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1.篠宮家との会食。

次回でプロローグ(オープニング)終了です。

できれば、本日中に。







「見つかってよかったね!」

「は、はい……」



 数十分後。

 ボクと円は一緒に廊下を歩いている。

 彼女の髪飾りは少し奥まった場所、その端に落ちていた。なにやら用事があって急いでいたらしいのだが、その際に転んでしまったらしい。

 個人的には転んだ際、どこか擦りむかなかったかが気になったけど。



「本当に、ありがとう……です」



 朗らかに笑う円の顔を見たら、心配無用な気がした。

 とりあえず同じ会場に用があるとのことなので、ボクは戻るついでにこの子を送ることに。細々とした声で、あまり口数も多くない彼女だが、一緒に歩いていて不思議と違和感はなかった。なんというのだろうか。傍にいて気を使わない、とでも言えばいいか。


 ボクは初めて出会ったはずの少女に、そんな思いを抱いていた。



「あ、あの……!」

「ん?」



 そんな折である。

 円がなにやら、意を決したようにそう口を開いた。

 そして、潤んだ瞳でボクの顔を見つめてくる。



「どうかした?」

「…………」



 だが、すぐに髪飾りをきゅっと握りしめて黙ってしまった。

 ボクは足を止めて、円の言葉を待つ。

 すると――。



「リュウヤァ! どこまでトイレに行ってたの!?」

「げっ……!?」



 まさしく、その瞬間だった。

 母さんが鬼の形相でこちらにやってくる。

 そして、有無を言わさず首根っこを掴まれた。



「早く! 相手の御家族が到着したのよ!!」

「ぐへぇ!? く、首が……!!」



 で、円に挨拶する暇もなく引きずられていく。

 遠くなっていく少女を見ると、唖然として立ち尽くしていた。そりゃそうだ。見るからに育ちの良さそうな円にしてみれば、ガニ股で息子を引きずる母親なんて想像もできないだろうから。ボクはそんなことを考えつつ、せめてもと思って彼女に手を振った。



「あ……」



 すると、円が小さく微笑んで手を振り返してくれたのが分かる。

 だがしかし、それに喜ぶ余裕は全然なかったのだ。







「オホホ。篠宮様、お待たせいたしました」

「………………」



 で、会場に戻って。

 ボクは無理矢理に着席させられ、ぐったりとしていた。

 母さんは完全に猫を被って作り笑いを浮かべている。もっとも、力尽きた息子を隣にして、どこまで誤魔化しきれるかは分からないが。


 ちらり、篠宮さんを見てみる。

 するとそこには、顔に深い皺をたくさん作った男性の姿があった。

 威厳がありすぎる。第一印象はそんな感じだ。



「ご婦人、気にするな。こちらも娘が遅れているのでな」



 しかし、同時に余裕に満ちている。

 蓄えた髭を撫でながら、篠宮さんは頷いた。



「ところで、九条リュウヤくん、だったかな?」

「あ、はい。そうですが……」



 そして、不意にボクに話題を振ってくる。

 どうしたのかと思って姿勢を正すと、彼はこちらを見て言った。



「ふむ。なかなか、利発そうだな。これなら――」

「…………?」



 思わず首を傾げてしまう。

 いったい、どういう意図があった言葉なのだろう。

 そう考えていると、どこかで扉が開く音がした。



「ふむ、どうやら娘がきたようだ」



 すると、篠宮さんはそう続ける。

 そして音のした方に目をやったので、ボクもそれを追いかけて――。



「え……!?」

「あ……」





 その娘さんと、互いに小さく声を漏らした。

 何故ならそこにいたのは、間違いなく円だったのだから……。





 


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「勢いのまま書いた短編」こちらも、よろしくお願い致します。
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