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おまけ



 公園のベンチに座ってサンドイッチを食べる。それが僕の趣味というか、息抜きだった。常時誰かと接しているから、たまにはこういう一人で思い出に浸りながら食事でもしないと気が狂いそうになるからだ。演技をするためには、ブレない自分を持つことも大切な要素の一つだ。


(アレックス様もちゃんとご飯食べてるかなぁ……)


 自分の人生目標を改めて明確にする。いつか彼に会うために、僕は遠回りを選んだ。


 天気の良い休日だけあって、公園には多くの人間がくつろいでいた。しかし時間帯は昼食には少し早い。この時間から穏やかに過ごすのは、親子か老人ぐらいのものだ。


 そんな中。


「――――あら?」


 ふと、少し離れた場所に座っていた女性が声を発した。


「……ん?」


「まぁエミール。よく私を見つけられたわね」


 それは天使だった。


 真白いワンピース。真白くて大きな帽子。まるで1900年代の小説に出てきそうな、可憐なお嬢様がそこにはいた。


「………………やぁ、ようやく見つけたよ」


 咄嗟にそんな嘘をつく。確か彼女は「困っていたことが会ったら自分を探し出せ」と言っていた。あれから数年。そしてこの美貌。落ち着いた様子。なおかつ一人で出歩いていること。間違いなく彼女は【成功】したのだ。


 だとしたら利用価値がある。知らない仲ではないし、僕の人脈に加えておいて損は無いだろう。そんな判断を僕は瞬時に下した。


 だけど流石というか何というか、天使はクスクスと笑って、


「なぁんだ。偶然出会っただけなのね」


 とあっさりと看破してみせたのであった。


「……いや、そうでもないよ。ほんの十秒前に君を探そうと決意したばかりさ」


「まぁお上手。クスクス」


 相変わらず美しい。もしも帽子が無かったら、鳩も寄ってくるだろうって勢いだ。


「それでエミールは、いま何をしているの?」


 サンドイッチを食べてるよ、なんて間抜けな返事はしない。僕は端的に自分の人生目標を口にした。


「ご主人様に捨てられちゃったから、なんとかして元サヤに戻ろうとして」


「まぁ。それはあの時の男性?」


「そうだよ。物の見事に捨てられたけどね。最高の里親と、最高の環境と、結構なお金だけを残して」


「ロマンティックな話しね」


 天使はそう言って帽子を取った。


 瞬間、あたりの空気が停止する。


 威圧ではない。荘厳……神々しい? いつぞやよりも更に手が付けられなくなっている。


 色んな人間を見てきたけど、このオーラは見たことのないタイプだ。どっちかっていうとマーブルヒーローズ辺りに出てきそうな、そんな嘘くささがある。


 僕がポーカーフェイスの下で警戒・・していると、天使は再び笑顔を浮かべた。


「合格よエミール。相変わらずあなたはステキね。その精度の危機感を持てる人間は貴重よ?」


「……それはどうも」


「本当に困ったことがあったら、一度だけ助けてあげる。そういう約束だったわね。今はどう? 何か困ってない?」


「……いいや。現状は特に。自分を磨いてる最中だよ」


「それはステキね。ええ、とってもステキ。だったら今回は保留ね。困った時はここに連絡なさい」


 天使は小さなポーチから紙切れを取りだして、サラサラと電話番号をしたためた。


「…………重ねてどうも。ただ返済しきれるかどうか」


「まぁ。あなたはきちんと返してくれるつもりなの?」


「借りたら返す。当たり前の話でしょ?」


「ふふっ。そうね。でも私の回りにはそんなタイプいないわ」


「マジかよ」


 いよいよ恐怖を覚えそうになったので、僕はアレックス様の口調を真似ることにした。あの人は最強だからだ。


「アンタ相手に踏み倒そうって人間がいるのか? とんでもない命知らずだな」


「逆よ。みんなが私に捧げ物をしてくれるの。誰も『返して』なんて言ってこないのよ。とっても不思議」


「幸せそうで何よりだ。で、アンタは今何をしているんだ? 優雅にお散歩か?」


「ねぇエミール。その喋り方はあなたには似合わない。もっと素直になって?」


「怖ッ」


 だめだ。勝ち目が無い。そう判断した僕は早々に白旗を上げた。


「分かったよ。降参だ。もう少し人間的に成長したら、その時は会話が成立するかもしれないって感じしかしない」


「よくってよ。その日を楽しみにしている」


「それで、話しを戻すけど今は何をしてるの? 少なくとも奴隷には見えない」


「なにかしら? 毎日普通に生きてるわよ。色々な人には会うけれど、基本的には退屈してる」


 それは良くない。非常に良くない。僕は反射的にそう思った。


 こんな異様な人間が、退屈を覚えるだなんて。


「だから面白いお話しがあったら、是非とも教えてちょうだいね?」


「も、もちろん。せいぜい君が楽しそうな話しを集めておくよ。そういうのは得意なんだ」


 思わずそう言ってしまったが、これは悪手だとすぐに気がついた。僕が集められる情報程度、彼女がちらりと誰かに視線を送るだけで集めてしまうだろうから。


 よし、話を変えよう。


「しかし君みたいな人が普通に生きる、ね。…………世界征服とか目論まないで、そのままの君でいてね」


「あはっ。さっそく最高のジョークをありがとう」


「いや本当に。なんか超能力でも持ってるの? コツがあったら教えてほしい」


 天使は帽子をかぶり直して、そっと立ち上がった。


「だとしたら、どうしてあなたには通用しないのかしらね?」


 人差し指を唇に当てて、彼女は柔らかくウィンクしてみせた。だめだ。これは手強いなんてレベルじゃない。関わった時点で負けな気がする。


「…………さようなら。今度会った時は、名前が聞けるぐらいには成長しておくよ」


「ええ。是非ともそうしてちょうだい。さようならエミール」



 こうして彼女は去った。


 ただの恐怖体験にしか思えなかった。



 恐怖を覚えるのは、相手が未知だからだ。


 なので僕は人脈を駆使して、彼女の情報を集めてみた。結果は散々。ほとんど何も出てこない。けれど薄く広く、時に深く。様々な情報を集めるにあたって、年を追うごとに彼女の輪郭がようやく浮かんでくるようになった。


 曰く、天使のような女がいる。


 その一言で僕は理解した。やっぱりアレは違う次元の怪物だと。何故なら政治家もマフィアも似たような情報しか持っていなかったのだから。




 だけどその日は来た。


 アレックス様の会社が芳しくないことはもう知っていた。倒産寸前だと聞く前から、既に僕は彼を助ける準備を始めていた。


 というか「いっそ倒産しろ」とすら思っていた。そうすれば彼は困る。困り果てる。そこを颯爽と救うわけだ。その時アレックス様はどんな目で僕を見てくれるだろうか。


 だけど世界の情勢はどんどん変化していって、僕が持つ手札も相当な弱体化を果たした。使える人材が減り、信用が通じなくなり、何もかもがジリジリと限界を迎えて弾けていくようだった。


 そんな折り、僕はとある情報を掴んだ。


 アレックス様が金策のために、闇オークションに出るという情報だ。


 かなり精度が悪い情報だった。出所は彼の親会社に潜ませている僕の情報源、現CEOの秘書だ。しかも薄らとしか聴き取れなかったという、かなり不確かな情報。



 だけど迷いは無かった。


 正直に言おう。大チャンスだと思った。


 だから僕は、彼女に連絡を入れたのだった。



「手を借りたい。目的は一つ。それを達成するために必要な手段は多数。人と金と知恵を貸してほしい」


『いいわよ』


「先に言っておくね。どれぐらい借りるのかも、返済の仕方も分からない。ぶっちゃけると僕の全財産は四百万ドルぐらいしかない。なんなら無駄足になるかもしれない。それでもいい?」


『いいわよ』


「――――――――もしかして、蜘蛛の網に獲物がかかるのを見るのが好きなタイプ?」



 天使は爆笑しながら『最高ねエミール』と言ったのであった。


 どうやらまだまだ、彼女の名は聞けそうになかった。




 聞くところによると、彼女は本物の石油王と結婚したらしい。


 ――――たぶん嘘だと思うけど。




【サイコパス天使ちゃんさん編 おわり】










 エミール 「あ、アレックスは僕のことが好きらしいから、一緒に寝てあげる」




https://32901.mitemin.net/i461387/

挿絵(By みてみん)




 漫画家であらせられる「坂本あきら」先生がエミール君を書いてくれました! Sideエミールは全部この絵が原動力で書かれています!


 坂本先生が絵を担当されているコミック版『復讐を希う最強勇者は、闇の力で殲滅無双する』の第二巻も発売しますので是非ともご覧下さい!



https://bookwalker.jp/de846abe89-5004-4d19-9158-668927ab5df5/


https://bookwalker.jp/de05c5811d-d600-444a-859a-80cf350025bb/





というわけで、ボーイズラブと言っていいのかどうか分からない仕上がりになりましたが、いかがでしたでしょうか。この騒動の暇つぶしの一環にでもなれば幸いです。


よろしければ感想等をいただけると大変嬉しく思います。


一言でもいいので......!





また、別の作品ではありますが普通のファンタジー小説も書いておりますので、よろしければ作者ページから飛んでいただけると幸いです。



ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございました!



(完結から数ヶ月。後日談書きました)



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