プロローグ 偶然に出会った少女。
甘々に挑戦。
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「本当に会わないと駄目なの?」
「当たり前じゃない。相手は由緒正しき名門の篠宮家の御令嬢よ? アンタは知らないでしょうけどね、これはお父さんの仕事の未来――要するにうちの将来がかかってるの!」
「ははぁ……。うちの将来、ね……」
母さんの言葉に、ボク――九条リュウヤは苦笑い。
どうやら、今回のお目通しにはボクの思いなど関係ないようだった。
「まったく。でも、どうして――」
ボクは母さんに聞こえないように独り言ちる。
曰く今日会うのは、小さな会社を経営する父さんの取引先、そのご家族とのことだった。篠宮家といえば、そういったことに興味を持てないボクでも知っている地元の名家。いくつも会社を経営しており、むしろ知らない方が難しいほどだ。
その篠宮家と父さんが、どうやってお近づきになれたのか。
絡繰りは分からない。それでも、とかく我が家にとってチャンスであるのは間違いなかった。そうなってくると、息子であり、将来的に家を継ぐであろうボクが出席するのも大切だろう。
理屈は分かる。
そう、理屈は分かるのだけど……。
「はぁ……」
「ほら、ため息ばかりついてないで。そろそろ到着されるわよ!」
ため息が止まらない。
でも、そうこうしているうちに約束の時間は迫っていた。
慣れない正装に袖を通して、居心地の悪い高級レストランの席に腰かける。そうしていると、興味がないボクでも少しばかり緊張してくるわけで……。
「母さん。ちょっと、お手洗い行ってくるよ」
「分かったわ。なるべく、早くね?」
ボクは残り僅かな時間、トイレに向かった。
こんなに広い必要があるのか、という廊下を歩く。するとその途中で、
「ん……?」
隅っこに、一人の女の子がいるのに気付いた。
見たことのない制服に袖を通した彼女は、壁際でしゃがみ込んでしまっている。そんな状態でも分かったのは、その子がとても小柄である、ということ。そして、床についてしまいそうな長いサラサラの黒髪をしていることだ。
ボクはどうしたのかと思い、その子に声をかけることにした。
「ねぇ、どうしかしたのかな?」
「え……?」
何の気なし、軽くそう話しかけると心底驚いたように女の子は振り返る。
そして視線の高さを同じくしたボクの顔を、じっと見つめるのだ。
そんな女の子の顔立ちを見て、こちらは思わず――。
「…………!」
その子の、あまりの美しさに息を呑んだ。
透き通るような円らな瞳に、整った目鼻顔立ち。
まるで人形のように美しい彼女に、ボクは言葉を失いかけた。だが――。
「な、なにか困りごとかな?」
どうにか、そう訊ねた。
すると彼女は、悲し気な表情を浮かべて言う。
「髪飾り、落としたんです」――と。
そして、少し長い前髪をかき分けた。
なるほど。何者かは分からないけれども、この女の子はとにかく困っているようだ。それなら、ここで無視するわけにはいかないだろう。
ボクは少し考えてから、彼女にこう名乗った。
「ボクは九条リュウヤ! キミの名前は?」
「え、わたし……?」
手を差し出すと、女の子は少し困惑した表情をした後に口を開く。
こちらを恥ずかしげに見ながら、静かにこう言った。
「円……です」――と。
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