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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
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57 星の衝突⑥〜巨星墜つ〜


――その光景は、すべてが現実感がなくスローモーションのように見えた。



「マスター!!!」



レオは一直線にジョセフの元へ駆け寄った。

仰向けに倒れている体を抱き起こす。



「ごふッ…」


咳とともにジョセフの口元から大量の血が吐き出された。

長い白髭が真っ赤に染まっていく。


(ソフィアはいるか!?)


レオは念話で叫んだ。

復活(リザレクション)≫の魔法が使える彼女がいれば、一命を取り留めることができるだろう。



(どうされましたか?)


ソフィアの涼やかな声が脳内で響いた。


(マスターが重傷を負った。西区の居住地帯までどれ程で到着できる!?)


ソフィアが一瞬、絶句する様子がうかがえた。


(…なんということでしょう…)


(時間がない!急いでくれ)

(おそらく間に合いませんわ…)

(なんだと…)


レオの胸の内に絶望が広がる。


(ジョセフ様の命で、中央平原に進軍したアーデル様を陰ながら見守る任務についていました。今はデールにいますので、戻るまでに3日はかかるかと)


なんということだ。


レオは絶望した。

万が一のことを考え、上位の回復魔法を使えるソフィアをアーデルのもとへ出張させていたのか。

ジョセフの孫を思いやる親心が仇となるとは…。


(事情は分かった。また連絡する)

(えぇ…)


ソフィアはまだもの問いたげな様子だったが、一方的に念話を切った。


「野郎ども!“ボロ杖”のクソどもを殲滅しろォ!」


鬼ノ助の濁声が響いた。


レオはハッと我に返り、顔を上げた。


さっきまで動揺していた百鬼夜行の連中が呼応し、再び決起しつつある。

鬼ノ助の強さを改めて認識し、感激しているようだ。



「レオ…」


ジョセフが震える手で、レオの襟を掴みながら話しかけてきた。

その目は焦点が定まらず、もうほとんど見えていないようだった。


「マスター!喋ってはなりません!」


レオは慌てて制止する。

ジョセフが口を開こうとするほどに、血があふれ出てくる。



「すま…ぬ…。アーデルを頼む…」


その言を残して、ジョセフの頭が、ガクンとレオの腕に垂れた。

レオは、今やその両手にずっしりと、ジョセフの身体の重みを感じていた。


「マスター…ッ」


レオは小さく呟いた。


――ジョセフが逝った。

最後まで孫のことを思いながら。




「一旦、退避!全軍、撤退せよ!」


レオは大声でギルドメンバーに命じた。

これ以上被害を拡大させてはならない。

それに、鬼ノ助を倒せる者がここには存在しない。


一旦体勢を立て直し、再戦を果たそう。


レオの掛け声とともに、西地区から大勢の魔法使いが撤退した。





「どりゃぁぁぁぁ!!」


王城の城門近くで大声が響く。


盗人装束の怪しい二人が、王軍相手に戦闘をしかけていた。


カイはその様子を遠目に見ていた。


「なんだアレは?」


横に控える十影の“刹”に尋ねる。


「特徴から察するに、盗賊のユウヤ・バナかと思われます。おそらく、先日捕まった囚人たちの救出に来たというところでしょう」


「ほぅ…」


カイの口元がニヤッと笑みのかたちを作った。


「囚人を解放するのか。それは面白い手だ」


王城ではそこら中で、死影のギルドメンバーと王軍兵士との戦闘が起きている。

一人ひとりの強さは死影の方が上でも、多勢に無勢であった。


この王城を制するのであれば、捕まっている人間の解放を行い、混乱に乗じるのはいい手だろう。

あわよくば、戦闘に参加させる腹積もりだ。


「”刹“!おまえは奴らの援護をしてやれ。俺は国王の元へ向かう」


「御意」


“刹”が影に潜った。


カイは踵を返し、王城の中央階段へと足をすすめた。




「くっそ…」


ギーメルは小さく愚痴を吐いた。


王都は大混乱だったため、王城に忍び込むのは簡単だった。

しかし、王城が戦場の中心地だったために、兵士の数が尋常ではなかったのが誤算だ。


しかも仲間が収監されている牢獄の位置もわからない。


「頭ァ…どうすりゃいいんだ」


「しるかぁぁぁあ!!!」


叫びながら、氷波(アイスウェーブ)で王軍兵士を撃破している。



ゾクッ


ギーメルの背中に悪寒が走った。

振り返ると、背後に黒頭巾を被った男が立っている。


「なんだてめェ…」


王軍の雑魚兵士とは比べものにならないほどの魔力なのに、気配がないことが不気味だった。


「”黒夢“の方々とお見受けします。目的は牢獄に捕まった仲間の救出でしょうか」


この戦場には場違いなほど、丁寧な口調だ。


「その通りじゃぁ!」


ユウヤが戦闘しながら返事をしている。


「では、牢獄に案内する。着いてきてくれ」


男はそう述べると、さっさと王城の奥へと歩き出した。


「おい!てめェ何者だ…」


「…失礼、申し遅れた。この暴動を起こした死影の”刹“」


ギーメルはその一言を聞いて、一瞬で身構えた。


死影と言えば、暗殺に特化した戦闘集団だ。

さっきから、周りで闇魔法を行使している奴らは何者か疑問を持っていたが、これで分かった。

その集団の幹部が自分たちの行動を手伝ってくれると言う。


「よっしゃァ!」


ユウヤが受け入れ、着いていくようだ。

さすがのギーメルも少し警戒はしたが、頭がいいなら、と思い直した。


普通なら、ここで相手を信用するかどうか、ひと悶着ありそうなものだが、ユウヤとギーメルの思考回路は、どこまでも楽観的にできているらしかった。


王城の地下へと向かう。

道中襲ってくる兵士は、刹が一瞬で息の根を止めていた。



……


「ここだ」


階段を降りた先に、重々しい鉄製の扉があった。


「これを開けるのは大変そうだぞ」


ユウヤが扉を触りながら、しかめっ面をしている。


「問題ない。下がっていてくれ」


刹が右手を扉に向ける。

黒い刃状の魔力が扉の隙間へと勢いよく放たれる。


ガキンッ


金属が割れるような音をさせながら、扉がゆっくりと開いた。


「すげぇな…」


ギーメルは素直に関心した。


「魔力の込められていない鉄製の扉など造作もない。大変なのはここからだ」


「どういうことだ?」


刹の物言いに疑問が口をついて出る。


「行けばわかる」


刹について、ユウヤとギーメルは牢獄の中へ入っていった。


中の牢獄は、鉄格子の部屋に分かれている。

鉄格子の正面には全体を包む魔法陣が描かれている。


「これは…解除魔法ができんと救えんということか」

「如何にも」


ユウヤが刹の言っていたことを理解したようだ。

ギーメルは初見では理解できなかったが、魔法によって囚人が逃げられないようになっていることは察した。


「なら任せとけ!」


ギーメルは抜刀し、牢獄の廊下を、刀身を振り回しながら突進した。

ギーメルが駆け抜けた後、全ての鉄格子の魔法陣は斬り裂かれていた。


「これはッ…」


刹が驚いているようだ。

ギーメルの持つ刀は魔力を吸収する。

魔法陣も魔力が消えては存在できない。


ギーメルの実力を物の数にも入らないと値踏みしていた刹は、ここへきて実力を測りなおしたようだった。


「ギーメルじゃないか!」


ある牢屋から叫び声がする。


「おぉ!アーリマンさん!」

「なんで王城の牢獄におまえが」

「へへへ、助けにきたぜ」


他にも十数人程の仲間が声をかけてくる。


死影の刹が、再び黒い刃状の魔法を放ち、全ての牢屋の鉄格子がいとも簡単に破壊されていた。


「まさか出られるなんて」

「一体なにが起きているんだ」


”黒夢“以外の囚人も牢屋から出てきた。


「今、タペルでは、死影と鬼組が内乱を起こしている!我らを虐げる王政打倒のため、ともに決起することを呼びかける」


刹の呼びかけが牢獄に響く。

囚人たちの間には驚きと興奮が伝染し、ざわついていた。


「オラァ!黒夢の連中は行くぞ!捕まえてくれた連中に一泡吹かせ、王城から宝を盗み出してやれ!」


ユウヤの檄とともに、黒夢のメンバーが動き出す。


それに呼応するように他の囚人たちも「やってやるか」とついて行った。


こうして、王城での死影と王軍との戦闘において、囚人たちが加わってますます王城の勢力図は混迷を深めていくのであった。




「はぁ…はぁ…」


創生(クリエーション)”チェルシーは肩で息をしていた。


チェルシーの周りには、クレーター、石壁、地割れなどが湿原の至る所にできている。



「終わりか?」


眼前で構えているクレイが問いかけてきた。


チェルシーのベルトに刺してあるカードホルダーにはあと2枚しか残っていない。


あらゆる魔法アイテムを使った攻撃を仕掛けた。

しかし、すべてを看破されてしまったのだった。


(なんて理不尽なやつなのよ…)


流石のチェルシーも、額に汗が浮かぶ。

対するクレイは、まだ余裕を持っている様子だった。


「これは王都での戦闘まで温存したかったけど、そうも言ってられないわね」


チェルシーはラスト2枚のカードを、1枚ずつ両手に持った。


ポン


煙を上げ、カードが姿を変えた。

右手には絵筆、左手にはパレットが登場した。


「また、新しい玩具ですか。もう敗北を認め、降参すればよいものを」


クレイが掌を向け、巨大な火の玉を放ってくる。


「舐めないで。“創生(クリエーション)”チェルシーの怖さを、その身に叩き込んであげる」


チェルシーは、筆を水色の絵具につけた。

左上から右下にかけ、斜めに筆を走らせる。

空中に水色の太い線が実体化し、虹のようにかかった。


ドォン!


轟音とともに、鞭の様な水魔法へと姿をかえた。


「なんだと…?」


クレイも少し驚いたようだ。


水の鞭がクレイの攻撃をかき消した。


「次はこっちからいくわよ」


チェルシーは筆に赤色の絵具をつける。


筆を縦横無尽に振り回す。

チェルシーの周りに赤色の単線がいくつも描かれていった。


その数は数十を超えただろうか。


赤い線がだんだんと揺らめきながら燃えていく。

いつのまにか矢のような形状へと変わっていた。


風を斬る音をさせながら、クレイへと飛んでいく。


クレイはいくつかを躱し、時には炎術で相殺させながら凌いでいく。


チェルシーはクレイの走る先に黄色い絵具を向けた。

網の目のように縦横に線を走らせる。


黄色い絵具は広がり、網状になってクレイへと飛んだ。


「今度は拘束(ホールド)か…」


クレイは紙一重で網を避けた。


(本当に素早いわね…ならば!)


チェルシーは複数の絵具を混ぜ合わせた。

青とも、黄色とも言える独特な光を発する色が出来上がる。


チェルシーはその絵具を筆につけ、クレイに向けて線を描いた。



バリバリと耳をつんざくような音とともに、マァム湿原が明るく光る。

たった一瞬。


青白い閃光がクレイに向かって走った。


「ぐッ…」


直後、雷鳴が轟く。


クレイの身体にバリバリと光が疾り、黒煙を上げている。


「さすがのアナタも雷を避けることはできないでしょう」


チェルシーは勝ち誇った顔を浮かべた。


「そのマジックアイテムは、描いた属性の魔法を生み出すようですね」


「ご明察。ご覧のように特殊属性の魔法すらお手の物よ」


「……」


クレイは押し黙って、観察しているようだった。


「私には時間もない。あなたはさっさと降参しなさい。全属性の魔法を使える私に、勝てるわけないわよ」


チェルシーはクレイに、降伏の勧告をした。


クレイの口元がふっと笑ったように見えた。


「全属性魔法使いね…」


「なによ。なんで笑ってるのさ」


「ふふふ。あなたを本気で倒したいと思ったからさ」


クレイの顔がニヤァと笑った。

これまであまり表情が動かなかっただけに、不気味であった。


他の戦場で起きている魔法ギルドの戦いも考えていますし、描きたいのですが、間延びしてしまうので端折ります…。


いつか番外編で書くことを考えています。

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