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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
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86 賢者の弟子③



――これは、私の可愛い3人の弟子の話。



ロック山脈の北側にある“マンチェスの森”は今日も穏やかだった。

森の中心地にある湖の畔で、3人の青年が談笑している。


その様子を“賢者”ジョナは微笑みながら見つめていた。


3人の弟子はジョナのもとで学び続けた。

全員、年は15歳になったばかり。


1人は生真面目、1人は我が道を行くタイプ、1人は若干面倒くさがりだったものの、全員のびのびと育ってくれた。


今日は大事な話があると言ってある。


ジョナは談笑する3人に向かって歩みをすすめた。


「みんな、揃っているようね」


3人の顔がジョナへと向いた。


「なんだよ、ババァ大事な話って」


真先に返事をしたのはナツキ。

大事な話と聞いて緊張しているのか、少し顔がこわばっている。


悪態をつくのは緊張をほぐすためだろう。

いつもであればジョナは叱りつけるところだが、今日は微笑んだまま見つめた。


それが逆にナツキには意外だったようで、あたふたとしはじめた。


「な…なんだよ…こええな。またどこかひどい場所に修行にいく話かよ」


ひどい言われようだ。全て良かれと思って修行をつけてきたのに。


3人が10歳を超えてからの修行は、少しだけ厳しかったのは事実。

魔法学校では絶対教えない課外授業ではあった。

それこそ、五星ギルドの任務並の課題を組んだつもりだ。


ロック山脈にいるブルードラゴンを3人で倒す修行と、アースエレメンタルを素手のみで倒せと言った修行は、さすがにやりすぎだったかしら…。


「まァ、師匠は私たちがギリギリ無理なことを言ってきますからね」

「ったくよぉ…現地で経験値を積めばいいって発想はやめてほしいぜ」


シグマが笑いながらナツキに話しかけた。

この子は勉強熱心で、ずっとコツコツと積み上げてきた。

しかし、戦闘においては、サボり癖のあるナツキと大体互角の成績なのもあって、ナツキの方が強いと考えているきらいがある。


ジョナはどんな過酷な修行であっても、こっそりと影から見守っていた。


ナツキは事あるごとに、過酷な現場に放り込む師匠を「性格が悪い」と非難してきた。


そんな過去もよき思い出。


ジョナは瞑目しながら、この十数年来を振り返った。

たまらず、涙が眦ににじんだ。


それを見た3人の弟子がギョッとしていた。


(お…おい…“鬼ババァの目にも涙”か!?こんなのはじめてだぞ…マジでヤバいやつじゃないか)

(たしかに師匠は一体どうしたのか…)

(黙って聞こう)


…3人は念話でこっそり会話している。

傍受されているなどと知らないせいか、ちゃっかり悪口を言っているものまでいる。


「あーぁ…次はなにをするんだよ」


沈黙に耐えきれなかったのか、ナツキが質問してきた。


「私が教えることはもうないわ。これからは各々が自らの道を定めて歩んでほしい」


ジョナは3人の弟子の成長を心から喜んでいた。


立派な魔法使いに育ってくれた。

実力、知識ともに、どんな場所でも活躍できるほどに。



「どういうことですか?我々に自立しろと?」


シグマが問いかけてきた。


「えぇ、その通りよ。歳をとるとだめね。涙脆くなっちゃう」


「おいおい。冗談はやめろって、なにをすればいいのか見当つかないぞ」


「それを知るところからはじめることね。できれば常識に縛られずに、独りよがりな人生ではなく、誰かのために、世のためにできることを考えて行動してほしいところね」



3人で視線をあわせながら、どうしようか…と念話で話し合っている。


「正解なんてないわ。自分の目で世界を知って、道を見定めて、切り開いていくのが人生だから」


「おい、バーーー」


「んー?」


何度も許容されると思ったら大間違い。

ナツキはジョナと目があった途端話を中断した。


「師匠。常識に縛られるなとか言われてもさ、常識すら知らないぞ」


「それを知るところからはじめてもいいのよ」


ナツキが固まっている。


(こりゃ、嫌だと言ってもだめそうだ。ババァは一度決めたら簡単には覆さないもんな)

(いつかはここを出て広い世界を見てみたいと思っていたが、今日がその日ということか)

(俺はそろそろ自分の強さを試したかった。ちょうどいいさ)


……


暫く、そっとしておいたら、弟子3人で語り合っていたようだ。


その後、1人はエディン領へ、1人はドルト領へ、もう1人は適当に旅すると言って出て行った。


「歩む道に躓いたときに、帰ってきてもいいからね」


ジョナは微笑みながら3人を送り出した。


「どうせなら楽しい人生にするさ」


ナツキが不敵な笑顔で返事をする。

ナツキは懐からチャキっと音をさせながら、丸眼鏡をかけた。


(あの子、私のものを勝手に…まァ、いいでしょう)


ジョナは3人の背中が見えなくなるまで、湖の畔でたたずんでいた。


……



「夢か…」


ジョナは久しぶりに穏やかな目覚めだった。


「懐かしいわね。あの頃の夢をみるなんて」


寝台から出て、ローブを羽織る。


昨日から煮込んでおいたスープをあたため、紅茶を煎れた。

ほっと一息つき、3人の弟子たちがどうしているか物思いにふける。


(!)


何者かが、結界を通り抜けた気配がした。

ジョナは棲み家の周囲に結界を張っている。

エディンの追手から逃れるためにつくったものだが、20年以上突破されたことはなかった。


それも、上空から通り抜けてきた気配がする。


懐かしき魔力の気配。


(これは…ずいぶんと成長したようね)


ブォン…


結界をとおった者が、家の前に舞い降りた気配がした。


キィィ


ゆっくりと扉が開く。


「久しぶりね。シグマ」

「師匠、ただいま」


以前よりも髪が伸びているが、優しい垂れ目が健在で、ジョナは少しほっとした。


ほっとしたのはシグマも同じようで、シグマのまとう張りつめた空気が少し和らいだのを感じた。

しかし、顔には思いつめたような表所が浮かんでいた。

なにやら苦悩を抱えているらしい。


「丁度紅茶を煎れていたの。ゆっくり話を聞かせて」

「ありがとう。今日は師匠に相談したいことがあったんだ」


用意した椅子にシグマが座った。


紅茶を一口飲んだあと。

ジョナの目をまっすぐ見つめながら、旅に出たあとの話を語りだした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この人が師匠のジョナ・・・。遂に登場したか。 しかし、最後の弟子は今はどこに?
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