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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
84/208

82 動乱の爪痕①

ナツキとミユは一路ランスへと向かっていた。

現在の位置は、中央平原の北端に差しかかるところだ。


(おかしいな、そろそろランス村なのに、人気がない)


ランスは牧畜を中心に生活をしている。

町に近づくにつれ、平原で牧畜をする住民たちを目にするはず。

しかし、ランス村が近づいているにも関わらず、住居から立ちのぼる煙も、牧畜民も一向に姿が見えない。


ナツキは不安な気持ちで歩いていた。


「私はランスはじめてだから、少し楽しみね。どんな人がいるのかしら」

「牧歌的な町だから、人柄も穏やかな人が多いな。“紅”が拠点を置いてからは、魔物による被害も出ていないと聞く」


ミユはうきうきした様子で微笑んでいる。


「紅って噂だと過激な連中だけど、大丈夫なの?」

「んー、王軍や五星よりは安心だと思うぞ」

「どうかしら…いきなり戦闘しかけてきたりしないわよね」

「……わからん」


ナツキは苦笑いをする。


「ちょっと…最近、理不尽な戦闘ばかりだから、ここでも戦うのは嫌よ」

「俺だって無用な戦闘はしたくないさ。だが、一つ気をつけておけ」

「なにを?」

「奴らは戦闘が、三度の飯より好きなやつらばかりだ。間違っても、実力者だなんて伝わることがないようにな」

「なんて奴らなの…」


ミユも苦笑いをした。



しゃべりながら歩いているうちに、ランス村の入り口へと到着した。


しかし、様子がおかしい。


「なんだこれは」

「ひどいわね…」


あまりの惨状に、2人で眉をひそめた。


住居は破壊しつくされ、そこら中に亡骸が野晒しにされている。


クレーターや燃え焦げた樹木など、激しい戦闘の形跡がそこら中に残されていた。


「これは大掛かりな襲撃をうけたんだろうな」


“紅の館”と呼ばれていた、町の外れの一際大きな屋敷がもっとも被害がひどかった。

建物は全壊し、残った箇所も黒く焦げている。


「誰がこんなことを…」

「うーむ、おそらくドルト軍だろうな」


紅が、エディン相手に戦闘を仕掛けたことは聞いている。

エディンの魔法ギルドや軍隊が差し向けられてもおかしくない。

しかし、まだ内政の混乱が著しいので、王都の中枢も人員を立て直している最中だ。ここまでの采配を振るう余裕はないだろう。


ここに燃え焦げている木材は、数日間雨風に晒された様子だ。


時系列から考えて、現実的にはエディンには不可能だろう。

つまり、エディン領にきていたドルト軍に襲われたと考えられる。


「ひどいことするのね…村の人まで…」


ミユが破壊された住居を見つめながら声を震わせていた。



ふと、只ならぬ気配を感じた。


ナツキは村の入口方面に目を向ける。


そこには2人の男が立っていた。

白のマントとシルクハットという場違いな出で立ちの男と、甲冑と長い刀を装備した男。


呆然した表情で、かつて村だった場所を見ている。


「どういうことだコレは…」

「くっそがッ…」


歯軋りをしながら周囲を見渡している。


一体何者であろうか。

明らかにランス村の牧畜民ではない。

ドルトの戦士と貴族といった雰囲気だ。



遠巻きに様子を伺っていると、パチっとナツキは甲冑の男と目があった。


「何者だ?」


ギロリと睨みながら問いかけてきた。


「いやぁ、旅の薬屋さ」


この名乗りも慣れたものだ。いつもの癖でへらっとしてしまう。


「怪しいやつ…」

「薬屋が”紅の館“に何の用向きでしょうか?ここに治療が必要な人間はいませんよ」


返答に迷う。

考えてみれば、燃え残った屋敷の前でたたずんでいた。

好意的に行くか、知らぬふりを決め込むか…。


「私たちはたまたま寄っただけ。本当に用件なんてないわ」


ナツキが迷っているうちにミユが返事する。


「左様ですか。それにしては2人とも、隙がありませんね」

「うむ。ただの商人とは思えぬな」

「おそらく、エディン軍の密偵が、残党狩りのために派遣されたと言ったところでしょうか」

「で、あれば、強い魔力を感じることも納得できる」


勝手に2人で話をすすめている。

しかも内容は思わしくない方へと進んでいる。


「おい、こら!勝手に間違った結論を出すな!俺たちはなにもしてないって」


必死に否定をする。


「お前たちには、ここでなにをしたのか吐いてもらう」

「それ相応の報いは受けてもらいましょう」


必死の訴えも虚しく、聞き入れてもらえないようだ。

1人は刀を抜き、1人は魔力を解放した。


「えー!なんでそうなるの!?」


ミユが両手で頭を抱えて叫ぶ。


ナツキも激しく同感であった。


「私は“悪夢(ナイトメア)”ファウスト。全力をもってあなた方を排除します」

「我が名は“斬月(ムーンスラッシャー)”ラインハルト。いくぞッ!」


ミユの不安が見事に的中した。




新聞記者ルイスは久しぶりに王都へと帰ってきた。


王都を出る時には、気乗りせず、面倒くさいと思っていた。

それどころか、記者という仕事自体も、どこか本気で向き合えていない自分がいた。


できれば魔法ギルドに所属し、住民から寄せられる依頼を達成しながら、上級魔法使いになりたかった。

しかし、魔法学校での成績は伸びなかった。


落ちこぼれとなったという意識のもとで、就職をしたのだ。

仕事に熱が入るはずもない。


今は違う。


王都に戻ってきた今は、かつてない熱気が自らの中にあふれている。


新聞記者としてやるべきことが見えた。

しかも、立ち向かう相手は国家権力。


命がいくつあっても足りないかもしれない。

それでもいいのだ。

自分で決めた。

尊敬できる人間と肩を並べて歩みたいと。


王都の入口でガーディアンの検問をうけ、通される。


「よし、がんばるぞ」


やる気が口をついて出る。


ルイスは足を一歩、二歩と進める。


「えッ…」


堪らず声を発した。

ルイスの前に異様な光景が広がっていた。


情熱に燃えた顔が、一瞬で引き攣った。


王都入口すぐの場所に、首が晒されて並んでいる。


その数13。


ルイスはその者たちと直接の面識はなかったが、それでも瞑目し、心の中で手を合わせた。


まだ、王都には動乱の爪痕が色濃く残っているようだ。


(……よーし、職場に挨拶した後は、魔法学校の取材からはじめるか)


うだつの上がらなかった地味な記者の、孤独な戦いがはじまった。


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