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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
57/208

55 星の衝突④~激戦~

王都を発って数刻ののち、セシルはカッツウォルド上空で宙に浮きながら町の様子を観察していた。


町の北側にある王軍兵舎からは、異様な魔力を解き放つ存在がいる。

その傍らには巨大な魔門が作りだされ、次々と下級悪魔が出てきているようだった。


「妙だな」


小さく呟く。


死影からの応援要請でこの地にきたが、様子がおかしい。

悪魔たちが町のいたるところで跋扈しているが、それにしては被害が少ない。

死影の面々はすでに壊滅したのであろうか。


それにしても、戦闘を行った形跡が町のどこからも感じられない。


(――やはり、予感があたったようだ)


真の狙いは不明だが、自分を誘い出すためにつくられた状況であることは察せられた。


「それならば、後悔させてやろう」


自動戦闘(オートバトル)


セシルは魔法を駆使し、自らの人格を2つに割った。

1つの人格に体の権限を委ねる。

もう1つの人格は、精神を神界へとリンクさせた。


自身の魔力すべてを解放する。

あたりには、轟音を響いた。

――“エディン最強の魔法使い”がその真の実力の一端を見せようとしていた。




「――来たな」


魔王ベルフェゴールが呟いた。


その言を聞いた十影の面々にも緊張感が走る。



ドォォォン


突如、空から隕石が降ってきた。

隕石が次々と降り注ぎ、兵舎上空に浮いていた悪魔の門を破壊する。


「これは≪隕石(メテオ)≫か。人間にしては中々やるようだ」


魔王は機嫌良く独り言をしている。


上空へ目をやると、滑空しながら下級悪魔を撃破している者がいる。


「あやつだな」


「――来たぞ!セシルだ」


セシルは飛びながら右手で炎玉、左手で氷玉を放ち、次々と悪魔を屠っている。



神怒(ラースオブゴッド)


上空に巨大な魔法陣が生まれた。

その大きさたるや町全体を包むほどであった。

魔法陣の中から、無数の光が王軍兵舎に向かって発射される。




対する魔王は片手を天に向けた。


闇噴(ダークイラプション)


地面に広がる影が、噴火したかのように立ち昇る。

黒いオーラが渦巻きながら空へと広がり、向かってくる光を包んでいく。


カッツウォルド上空で白光と暗黒の魔法が混じり合いながら、相殺されていった。


「なぜ、戦闘しながら同時に神聖魔法を展開できるのだ」


十影の1人が目を剥いている。


驚くのも無理はない。


神聖魔法は祈りや儀式などを行い、自らの心を精神世界にリンクさせる。

そのため詠唱・発動中は身体が無防備になってしまう。

単騎で発動するようなものではない。


複数の魔法使いが後衛から発動させるのが一般的であった。

しかし、セシルは単騎で行動している。

しかも通常魔法で下位悪魔を撃破しながら、神聖魔法を発動させていたのだ。



「あいつは魔法で人格を作り出し、身体を操縦させているのだろう。見事な戦闘方法だ」


魔王はセシルの行動から推測しているようだ。


「“最強の魔法使い”の名は伊達ではないな…」


十影の面々が驚愕しながら感想をこぼした。



「くはは!現世にきてこれほどの者と戦闘できるとはな。貴様らには感謝する」


ベルフェゴールは笑いながら空へ飛んだ。


闇雨(ダークレイン)


“セシル”とやらの作り出した魔法陣の上に、真っ黒な球体を生み出した。


球体はバシャァと弾ける音を鳴らし、空へと広がる。

黒炭が溶けたような雨がセシルの魔法陣を包んだ。


魔法陣は消え去り、闇雨も弾け飛んだ。

弾けた黒い魔力は舞いながら渦を作り出す。


闇竜巻(ダークトルネード)


ベルフェゴールは追撃魔法を放った。


闇雨が黒い激流の渦をつくりながら、竜巻を形成し、セシルへと襲いかかった。


セシルが魔法を詠唱している。

右手に赤いオーラ、左手に緑のオーラが濃く光を放っている。


炎暴風(フレイムストリーム)


豪炎を含んだ巨大な竜巻を生み出された。

黒と赤の2つの竜巻が住民街を破壊しながらぶつかり合う。

屋根は吹き飛び、炎と黒い雨を降らしながら、相殺した。


「これは本当に楽しめそうだ」


ベルフェゴールはこみ上げる愉悦を感じ、喉の奥でくつくつと笑った。


町中で聞こえる阿鼻叫喚の悲鳴とは対照的であった。





一方その頃。“ノスタルジア”一行は、チェルシーを先頭にマァム湿原を翔けていた。

後ろには12人の魔法使いたち。


「見えてきたわ!」


“紅”に襲撃されたノスタルジアの研究所が目視できる地点までたどり着いた。


チェルシーたちは一旦足を止める。


「さァ、戦闘準備よ!」


「「はい!」」


全員がいっせいに懐から魔石を取り出した。


それを地面に投げ捨てて埋め込む。


石像生成(ジェネレート)


魔石を埋め込んだ箇所が盛り上がっていく。

石がごりごりと削られるような音をさせながら、人間の3倍ほどもあるゴーレムがつくられた。

魔物のゴーレムのような姿だが、頭部がない。


チェルシーはカードホルダーからカードを取り出した。

片手に6枚ずつ、合計12枚のカードをいっせいに投げる。


人工ゴーレムの頭部へと刺さり、煙を立てながら粘土で作られた頭部を形成した。

頭部は開閉式の操縦席のような形状をしている。


チェルシー以外の魔法使いが飛び上がり、全員が頭部の操縦席へと座った。

魔力を込めると、人口ゴーレムの目に光がともる。


「まずは研究所奪還よ。全員、心してかかって!」


チェルシーが檄をとばす。




「ヒャーハッハッハッ!!」



突如、研究所方面から下卑た笑い声が聞こえた。


1人の男が突進してくる。


道化の仮面をした巨躯の男。

長髪が向かい風で逆立っている。


「ヒャハハ!玩具!玩具ァ!」


歓喜の声を上げながら、魔石兵たちに飛びかかってきた。


チェルシーは驚愕した。

奇襲をかけようと考えていたのに、まさか単騎に迎撃されるとは。


「こいつ!」


襲撃されたゴーレムの操縦者が叫ぶ。


道化のような男は、ゴーレムの石腕を片手で破壊した。


「なんですって!?」


チェルシーはさらに唖然とした。

弱点魔法で攻撃されるならまだしも、素手で破壊されるなど予想外であった。



「ディルク!先走りすぎだ!」


研究所方向から、別の男が走ってきた。推測するに、“紅”の精鋭部隊か。


「マリー!迎撃用意!」


「はい!」


サブ・マスターのマリーに命じ、ゴーレムに乗ったマリーが突進した。


他のメンバーはディルクと呼ばれた男と戦闘している。

11体のゴーレムに囲まれながら、凄まじい速さで動き回り、攻撃を回避している。


(なんてやつなの…あらゆる攻撃魔法に耐えれるように設計したのに、まさか素手で破壊してくるなんて)


傭兵集団“紅”の実力は聞いていたが、予想を上回る理不尽さであった。


加勢してきた男が、向かってくるマリーに気づき、地面に片膝をついた。

地面に手を当て、魔法詠唱をはじめる。


怒大地(アースクエイク)


突如、地面に網状の地割れがおこる。

湿原の地面が張り裂けながら、地震がおきる。


「きゃあ!」


マリーの載っているゴーレムは足場を崩し、倒れてしまった。


「まさか俺と大地魔法で勝負とはね」


男が鼻下を擦りながら、自信ありげな表情をのぞかせている。


「調子に乗らないで」


チェルシーは手元のカードを2枚取り出した。


ピッと投げ、割れた地面の隙間にカードが入っていく。



ブワシャッ!


割れた地面から噴水のように水が沸き起こった。


「うぁあぁ!!」


男が驚いている。


地割れを水が覆い、泥濘となっていく。


「もう、地面を割れないわね」


「うひゃあ、理不尽なことするなぁ」


こいつらに言われたくない。


驚きつつも、軽口を叩く姿勢にチェルシーは苛立ちを覚えた。



ふと、右手方向から気配を感じた。


距離があるにもかかわらず、圧倒的存在感。


目を向けると黒装束に身を包んだ、黒髪の男がいた。

すでに魔力を解放し、真紅のオーラが立ち昇っている。


凶焔(イービルフレイム)“クレイであった。


(この気配…噂以上じゃないの…)


“紅”の頭目の実力は、当然聞き及んでいる。

警戒こそすれ、軽視などしたことない。

しかし、それでも自分の認識が甘かったと思うほどの魔力量だ。


「あいつは私がやる!マリー!あとは任せたわよ」


「あッ、はい!」


マリーの返事を背にうけ、チェルシーはクレイの方へ体を向けた。


チェルシーは羽靴を使い、一足飛びでクレイの目の前に跳んだ。


クレイが先に口火を切る。


「“創成(クリエーション)”チェルシーとお見受けします。噂通り、面白いマジックアイテムをお持ちのようですね」


不敵に笑いながら話しかけてきた。

口調は丁寧だが、不気味な慇懃さだ。


「あなたがクレイね。今回の騒動の目的はなにさ」


「すでに達成されていると言っておこう」


「なんですって!?どういうことよ」


チェルシーは驚いた。

クレイは口を噤んで黙っている。


なにか目的があって、研究所を襲撃したと考えていた。

襲撃から大して時間も経っていない。

最速で駆けつけたと言ってよいだろう。

しかし、すでに目的は完了しているのか。


(チェルシー様、大変です)


ギルドの部下から念話が入った。


(今、忙しい。あとにして)


戦闘中だ。

どんな用件だろうと後回しだ。


(しかし…)


なにか言いたげだ。

マスターの命令に大人しく従えないほどの事態でも起こったのだろうか。


(手短にだけ言って)


(はッ…すみません。鬼組が王都で反逆を宣言。王城に向かい進軍しています)


(なんですって!?)


チェルシーは心の中で叫びをあげた。

まさか自分が王都を離れている間に大事件がおこるなんて。


(――っ!!)


思わず口を押えてハッとして、クレイを睨みつけた。


「あなたの狙いは私をここに連れてくることね」


「――如何にも」


「そうと分かれば、戻らせてもらうわ」


チェルシーが王都へ引き返そうとしたその時――


ゴォッ


クレイがさらに魔力を解放した。


真紅の魔力が目視できるほど濃く、足元の草が燃えはじめる。


「そうはいかない。あなたは私の相手をしてもらう。逃げられるとは思わない方がいい」


「このクソガキ…」


チェルシーの頭に青筋が浮かぶ。

どうやら大人しく逃す気はないようだ。


それならば、やることは1つ。

速攻でクレイを撃破し、王都に戻ること。



チェルシーはカードホルダーからカードを2枚取り出した。

1枚をクレイに向けて投げた。


クレイがカードを避けて跳び上がると、カードはクレイの真下で急降下した。

カッと音を鳴らして地面に刺さる。


突如、地鳴りが響き、巨大なクレーターが出来上がった。


跳び上がったクレイはそのまま巨大なすり鉢状の穴の中心へと降り立つ。


チェルシーはもう1枚のカードをクレイの頭上に投げた。


ポンっという音とともに、カードが消えた。

同時に巨大な魔物スライムが空中に現れる。


クレーター全体を覆うほどの大きさ。


「どうぞ、あたしからの特大プレゼントよ!」


クレイが炎術師っていうのは知っている。

それなら水属性の魔物スライムに潰されるといい。


実験で生み出されたこの特殊スライムならば、簡単に燃やすことはできない。


チェルシーは踵を返し、王都へ向かおうとする。


ドォン!


背後から爆発がおきた。

どうやら水蒸気爆発のようだ。


湯気の中から、クレイがとびだしてきた。


「えッ、あのスライムを蒸発させたの!?」


「容易いことだ」


チェルシーは目を剥いた。

王都の暴動鎮圧のために、余力を残しておきたい。

しかし、そうはさせてもらえなそうだ。


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