59 星の衝突⑧〜決着〜
――“最強の魔法使い”と 魔王の戦闘が決着した。
「ここまでのようだな」
魔王はそう宣言した。
「あぁ…」
セシルは小さく返事する。
「私の勝ちだ」
セシルの瞳に、勝利を確信した光が宿った。
「まったく見事なものだ」
ベルフェゴールの指先が、黒い砂となってサラサラと消えていく。
消えゆく片手を空にかざしながら、目を向けた。
「まさか、受肉した体のほうが持たなくなるとはな。ここまで我の攻撃を耐えるとは、正直驚いたぞ」
「さっさと魔界へ帰ってもらおうか」
「まったく、生死を分かつまで戦いたかったな。貴様とはもう一度まみえようぞ」
「それは御免だ」
ベルフェゴールの口元が笑ったように見えた。
ついには全身がサラサラと砂となり、風とともに消えていった。
ベルフェゴールが消えると、地面には黒頭巾の男が倒れていた。
セシルには、その頭巾の男の面影に見覚えがあった。
「死影の滅か…」
十影筆頭の男が、命を賭してまで魔王召喚を行なったようだ。
これで、一連の仕掛けが己を狙ったものだと確信できた。
「王都へ戻ったら、死影にはたっぷり礼をしてくれる」
起き上がり、王都の方角へと身体を向き直らせた。
「それには及ばない」
どこからともなく声がした。
セシルは身構える。
バチンッ
ゴムが切れるような音がしたかと思うと、次の瞬間、体を“束縛”された。
「くッ…」
魔王との戦闘が終わった直後で油断した。
まだ伏兵がいたとは。
魔王との戦闘は、思った以上に感知能力をも消耗させていたようだ。
周りの影が盛り上がり、4人の男が這い出てくる。
そして、4人が同時に魔法詠唱をした。
≪多重封印≫
セシルの体を魔法式が包み込む。
どうやら魔法の発動を妨害する封印魔法を展開しているようだ。
「舐めるなァ!」
≪解除≫
まず、束縛を解除した。
これで動けるようになった。
しかし、死影の4人はお構いなしで魔法詠唱を続けている。
すでに魔法式封印が体に巻きつき、魔法の発動ができない。
チッと舌打ちし、両手の掌を2人に向けた。
魔法式を組まず、魔力のみを放った。
ズォン…
鈍い音をさせ、2人の黒頭巾の男の体を吹き飛ばした。
「くッ…こいつ…」
「慌てるな!最後まで封印式を完成させろ!」
どうやらこいつらは、捨て身で私を縛ることを優先しているようだ。
「はぁぁッ!!」
セシルは再び魔力を発射し、残りの2人も吹き飛ばした。
これで、地面に倒れ込む亡骸が5つに増えた。
しかし、セシルはたまらず膝をつく。
(これは、魔法式と念話妨害か…)
二種類の封印魔法を許してしまった。
素早く撃破しなければ、さらに複数の封印をくらっていたであろう。
姿から察するに、十影の魔法使い達だろう。
死影の精鋭のうち5人を撃破できたのはよかった。
しかし、セシルも大きな代償を支払い、その身に複数の制約をうけることとなってしまった。
飛行魔法は使えない。
仲間を呼ぶこともできない。
王軍兵舎の者達も全て息絶えたようだ。
カッツウォルドの町はみる影もなく瓦礫の山となっている。
セシルはぐったりとした体をおこし、王都にむけて一歩ずつ歩みをすすめた。
◆
“破滅”カイは王城の階段をゆっくりと登っていた。
至る箇所で王軍兵士が向かってくる。
しかし、カイの近くによった途端、糸の切れた操り人形のように床へ倒れ伏していく。
カイの闇魔法≪破滅世界≫の影響である。
込めた魔力に対して、それ以下の抵抗力の魔法使いは、結界内に入った瞬間絶命する。
影移動をしながらこの魔法を使うだけで、大概の魔法使いなら一瞬で殺すことができる。
カイは不敵な笑顔で一歩一歩進んだ。
階段を登った先にある大扉に手をあてる。
扉を開けると、眼前には緋色の絨毯。
左右には20人前後の護衛兵がひしめき合っていた。
絨毯の先には数段高くそびえる王座がある。
腰かけているのは、国王タペル=ウィリアム=エディンバラその人であった。
「国王タペルよ、会いたかったぜ」
不敬にもほどがある、ふてぶてしい態度で挨拶をする。
「この痴れ者め。己のしたことを理解しているのか」
「もちろんだ。俺の自由のために死んでもらう」
カイは大胆にも護衛兵に囲まれるなか、国王の眼前で弑逆を宣言した。
周りにいる護衛兵たちが構えた。
1人ひとりの強さは、五星ギルドの幹部クラスには匹敵するほどの魔力の持ち主だ。
「愚か者め。この王城での戦闘で、私に勝てると思っているのか」
「くくく。ずっと偉そうに座っているだけのやつに、俺が負けるわけないさ」
カイの暴言をきっかけに、周りの護衛兵たちがいっせいに氷玉を放ってきた。
その数10は超えている。
しかし、すべての氷玉はカイに届くことなく消えてしまった。
「なッ…」
護衛兵たちが動揺している。
(俺の破滅世界を貫ける魔力をもったやつはいないようだな)
カイは一瞬で護衛兵たちの力を測った。
国王はカイを睥睨した。
「その邪悪な魂もろとも塵となるがよい」
掌をカイにかざし、魔法を詠唱する。
≪重力核≫
タペルが魔法詠唱をした。
カイを中心に、等身大の玉が出来上がる。
黒い渦を作り出しながら、中心点に万物を引き寄せる。
王城全体が揺れ、ブラックホールがうまれた。
「へ…陛下!」
護衛兵たちの叫びも一瞬、謁見の間に存在するすべての物が渦へと吸い込まれた。
吸い込まれる際に、鉄や肉を圧縮する独特の鈍いいやな音を響かせる。
…
ブラックホールは数十秒ほどあらゆるものを吸い込んだ。
国王が掌を下げると、ブラックホールも同時に消えた。
「他愛無い」
蔑む目で、カイのいた箇所を見つめる。
ドシュッ
なにかが刺さる音がした。
「か…ハッ…」
国王が吐血しながら椅子から倒れ、玉座の下方まで転げ落ちた。
カイは国王の座る椅子の影からズブズブと出てきた。
王座に腰掛け、悠然と頬杖をついている。
「くくく。この椅子はもらったぜ」
カイは邪悪な笑みを浮かべる。
「ばかな…なぜ生きている…」
国王が血を吐くような声で問いかけてきた。
「くくく。闇を吸い込めるわけないだろ。馬鹿が」
「なにッ…」
直後、国王の首が胴体から離れた。
王冠が地面にカランと転がる。
「こんな雑魚に、いいように実験動物にされていたとはな」
カイは国王を倒した。
これによって、死影と鬼組の反乱は一つの決着を迎えた。
◆
王城の城壁内では、死影と王軍の戦闘が激しさを増していた。
囚人たちも戦闘に加わり、大混乱となっている。
十影の刹は強者と思わしき兵をひとり、またひとりと撃破していた。
(数だけは凄まじいな…)
王直属軍は一個小隊につき1000人規模。
王都には”紅蓮の狼“と”漆黒の獅子“の軍隊が配備されているため、2000弱の兵士がいる。
いくら倒しても終わりが見えないのであった。
王軍の兵士たちも多勢であるため、いくら倒しても士気が下がる様子はない。
しかし、戦況を一変させる衝撃的な報がもたらされた。
「ぉ…おい、あれ…」
ひとりの兵士が、城壁を指差して震えだした。
周りの者が目を向ける。
刹も指差した方向へ目をやった。
視線の先には大剣を手にした“地獄鬼”鬼ノ助が立っていた。
圧倒的存在感であった。
「馬鹿な…グランドロッドと戦闘していると聞いたぞ…」
「''蜃気楼''ジョセフを撃破したというのか…」
王軍兵士たちに動揺が走っているようだ。
「はははは!鬼ノ助!さすがだな」
鬼ノ助が現れたのと反対側から笑い声が響いた。
王城の最上階から''破滅''カイが顔を見せていた。
「てめェ、ちゃんと仕事してたんだろうな」
鬼ノ助の濁声が響いた。
戦いに身を投じていた全てのものが手を止め、カイに目を向ける。
「もちろんさ。これをみろ」
カイは右手を掲げた。
そこには変わり果てた国王の姿があった。
「「うぉおおお!!」」
「「そんな…」」
歓声と絶望の声が同時に沸き起こる。
多くの兵士たちが膝をつき、死影のギルドメンバーが勝鬨をあげた。
国王が弑逆された情報は瞬く間に王都に広がった。
戦闘していた王軍兵たちは敗北を悟り、戦闘をやめた。
こうして、死影と鬼組の内乱は、初日にして成ったのであった。
「星の衝突」を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。




