70 鬼の歩み③
“絶対者”セシルが現れた。
――カッツウォルドからもう駆け付けたのか。
魔法を封じたのに、予想を上回る速さだ。
「愚か者どもが。万死に値する」
セシルが屋上から飛び降りてきた。
羽が舞うように、ゆっくりと地上へ降り立った。
体には魔法式封印の術式が張られてある。
(どうやら、解除はまだといった様子だな。封じられていない神聖魔法と魔術で戦う気か)
「そんな状態でよく俺の前に来られたな」
鬼ノ助は強気に挑発した。
「お前は私を誰だと思っている。この程度、虫螻を殺すには、なんの枷にもならない」
「言うじゃねェか。では、最強の魔法使いの力を見せてもらおうか」
鬼ノ助は胸のベルトの短剣をセシルに投げつけた。
セシルは魔力を風に変え、短剣を横へと逸らす。
「はっ!」
掌から魔力そのものを放ってきた。
凄まじい速さ。
魔法式を封じられているので、魔力そのものを武器としているようだ。
鬼ノ助は体を捻って回避する。
「行くぞォ!」
大剣を両手で持ち、鬼ノ助は突進した。
セシルは魔力弾を次々と放ってくる。
鬼ノ助は大剣を左右に薙ぎ払いながら魔力弾を弾き、突き進んだ。
(魔法式の込められていないただの魔力弾でこの威力か…)
威力は凄まじい。
しかし、それでも鬼ノ助の進撃を止めるほどの脅威ではなかった。
鬼ノ助はセシルを間合いにとらえ、剣を縦に打ち下ろす。
ズガァン!
足元の石材が割れ砕ける音が響いた
セシルは紙一重で回避する。
「ここは私の間合いでもあるぞ」
セシルは魔力を風の刃へと変化させる。
その刃は鬼ノ助の周りを回転しながら強風を生み出す。
なんと、鬼ノ助を囲うように竜巻が生まれた。
「舐めるな」
鬼ノ助は剣を横に回転させる。
竜巻の風とは逆向きに。
2つの風の渦が乱気流を作り出し、あたりの家屋が吹き飛んだ。
「肉体のみで…常識破りなやつだ」
セシルが小さく愚痴をこぼす。
鬼ノ助は、魔力のみで竜巻を作り出す方が常識破りだと思っていた。
続いて、鬼ノ助は体内の“気”を解放した。
≪闘気解放≫
鬼ノ助の周囲を強いオーラが纏う。
あまりにも濃い密度。
壊れた家屋の瓦礫や破片が、オーラの内側でチリチリと砕けていく。
周囲で戦闘を見守っていた全ての魔法使いが息を呑んでいた。
「本気でいくぜ」
鬼ノ助はセシルを睨みつけた。
「くッ…」
魔力で防御態勢をとるが、遅い。
鬼ノ助は大剣を再び振り下ろした。
セシルに向かって巨大な剣撃が奔る。
剣撃はセシルに命中した。
しかし、体に傷は負っていない。
防御魔術でギリギリ耐えている。
斬撃はセシルごと王都を破壊しながら突き進み、ヘブンズゲートの本部を直撃した。
ひと際高くそびえ立っていた五星ギルドの建物が完全に瓦解した。
セシルは瓦礫の山の中のようだ。生死は不明。
周辺で戦っていたギルドメンバーたちの顔に絶望がひろがる。
「「セシル様!」」
ヘブンズゲートの麾下の者たちが叫んでいる。
「終いか?」
鬼ノ助は大剣を担ぎ、小さく呟いた。
ガラガラと音を立てながら、セシルが瓦礫の中から出てきた。
頭部からは血を流し、かなりダメージをうけているようだ。
フワッ…
突如、空から白い粒がゆっくりと降ってきた。
「これは…」
そこら中で魔法使いが疑問を口にしている。
雪だ。
「王都に雪だと?」
鬼ノ助は疑問を口にする。
一粒の雪が鬼ノ助の掌へとあたった。
ズォン!
「ぐぁ!」
ダメージをうけた。
氷弾をくらったような衝撃をうけた。
左手の掌が凍りつく。
雪があたった百鬼の面々も同様にダメージをうけている。
しかし、敵対している他の魔法使いたちには何も起きていない。
「なんだこれは!?」
鬼ノ助が叫んだ。
ふと、空から只ならぬ気配がした。
鬼ノ助が空へ目をむけると、翼を大きく広げた鳥が飛んでいた。
いや、人だ。
それを目撃した鬼ノ助はチッと舌打ちする。
同時に、額から汗が流れた。
「「“紺碧の鷹”だぁー!」」
そこら中で声があがった。
王直属軍、“紺碧の鷹”軍団長シグマが到着した。
鬼ノ助は空へと目をやった。
天空に巨大な魔法陣が作り出されている。
その魔法陣からゆっくりと大量の雪が生み出されていた。
それは一見なんの変哲もない雪だった。
しかし、鬼組の者たちに触れたときだけ氷弾を被弾したようなダメージを受けるのだった。
(なんてヤロウだ…)
全方位から攻撃をされ続けているようなものだ。
流石に危険すぎる。
それに加え、王都中からヘブンズゲートに加勢にきた魔法使いが次々と増えている。
まずは“紺碧の鷹”による攻撃をなんとかする必要がある。
鬼ノ助は大剣に魔力を込めた。
≪炎付加≫
大剣の刃全体が激しく燃える。
右肩に大剣を担ぎ、力を込める。
「炎飛斬」
鬼ノ助は剣を薙ぎ払った。
鬼ノ助を中心に炎の斬撃が都走る。
周囲の住居やギルド本部に横一文字の斬線が入った。
ゴォォ…
斬撃が走り抜けた後、住居に火が付き燃え広がる。
王都の西地区はみるみる火の海になった。
「凄まじい力だな…」
シグマが小さく呟いた。
これで雪はどうにかなった。
「くらえ」
セシルが掌から魔力を放ってきた。
鬼ノ助は大剣の腹で攻撃をいなす。
セシルは次々と魔力弾を放ってきた。
鬼ノ助が横に飛んで回避しようとしたその時。
足が凍りついた。
突如、氷玉が周りでパキパキと音をたてながら発動したのだ。
「なんだこれはッ…」
たまらず驚きの声が漏れる。
ズン!
足を拘束され、セシルの魔力弾をまともにくらってしまった。
「ぐぁぁ…」
後方へと吹き飛ばされる。
なんとか受け身をとり、着地した。
地に足をついた途端、再び氷玉が襲ってくる。
チッと舌打ちし、炎付加した剣で1つ1つ消していく。
空に一瞬目をやると、シグマが掌をむけてきている。
(あいつの仕業か…)
おそらく、これが雪の本当の目的。
自分の魔力をそこら中に漂わせ、いつでも氷魔法を罠のように発動する。
しかも空にいるため、こっちからの攻撃は届かない。
鬼ノ助は覚悟を決めた。
大剣を担ぎ、セシルに向け突進する。
セシルの眼がカッと開いた。
「テメェだけでも倒す…」
戦局は西地区では劣勢。
自分が倒れたら、死影に全て背負わせることになる。
それならば、せめて“最強の魔法使い”だけでも道連れにしよう。
ドォン…
突風が吹いた。
いや、衝撃波と言った方が正確である。
衝撃派は鬼ノ助へと命中する。
「ガァッ…」
鬼ノ助は飛ばされた勢いのまま、ゴロゴロと地面を転がる。
ドォン…
再び衝撃波が生まれ、西地区の燃え盛る炎を吹き飛ばした。
衝撃波の生み出された中心に、一人の男が立っていた。
長く伸ばしたうすい金色の髪が特徴的だった。
紺のマントの下に甲冑を着ている。
「何者だ…テメェ…」
「死にゆく貴様が知る必要ない…が、特別に教えてやろう。“元帥”アルバン・フォーゲル」
!!
鬼ノ助は目を剥いた。
その名はドルト三幹部の一人、ドルト軍の将軍のものであった。




