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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
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66 真鍮の進撃④

ナツキは三度目の不運に頭を抱えそうになった。


これだけの短期間に、軍団長と何度も出会うなんて運がない。


いや、今回は意図せず進軍中の王軍の妨害をしてしまった。

そこから足がついたと考えた方がいい。


そして理解しがたいことに、こいつは俺を恨んでいるらしい。

おそらく蟲を殺したことに怒っているのだろう。逆恨みもいいところだ。


オーロは両手を広げた。


立ち上るオーラがゆっくりと霧状になる。


ナツキは賢眼で観察する。

褐色の魔力がゆっくりと樹脂のような色へと変わっていくのが見えた。


(まさか魔術主体とはな)


魔力の性質を変化させ、それを使って蟲を操っているのだろう。

自身の魔力自体が蟲の餌になっているようだ。


それを使って、生き物に纏わせ、捕食を誘発させるという戦闘スタイル。

はっきり言って恐ろしすぎる。


霧状の魔力に呼応するように蟲たちが服の下からうぞうぞと出てきた。

這いずり回る蟲と、羽音をさせながら飛び回る黒い蟲が大量にいる。


「き…きもちわりぃ…」


肌が粟立つ感覚を覚えながら、素直な感想が口からこぼれる。


オーロの額に青筋が浮かんだ。


「私の魔蟲を悪く言うことは許さんぞ…」


低く、深く、小さく語りかけてくる。


(もはや蟲は身内も同然か……今までにこんなやつ相手にしたことねえぞ…)


ともかく、蟲たちを撃破しなくては。



ナツキは身の回りに複数の魔力玉を作り出した。

白いオーラが段々と真紅に燃え上がる。


炎玉(ファイヤーボール)


5発の炎玉を飛ばした。


広範囲に展開している蟲を撃破するには最適の魔法だろう。



「むぅぅん!」


オーロが気合をこめ、魔法詠唱をした。


石壁(ストーンウォール)


地面から再び石の壁が複数生み出された。


魔術主体だが、地属性の魔法も使うのか。


蟲を目掛けてとんでいった炎玉が、石壁に阻まれ消えてしまう。


1発の炎球は石壁の隙間を通り抜け、魔蟲へと向かう。


「しまった…!」


オーロが小さく舌打ちをした。


ドォン!


炎玉が爆発した。


黒煙が晴れたあと、爆心地にいたのはオーロだった。


魔蟲に向けて撃ったはずなのに。蟲をかばうに飛びつき、体を張ってまで炎玉をその身に受けるとは…。


オーロの体から煙が立ちのぼる。


「この殺人鬼めェ!」


オーロの眼はすでに血走っている。


ますますもって、言っていることは理解不能である。


こいつの価値基準は独特すぎる。

まるで魔蟲を家族のように、いや、家族以上の存在のように扱っている。


オーロがいきり立って突進してきた。

凄まじい速さである。


炎弾(ファイヤーミサイル)


ナツキは掌から真紅の玉を飛ばす。


「ぬぅん!」


オーロが腕で、炎弾を弾き飛ばした。


(なるほど…地属性の魔力に炎魔法はうまくない)


魔法の選択を誤ったと反省した。


しかし、突進してくるならば、話がはやい。

ナツキは魔力を地面に向け、≪氷輪≫を準備する。


オーロが魔法陣の足を踏み入れたら発動させ、動きを封じてしまう罠を張った。


(もうすぐだ…)


ナツキは詠唱準備をした。


突如、突進中のオーロが、口をパカッと大きく開けた。


ズン!


ナツキは、腹部にまともにダメージを受けた。


「グハッ…」


ナツキは後方へとばされる。


オーロの口から、突如巨大な蟲の足が伸びてきた。

その足は、節足動物のように節くれだっていて、ジュルジュルと音をさせ、オーロの口の中へと戻っていく。


「そんな見えすいた罠にかかるワシではないぞ」


ナツキの魔法を看破した上で、攻撃してきたようだ。

予想していなかった攻撃とは言え、通常であれば躱せるところを避けきれなかった。

速さも尋常ではなかったのだ。



「はぁぁ!」


ザシュッ


里の住民が、屋根から飛び降り、剣で斬りつけた。

オーロの首筋から鮮血が迸る。


(頸動脈を斬ったか。あの出血量は致死量だな)


「悪魔め。滅びろ!」


斬りつけた男が睨んでいる。


「ワレの裁きの邪魔をするとは」


血を流すオーロが、自分の傷のことを意に介さずに応えた。

なにか、様子がおかしい。あれほどの傷で倒れないとは…


ジュクッ ジュクッ


肉を食むような音が鳴り響く。

よく見ると、オーロの首筋で糸状の蟲が蠢いていた。


「おぉぉぉ、ありがとうな。お前たちは本当に可愛いな」


オーロの蟲が、傷を縫って治療を施しているようだ。

傷口を縫い付け、すでに血は止まっている。


「ばかなっ!?」


斬りつけた男が驚いている。


オーロが再び口を大きく開けた。


ザシュッ


男が倒れた。

先ほどと同じ、巨大な蟲の足が胸を貫いている。


「ふん、餌の分際で生意気な」


オーロが蔑んだ目を男に向けている。


(どうする…こいつには炎魔法の効果は弱い。しかし、魔蟲にもっとも効果があるのは炎だ…)


魔法の選択が悩ましい。

そうとう厄介な戦闘スタイルだ。


ナツキは右手で炎玉、左手で氷玉を用意した。


オーロの動きを氷で封じ、蟲を炎撃する作戦。


「そうはさせんぞ」


オーロの魔力が蜂蜜のように地面に垂れていく。

ベトベトと音をさせながら、地面に広がっていく。


石ころや岩が、ガガッと摩擦音をさせながら、オーロの体へと集まっていく。


オーロの身体は、いつしか石と土でできた鎧に包まれていた。


魔術主体で土鎧(アーマー)をつくったということか。


「くっそ…なんてやつだ」


ナツキは氷玉をオーロに向けて放つ。

右手は空に向け、魔蟲目掛けて炎玉を放った。


オーロは突進し、氷玉を受けた後飛び上がり、炎玉をもその身にうける。


氷玉のパキパキした凍結音と、炎玉の爆発音が響く。


炎玉の爆発した煙の中から、オーロが出てきた。


鎧には小さくヒビが入っただけのようだ。


(なんて硬さだ…)


数の力で戦闘しながら、単騎としての魔術も凄まじい。


しかし、こいつの明確な弱点が分かった。

やつは、下僕として操るには蟲を大事にしすぎている。


オーロが蟲の命を軽視して戦闘を仕掛けてきたら、勝つのは困難だろう。

死を恐れない蟲たちが襲いかかってくるなど恐怖でしかない。

かなりの数を撃破しても、いつかは防御を突破されてしまいかねない。

だが、オーロは蟲が死ぬことを是としていない。


ならば、そこをつくのがよいだろう。


炎輪(フレイムサークル)


ナツキは、眼前に燃えさかる魔法陣を準備した。



「気でも狂ったか」


オーロは嘲笑した。


炎輪は基本的に対象者を封じ込め、燃やし尽くす魔法だ。

魔法陣内にターゲットが不在のまま、発動させる魔法ではない。


「これでいいのさ」


ナツキは不敵に笑う。


オーロを賢眼で観察し続けてわかったことは、霧状に飛ばした樹脂のような魔力を使って蟲を動かしていることである。

里の至るところに、鱗粉のように漂っている。


それを使わせてもらおう。


風波(ウィンドウェーブ)


ナツキは風魔法を唱えた。


集落の中を強風が吹きぬけた。

風の流れは規則正しく、ナツキの生み出した炎輪へと向かう。


「キサマッ!?」


オーロの目がカッと開く。


霧状の魔力が炎輪で燃やされていく。

その霧を追いかけるように、空を飛ぶ蟲たちが飛び込んでいった。


「ぁぁああああ!!」


オーロが叫んだ。


「ははは。漢民族の言葉では“飛んで火に入る夏の虫”って言うらしいぜ」


ナツキの声を無視し、オーロが炎輪の中へと飛び込んでいった。


「げッ…それほどかよ…」


ナツキはぎょっとした。


「お前たちィ!ぁああ!!」


炎輪の中で叫んでいる。

土の鎧の外皮がブスブスと燃えているが、そのことは気にしていないようだ。


「許さんッ…はァッ!」


怒大地(アースクエイク)


炎輪の中心地から、網状に地割れが起きた。


魔法陣の魔法式が乱れ、炎輪が消えていく。


オーロの両手には燃えて焦げた蟲がいた。


「ぁ…ア…」


悲しみと怒りをどちらともつかないような嗚咽が漏れている。


土鎧は炎輪の中に入ったこともあって、至る所にヒビが入っていた。


オーロの隻眼が、ナツキを射抜いた。


「キサマ…百度殺しても飽き足りぬ…」


歯が砕けんばかりにギリギリと鳴らしている。


(うへぇ…こいつヤバすぎる…)


攻略法は見えたものの、タフすぎる。


しかも、怒り狂っているせいで、ダメージをまるで感じていないようだ。

鎧の隙間にできた火傷は、先と同じように糸状の蟲が治療している。


オーロがゆっくりと立ち上がった。


全身を濃い魔力が覆っている。


「裁きだ…」


ナツキに向かって歩いてきた。

こいつとは間違いなく持久戦になる。


ナツキが構えようとしたその時



ザォン!


斬撃とともに、オーロに向かって直線状に地割れが走った。


「ぐァァっ!!」


オーロの体が後方へ吹き飛ぶ。


石の鎧が粉々に砕けた。

肩から腰にかけて斬撃をくらい、血飛沫をあげながら、地面に仰向けに倒れる。



「なッ…」


不意を突かれ、ナツキの口からは驚きの声が漏れた。


後ろを振り返ると、大剣を振り下ろした大男が屋根の上にいた。


オーガレギオンの鬼ノ助であった。



オーロがよろよろと起き上がり、鬼ノ助へと目をむけた。

隻眼の目がカッと開き、驚愕しているようだ。


「ば…ばかな…。なぜキサマがここにいる…」


「それはこっちの台詞だ。よくも俺の故郷を荒らしてくれたな」


お互い、まさかの出会いと言ったところだろう。


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