プロローグ:はじまりのとき
「はぁっ、はぁっ……。」
深い森の中を走り抜ける一人の青年。
しきりに背後を気にする彼は、突然足を止めた。
「先回り……されてたか。」
彼が呟くと同時に、木陰から白衣を纏った男が一人。
数体の『ドール』を連れて現れた。
「これは、これは。社長自ら私を追って来られるとは。」
「それだけ……。あの『ドール』には価値があるということだ。」
沈黙が広がる。
どれくらいの時が経ったのか。
白衣の男は口を開いた。
「あの『ドール』を。IS-M-02を渡してもらおうか。」
「嫌だって言ったら?」
瞬間。
白衣の男の表情が厳しくなり、周りの『ドール』が身構える。
「やっぱりそう来ますか。」
そう言うと、青年はポケットから煙草を取り出し火を点けた。
煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「この状況でよくもまぁ、落ち着いていられるな。」
「焦ったって、何も解決しないだろ。」
そう呟き、もう一度ゆっくりと煙を吸い込む。
「悪いが断る。」
「ほぅ……。」
「あいつは渡せない。昇、お前だけにはな。」
「理解できんな。」
「それはこっちの台詞だ。」
おもむろに腕を上げ指を鳴らす昇。
刹那、周りで構えていた『ドール』達が一斉に飛びかかる。
「……甘いな。」
そう呟くと同時に、青年は地面に小さな機械を叩きつける。
辺りに激しい閃光が広がり『ドール』達はその場に倒れていった。
「悪いな、昇!勝負は一旦お預けだ。」
そう言うと、青年は素早くその場から立ち去った。
「強烈な磁場を発生させ『ドール』の心臓部をショートさせたか……。」
そう呟くと、昇は数歩進み再び足を止める。
「やはり駄目だな。こんな機械仕掛けのドールでは……。」