80 もう1つの結末①
この世から切り離された異空間。
見渡す限り漆黒の闇が広がっている。
この空間で1人の男が漂っていた。
――一体ここは空の上か、海の底か。
(いや、俺はここを知っている)
「刹め…厄介なところへ飛ばしやがって…」
小さく愚痴を吐いたのは死影のギルドマスター“破滅”カイだ。
(いや、他の魔法では阻止されただろうな…唯一の正解か)
ここは無限空間であった。
死影の誇る最強の拘束魔法。
本来であれば4人がかりで発動させる魔法。
1人で行使できるのはカイと滅のみ。
刹は命を賭して無限空間へとカイを飛ばした。
一体どうやって出たものか。
無限空間は二通りの使い道がある。
1つは個人を無限空間に飛ばすこと。
もう1つは部屋ごと飛ばすやり方。
ブラッドに対しては後者を選択した。
どちらにも一長一短がある。
後者のやり方は抵抗不可である。そのかわり、元の部屋のあった場所から解除することが可能となる。
前者のやり方は抵抗可能。しかし、一度成功させれば術者が許可しない限り、半永久的に閉じこめることができる。
自分たちで編み出した魔法とは言え、ため息をもらした。
カイの魔力であれば、異空間の出口を強制的につくることができる。
しかし、出た先がどこになるかは不明であった。
海の底か、魔界か、精神世界か、はたまた別の異空間か、選ぶことができない。
行先を決めるには“道標”が必要となる。
今回は自分の意思でここにいるわけではない。
元の世界に通じている座標を割り出すのは不可能であった。
(ここで朽ち果てるのを待つのみか…)
そう考えたところで、胸元が熱くなるを感じた。
「なんだ…?」
懐に手を入れると、鬼ノ助から受け取った割り符が熱を帯びている。
読めない文字が強い光を発していた。
カイの口元がニヤッと笑う。
「鬼ノ助よ、感謝する」
カイは魔力を解放した。
割り符の示す光を大きくする。
(――今だ!)
カイは解放した魔力の全てを使って異空間の入口を作り出した。
◆
その頃、鬼ノ助はゴディス島の南端に来ていた。
海と森の見える崖に登り、考え事をしていた。
考えているのは盟友カイのこと。
(一体、どこでなにをしてやがる)
割り符を握りしめ、魔力を込めて念話を試みたが、いくら呼びかけても反応がなかった。
睡眠や意識不明といった雰囲気ではない。
念話自体が届いていないのではないか、という違和感があった。
生きているのは間違いないが、一体どんな状態にあるのか不明であった。
チッと舌打ちし、懐から煙草を取り出し、火をつける。
フゥ…っと煙を吐いた瞬間、景色に違和感が生まれた。
目の前の空間が渦巻きだした。
渦は大きくなり、宙に漆黒の穴が生まれる。
「なんだッ…」
驚き、剣を抜いて構える。
ドサッと穴から何かが落ちてきた。
黒いマントを羽織った人間だ。
そのものはよろよろと立ち上がり、肩越しに顔を向けてきた。
「よぉ…鬼ノ助…助かったぜ」
カイであった。
「てめェ…一体どうして」
「くくく。異空間に飛ばされてしまったんだが、この割り符に救われた」
消耗が激しい様子だ。
しばらく、カイの息が整うのを待って、鬼ノ助とカイは地面に座り、語らいはじめた。
説明によれば、鬼ノ助の気配を割り符越しに感じ取り、この場所へと飛んでくることができたらしい。
空間を渡るのは至難の業だったようで、魔力のほとんどを持っていかれたという。
「なにはともあれ、無事でよかった」
「無事なものか」
「――それもそうだな。俺は王都の西地区で、劣勢となり、あわやというところを舞子に転送された。その後どうなったんだ?」
カイが押し黙る。
「お前が出た後…ーー」
カイはゆっくりと、味方が離散したあとの出来事を話した。
◆
時は再び内乱直後の王城へと戻る。
カイはセシル撃破に向かった鬼ノ助の背中を見送った。
(“刹” 聞こえるか?)
十影最後の1人に念話をとばす。
(――はッ、ここに)
(ドルトのやつらを迎撃する準備をすすめる)
(御意、急ぎ向かいます)
刹はすでに行動に移したようだった。
足止めのみであれば部下たちで問題ない。
しかし、将軍クラスが出張っていた場合には情勢は厳しくなるが――…
向かってきているのは大軍だ。
当然、将軍が率いているのだろう。
それならば、カイが自ら出陣し、相手の大将を討ち取るのがもっとも被害が少ない。
しかし、王城の外へ足を進めようとした矢先に、不穏な気配を感じとる。
展開していた魔力感知に違和感があった。
「地下か…しまった…ッ」
カイは小さく舌打ちをした。
滅と絶が通り抜けた地下方面から、大勢の気配を感じ取った。
ズン!
石材の破壊される音がして、王城が揺れた。
「うわあぁぁあ!」
死影の構成員の叫び声が聞こえる。
カイは急いで声の方へ向かった。
到着した場所で目にしたのは、見たこともない異形の魔物たち。
(やはり合成獣か…)
これからドルトを迎え撃つという時になんという事態だろう。
かと言って、放っておくこともできない。
カイは魔力を解放する。
轟音を轟かせながら、カイの体を漆黒のオーラが包み込んだ。
≪闇刃≫
カイはオーラを刃状に変形させる。
右手を薙ぎ払い、前方へと飛ばした。
「ぐぁぁ…」
合成獣たちの首が胴体から離れた。
そのまま、一振りにつき数体ずつ倒していく。
しかし、減る気配がない。
次から次へと這い出てくる。
「チッ…この状態でドルトの王都侵攻を許したらまずいな…」
王城に直接攻めてくるのであれば、まだ問題はない。
カイの戦闘スタイルは多勢に対して不利にならないからだ。
しかし、もしも出張った鬼ノ助のほうへと向かっていたとしたら深刻である。
鬼ノ助が不意打ちで攻撃を受ける上に、セシルとの挟撃に合う。
あいつの実力は疑わないが、それでも劣勢なのは変わらないだろう。
つまり、カイの優先課題はドルトの進軍阻止である。
王城の状況は放っておけないとは言え、死影の魔法使いたちならギリギリ勝てるだろう。
(死影のギルドメンバーにつぐ、王城内に現れた化け物どもを撃破しろ)
((はッ!!!))
念話で呼び掛け、複数の反応があった。
しかし、完全に後手に回っている。
すでに幹部の刹はマァム湿原に出てしまったようだ。
「む…」
カイは殺気を感じた。
ブン…
合成獣の群れの後ろから投槍がきた。
凄まじい速さであったが、カイは紙一重で回避する。
「この程度は流石に躱すか、あがくものよ」
甲冑に身を包んだ、銀髪の男が出てきた。
「テメェは何者だ?」
明かに強者の気配。
「お初お目にかかる。我はヴィルヘルム・ヴォルフ」
カイは目を剥いた。
その名はドルトの三幹部の1人であった。




