叩いていくうちに、部屋の中の物音がやんで静かになった。居留守を使うような奴じゃないし、本当になにかヤバいことが起きたら連絡してくるだろう。今日は出直そう。


「突然来て悪かったって。今日は機嫌が悪そうだから帰るな」


そう言い残して、俺は自分のアパートへと戻る。自分の借りた部屋の玄関前には【小田倉おだくら 一途いっと】と自分の宛名の書かれた荷物が届いていた。


「そっか、今日はグッズの一次予約が到着する日だったか」


部屋の中に入り、早速荷物を開けるとそこには可愛らしい缶バッチが入っていた。俺の推し、神野エルちゃんの初めての公式グッズだ。先着順だったので争奪戦を制したファンの証ともいえるだろう。 あああああ! めっちゃ可愛いいいいいいい!! 公式絵じゃなくてデフォルメされたエルちゃんだけど、キュートな目がウインクしてる!! 素晴らしいものをありがとう!!

おっと、鑑賞会は後だ。14時からFPSゲームの配信があるんだった。


「やべ、もう始まってるんじゃね?」


パソコンからUtubeを開いてみて見ると、エルちゃんも少し遅れて配信していたらしい。


『ごめんね、ちょっと変な人に押し入られそうになって配信遅れちゃった。今日はEpexで優勝してやるもんね!』


なんなんだそいつ!! ファンだとしたらふとどきな奴だ。というか、どうやってエルちゃんの家特定したんだようらやm......。けしからん、とっちめてやる!


『それでも、今日は絶対負けないもんね!! よし、改めて気合入れていくぜぇ!!』


彼女のFPSゲームのセンスが光る。彼女のエイム力と運で見つけた武器で相手をどんどん屠っていく。俺はFPSって、ここまガチでやらないし上手いわけじゃないから、上手い人のプレイを見るのは心地いい。


『目標をセンターに入れて相手のゴールにシューーーーッ!』


その言葉と共に相手プレイヤーにヘッドショットがキレイに決まる。

彼女の言葉のセンスも好きだ。まるで、男友達みたいだ。


「いや、相変わらず面白いなぁ。プレイもすごいけど」


 最近は彼女自身の作った切り抜き動画も相まって、彼女の面白さを知ってくれる人が増えてるように感じる。俺が高2のときに応援していたころとは大違いだ。感慨深くなっていたところで彼女の配信の画面には『YOU SURVIVE』の文字がシンプルに有終の美を飾っていた。


「っしゃあ!! これで個人ランク上がったんじゃない?」


えるちゃんと一緒に一人で大盛り上がりする。この時間が一番の癒しだ。


¥10,000【一途な一号】『プラチナランクおめでとう!! 今日はお赤飯だ!』


俺は、健全に一途に彼女を応援するファン第一号【一途な一号】だ。

自分の打ち込んだ赤いコメントが今日来た視聴者リスナーとエルちゃんに伝わっていく。

エルちゃんも、リスナーも、俺のことを常連の一人だとは認識しているようで、いつもスパチャは読んでくれる。


そんなエルちゃんが俺の推しで、この時間が生きる上で一番の栄養だ。

物理的な栄養は日々スパチャで溶かしているせいでもやし生活だけどな......。

今日も配信が終わったところで、寂しい冷蔵庫を見つめて肩を落とす。

これがオタクの推し活だ。



次回は遥視点になります。


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