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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
72/208

70 鬼の歩み③

絶対者(アブソリュート)”セシルが現れた。


――カッツウォルドからもう駆け付けたのか。

魔法を封じたのに、予想を上回る速さだ。


「愚か者どもが。万死に値する」


セシルが屋上から飛び降りてきた。


羽が舞うように、ゆっくりと地上へ降り立った。


体には魔法式封印の術式が張られてある。


(どうやら、解除はまだといった様子だな。封じられていない神聖魔法と魔術で戦う気か)


「そんな状態でよく俺の前に来られたな」


鬼ノ助は強気に挑発した。


「お前は私を誰だと思っている。この程度、虫螻を殺すには、なんの枷にもならない」


「言うじゃねェか。では、最強の魔法使いの力を見せてもらおうか」


鬼ノ助は胸のベルトの短剣をセシルに投げつけた。


セシルは魔力を風に変え、短剣を横へと逸らす。


「はっ!」


掌から魔力そのものを放ってきた。

凄まじい速さ。

魔法式を封じられているので、魔力そのものを武器としているようだ。


鬼ノ助は体を捻って回避する。


「行くぞォ!」


大剣を両手で持ち、鬼ノ助は突進した。


セシルは魔力弾を次々と放ってくる。


鬼ノ助は大剣を左右に薙ぎ払いながら魔力弾を弾き、突き進んだ。


(魔法式の込められていないただの魔力弾でこの威力か…)


威力は凄まじい。

しかし、それでも鬼ノ助の進撃を止めるほどの脅威ではなかった。


鬼ノ助はセシルを間合いにとらえ、剣を縦に打ち下ろす。


ズガァン!


足元の石材が割れ砕ける音が響いた


セシルは紙一重で回避する。


「ここは私の間合いでもあるぞ」


セシルは魔力を風の刃へと変化させる。


その刃は鬼ノ助の周りを回転しながら強風を生み出す。


なんと、鬼ノ助を囲うように竜巻が生まれた。


「舐めるな」


鬼ノ助は剣を横に回転させる。

竜巻の風とは逆向きに。


2つの風の渦が乱気流を作り出し、あたりの家屋が吹き飛んだ。


「肉体のみで…常識破りなやつだ」


セシルが小さく愚痴をこぼす。

鬼ノ助は、魔力のみで竜巻を作り出す方が常識破りだと思っていた。


続いて、鬼ノ助は体内の“気”を解放した。


≪闘気解放≫


鬼ノ助の周囲を強いオーラが纏う。

あまりにも濃い密度。


壊れた家屋の瓦礫や破片が、オーラの内側でチリチリと砕けていく。


周囲で戦闘を見守っていた全ての魔法使いが息を呑んでいた。


「本気でいくぜ」


鬼ノ助はセシルを睨みつけた。


「くッ…」


魔力で防御態勢をとるが、遅い。


鬼ノ助は大剣を再び振り下ろした。

セシルに向かって巨大な剣撃が奔る。


剣撃はセシルに命中した。

しかし、体に傷は負っていない。

防御魔術でギリギリ耐えている。


斬撃はセシルごと王都を破壊しながら突き進み、ヘブンズゲートの本部を直撃した。


ひと際高くそびえ立っていた五星ギルドの建物が完全に瓦解した。


セシルは瓦礫の山の中のようだ。生死は不明。


周辺で戦っていたギルドメンバーたちの顔に絶望がひろがる。


「「セシル様!」」


ヘブンズゲートの麾下の者たちが叫んでいる。


「終いか?」


鬼ノ助は大剣を担ぎ、小さく呟いた。

ガラガラと音を立てながら、セシルが瓦礫の中から出てきた。

頭部からは血を流し、かなりダメージをうけているようだ。




フワッ…



突如、空から白い粒がゆっくりと降ってきた。


「これは…」


そこら中で魔法使いが疑問を口にしている。


雪だ。


「王都に雪だと?」


鬼ノ助は疑問を口にする。


一粒の雪が鬼ノ助の掌へとあたった。


ズォン!


「ぐぁ!」


ダメージをうけた。

氷弾(アイスミサイル)をくらったような衝撃をうけた。

左手の掌が凍りつく。


雪があたった百鬼の面々も同様にダメージをうけている。


しかし、敵対している他の魔法使いたちには何も起きていない。


「なんだこれは!?」


鬼ノ助が叫んだ。


ふと、空から只ならぬ気配がした。


鬼ノ助が空へ目をむけると、翼を大きく広げた鳥が飛んでいた。


いや、人だ。


それを目撃した鬼ノ助はチッと舌打ちする。

同時に、額から汗が流れた。


「「“紺碧の鷹(ブルーホーク)”だぁー!」」


そこら中で声があがった。

王直属軍、“紺碧の鷹”軍団長シグマが到着した。



鬼ノ助は空へと目をやった。


天空に巨大な魔法陣が作り出されている。


その魔法陣からゆっくりと大量の雪が生み出されていた。

それは一見なんの変哲もない雪だった。

しかし、鬼組の者たちに触れたときだけ氷弾を被弾したようなダメージを受けるのだった。


(なんてヤロウだ…)


全方位から攻撃をされ続けているようなものだ。

流石に危険すぎる。


それに加え、王都中からヘブンズゲートに加勢にきた魔法使いが次々と増えている。



まずは“紺碧の鷹”による攻撃をなんとかする必要がある。


鬼ノ助は大剣に魔力を込めた。


炎付加(エンチャント)


大剣の刃全体が激しく燃える。

右肩に大剣を担ぎ、力を込める。


「炎飛斬」


鬼ノ助は剣を薙ぎ払った。

鬼ノ助を中心に炎の斬撃が都走る。

周囲の住居やギルド本部に横一文字の斬線が入った。


ゴォォ…


斬撃が走り抜けた後、住居に火が付き燃え広がる。


王都の西地区はみるみる火の海になった。


「凄まじい力だな…」


シグマが小さく呟いた。


これで雪はどうにかなった。



「くらえ」


セシルが掌から魔力を放ってきた。

鬼ノ助は大剣の腹で攻撃をいなす。


セシルは次々と魔力弾を放ってきた。


鬼ノ助が横に飛んで回避しようとしたその時。

足が凍りついた。


突如、氷玉(アイスボール)が周りでパキパキと音をたてながら発動したのだ。


「なんだこれはッ…」


たまらず驚きの声が漏れる。


ズン!


足を拘束され、セシルの魔力弾をまともにくらってしまった。


「ぐぁぁ…」


後方へと吹き飛ばされる。


なんとか受け身をとり、着地した。

地に足をついた途端、再び氷玉が襲ってくる。


チッと舌打ちし、炎付加した剣で1つ1つ消していく。


空に一瞬目をやると、シグマが掌をむけてきている。


(あいつの仕業か…)


おそらく、これが雪の本当の目的。

自分の魔力をそこら中に漂わせ、いつでも氷魔法を罠のように発動する。

しかも空にいるため、こっちからの攻撃は届かない。


鬼ノ助は覚悟を決めた。


大剣を担ぎ、セシルに向け突進する。

セシルの眼がカッと開いた。


「テメェだけでも倒す…」


戦局は西地区では劣勢。

自分が倒れたら、死影に全て背負わせることになる。


それならば、せめて“最強の魔法使い”だけでも道連れにしよう。



ドォン…


突風が吹いた。

いや、衝撃波と言った方が正確である。


衝撃派は鬼ノ助へと命中する。


「ガァッ…」


鬼ノ助は飛ばされた勢いのまま、ゴロゴロと地面を転がる。


ドォン…


再び衝撃波が生まれ、西地区の燃え盛る炎を吹き飛ばした。


衝撃波の生み出された中心に、一人の男が立っていた。

長く伸ばしたうすい金色の髪が特徴的だった。

紺のマントの下に甲冑を着ている。


「何者だ…テメェ…」


「死にゆく貴様が知る必要ない…が、特別に教えてやろう。“元帥”アルバン・フォーゲル」


!!


鬼ノ助は目を剥いた。


その名はドルト三幹部の一人、ドルト軍の将軍のものであった。


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