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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
96/208

94 電光雷轟

「行くぞッ」


ブラッド・レインの体から複数の赤い“線”が伸びる。


「血を操るのか…」


先端は鎌状の刃物となっており、高速でブラッドの体の周囲を動き回っている。


シュンッ


空を切る音をさせて、鋭い攻撃がきた。

身を屈めて躱す。

相手は間髪入れず、二撃、三撃と繰り出してくる。


ナツキは賢眼をフル稼働させていた。


魔力な微妙な動きから、次の攻撃を予想できるため、躱すこと自体は容易い。

しかし、これでは体力を奪われ続けるだけだ。


風刃(ウィンドカッター)


ナツキの作り出した風で、木の葉が舞い上がる。

空気をスライスするような音がして、線状の血液が断ち切れた。


「やるじゃないか」


ブラッドがにたにた笑っている。


あの表情は楽しんでいるだけではないな。

獲物が罠にかかるのを待っている眼だ。


地面に飛び散った血液には、いまだに魔力が残っていた。

そして、時限式の魔法式が組まれている。


(油断したら、これが襲ってくるんだな)


氷玉(アイスボール)


ナツキは地面に氷魔法を放った。

地面に広がる血液が凍りつく。


ブラッドの片目がピクッと反応した。


「お前、よくぞ見抜いたな」

「そんな見え透いた罠にかかるわけないだろ」


「…ふむ。お前、見えているな?」


ニヤァっと笑った。


今のやりとりで、賢眼の能力を察したようだ。

能力の全貌は把握できていないだろうが、魔法式を見破る能力はバレただろう。


「まったく、羽虫が自ら火に飛び込む姿が好きなんだが、直接攻撃をするしかないようだ」


ブラッドが右手を大きく後ろに振りかぶり、返す手でブンっと横に薙ぎ払った。


真紅の斬撃が真っ直ぐ飛んでくる。


炎盾(フレイムシールド)


ナツキは目の前に体サイズの盾を作り出した。

斬撃が衝突し、斜めに割れが入る。


一撃で盾が壊された。


「なんちゅう威力だ…」


舌打ちが止まらない。


斬撃の硬さは鋼鉄並、それでいて変幻自在に液状を維持しているのもあり、炎魔法は相性が悪そうだ。


「どんどん行くぞ」


ブラッドは楽しそうな表情で斬撃を次から次へと飛ばしてくる。


いくら血を使っても、失血でダメージを受けている様子がない。

イザベラ以上に不気味だ。


いつのまにか、血の斬撃を飛ばしつつ、先ほどと同様の鎌まで作り出している。


「ははは。いつまで躱せるかな」

「倒すまでさ」

「羽虫のくせに吠えるねぇ」

「俺が羽虫なら、お前は地を這う蜘蛛ってところか」


状況は決して優勢ではないが、口では負けていないという意気を見せる。


ナツキは不敵に笑った。


今のところ、こいつは血を媒体にした魔法・魔術しかつかっていない。

他に攻撃手段があるかわからないが、これを利用しない手はないだろう。


ナツキは攻撃を躱しつつ、多重魔法式を展開した。

魔法式の数は5つ。

氷魔法が2つ、炎魔法が1つ、水魔法が1つ、補助魔法が1つ。


(こいつは昔、ふざけて試して、師匠に叱られたっけか…)


一瞬懐かしい思い出がよぎった。

かつて、師匠に説教を食らったことを、師匠が見ている前で使う。

びっくりする顔を見るのが今から楽しみだ。


少年が悪戯をするときのような笑顔になってしまった。


「なにをする気だ?」


ブラッドが怪訝な顔をむけてくる。


ナツキは氷魔法を生み出した直後に、炎魔法で相殺し、水を作成した。

大量に生み出された水を、水魔法で水蒸気へと変える。


ズドン!


水蒸気爆発が起き、木の葉と土が舞い上がる。

上空に氷魔法を展開し、急激に水蒸気を冷やした。


湖の畔には巨大な積乱雲のような塊ができ、ナツキとブラッドを包み込む。

雲の中で、急激に冷やされて生み出された氷の粒がぶつかり合い、激しく摩擦を起こす。


ナツキは防御魔法を自分と師匠に展開した。


「あなた…まさか…」


この時点で師匠も察したようだ。

眼を丸くさせている。


ゴロゴロ…


雲の中では摩擦によって電気がたまっていく。


「ウガァア!」


ブラッドが叫び声をあげた。


どうやら、電撃によるダメージを受けているようだ。


カッ!


落雷だ。

雲が許容量を超え、雷が地面に向かって落ちる。


血液は電気を通す。


自分の血液を蜘蛛の足のように広げていたブラッドは、そこら中から雷を集めていた。

いくら耐久力自慢だとしても、これは堪えるはずだ。


「ゥ…ウォおぁぉオ!?」


バチバチと身体から激しい火花が散り、黒焦げになっていく。


雲が消えると同時に、地面にどさっと落ちた。


指先だけがぴくぴくと動いている。


「わっはっは。いやぁ、思ったより、威力が高かったな…」


大成功したことでナツキの笑い声が響く。


「あなた…二度とやらないと誓ったわよね」


後ろから冷たい視線を感じる。


「なんだよ!窮地を乗り切ったからいいだろ」


「まったく、本当に私を困らす天才ね、ナツキは」


片手で頭を抱えつつ、少しため息を吐いているようだ。

しかし、口元がふっと笑った。


「でも、ありがとう。立派になったわね」


ジョナが手放しで弟子を褒めることはめったにない。

ナツキはむず痒い気持ちになった。


「うへぇッ!?やめろよ。慣れないことを言うの」


今でも困惑するくらい見た目の違う師匠が、けたけたと笑っている。




ドォン!



背後から、すさまじい殺気と魔力を感じた。


肩越しに振り返ると、ブラッドが立ち上がっている。


「今のは効いた…久々に痛みを思い出したぜ…」


ぶつぶつと小さく呟いている。

さきほどまでの陽気な雰囲気はない。


カッと目を見開き、ナツキを睨んできた。


「許さんぞォ!殺してくれる!」


あまりにも濃い魔力がゴゴゴ…と地響きのような音を立てて、立ち昇っている。


「あっちゃー、あれでも倒せないとか、どうすりゃいいんだ」


頭をボリボリ掻きつつ、愚痴をこぼすナツキだった。


ブラッドの身体の周りには、無数の深紅の玉が浮き出てきた。


血の支配(ブラッディロード)


無数の玉は、倒れている兵隊たちへと一直線に向かっていった。

ブシュッと音を鳴らし、身体に穴を開け、体内へと侵入したようだ。


「おいおい…一体何をする気だ」


「ふん…全力で排除してやる」


「ブラッド…!私の予備を勝手に!」


イザベラだけが察しているようで不満を口にしている。

ブラッドは意に介さず、無視している。


倒れていた兵士たちが、ゆらぁっと立ち上がった。


眼は一様に白目をむいている。


ゴッ


突風が吹いた。

傀儡となった全員の体からも、濃い魔力が立ち昇っている。


強ければいいってものではない。

生命維持に支障をきたすほど、強制的に全魔力を開放しているようだ。

まったく動かずに倒れたままの兵士もいる。

おそらく、死んでしまった者は操作できないのだろう。


最も手前で倒れていた男に関しては、漆黒の獅子へと姿を変えていった。


(あいつは見覚えがあるな…確か、モリス侯爵の家にいた呪法を用いた魔法使い…)


死んだとばかり思っていたが、一命をとりとめていたようだ。

もはや、“人”として生きているか定かではないが。


「…お前、まさか…」

「くくく。死ね」


ブラッドの合図とともに、全員が一斉に攻撃の構えをとった。


どうやら、血を媒介にして他者を強制的に支配し、武器として使うようだ。

外道なこと、この上ない。


しかし、少なく見積もっても50人はいる狂戦士ならぬ狂魔法使い。

加えて大型の獣が一体。

そして、それを従えた邪悪な魔力を纏う軍団長。


こっちは傷ついた師匠を入れても2人。


(さすがにヤベェな…)


ナツキの背筋を冷たい汗が流れた。


ナツキが背水の陣で、大群を迎撃しようと構えた途端―――



水玉(アクアボール)


ズドンと轟音が鳴った。

湖の水から巨大な水魔法が飛び出し、漆黒の獅子を横へと吹っ飛ばした。


虚生(デッドスピリット)


倒れていた残りの兵士たちが突如起き上がった。

よろよろと身体を動かし、先に起き上がったブラッドの操作する兵士たちに攻撃をしかける。


「なんだァ…?」


ブラッドが横を睨んだ。


「こらぁ!ナツキィ!置いていくなんて許さないから!」

「…ふふッ。優雅に加勢いたします」


大声を張りあげながら、ミユが突撃してきた。

眼が本気で怒っている。


ファウストに関しては、無理して走ったせいだろうか。

よりいっそうげっそりしている。

口上だけは頼もしいが…。


「あら、あの子があなたと旅をしている女の子?可愛いじゃない」


後ろから師匠の呑気な言葉が聞こえた。

と言うか、なぜそれを知っているんだ。


仕事の影響で、更新時間が遅くなりすみません。

明日も、少し遅くなります。

明後日以降は、昼間に更新できると思います。

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