表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
55/208

53 星の衝突②〜魔王召喚〜

十影の“滅”たちはカッツウォルドの町に到着していた。


最近、統治している貴族が不審死を遂げたことで、王軍の兵士が大量にやってきていた。


「ちょうどいい撒き餌になるな」


“滅”はニッと笑い、懐から“召喚の鍵”を取り出した。


「いよいよですか…」


“破”が神妙な顔つきで呟く。


「そんな顔をするな」


「滅様…」


“滅”はこれから魔王を呼び出す。

召喚の鍵は、込めた魔力に応じて強力な悪魔を呼び出すことができる。

魔王クラスを呼び出すとなると、どれほど強大な供物が必要になるかわかったものではない。


少なくとも、術者の命と引き換えになるのは免れられないだろう。


「覚悟ができていなかったのか?」

「そうではないですが…」

「ならもう何も言うな。やるぞ」


“滅”は王軍兵舎の目の前で足を止めた。

兵舎の中には王軍“漆黒の獅子”の魔法使いが大量に控えているようだ。


「では、捧げる魂を集めないとな。やれ」


“滅”の命を受け、4人の影が滑るように兵舎内に向かっていった。

死影の真骨頂は、暗殺に特化した静かな戦闘方法にある。

今回は供物に必要なだけの量を稼ぐため、騒ぎが露見しないよう、4人がそれぞれに目まぐるしく動き回った。


技を駆使し、一人ひとりを孤立させ、騒ぎになる前に仕留める。

それは、戦いというよりは一方的な殺戮だった。


“滅”は兵舎前に佇み、様子を見ている。



バン


兵舎の扉が開き、兵士が1人飛び出してきた。

“滅”に目を向け、驚愕した表情を浮かべている。


「な…なぜ、貴様が…」


“滅”は返事することなく静かに見つめる。


「この襲撃は死影か…なぜ…」


男は歯軋りをさせながら睨みつけてきた。


“滅”はふぅーっとため息を吐いた。


「王政も王軍も今日で終わりだ。大人しく死ね」


「なんだと!貴様とち狂ったか!」


“滅”の言い放った言葉を聞いた男が、叫びながら突進してきた。


“滅”は左手を横に薙ぎ払った。

黒い魔力のオーラが薄い刃状となって流れる。


ザン


音とともに突進してきた男の体が2つに割れながら地面に倒れ込んだ。


気づけば兵舎内にあれだけあった気配がなくなり、あたりは静寂に包まれていた。


ズブズブと音をさせながら、兵舎の暗がりから十影の面々が出てきた。


「早かったな」


「この程度どうということでもありませんよ」


「よし。はじめるぞ。本番はこれからだ」


“滅”は召喚の鍵を右手に持ち、左手を地面に押し当てた。


地面に巨大な魔法陣が描かれる。

青白い光が激しく輝き、段々とどす黒く変色していく。


大岩を引きずるような鈍い音をさせながら、魔法陣から少しずつ巨大な門が出現していた。


門の中心には鍵穴が開いている。

“滅”は右手に持っていた召喚の鍵を差し込んだ。


門は激しく揺れながら、ゆっくりと開いた。


開ききった直後、あたり一面の光が落ちていく。

門からは漆黒の闇そのもののような、どす黒い魔力が漏れ出るように漂ってくる。


扉の奥は濃い漆黒と灰色のオーラが渦巻き、杳として伺い知れなかった。


ズズズ…


なにかが這いずる音をさせながら、中からやってくる影がある。

肌に叩きつけるような殺気の塊に、“滅”は頬を汗が伝うのを感じながらただ、待っていた。

その身には人生最大の緊張感がみなぎっている。


「我を呼んだのはオマエか」


口を動かしているにも関わらず、頭の中に直接響くような低い声。


顔は髑髏。

頭部には二本の捻じれた角が生えていた。

王冠を被り、漆黒のマントで全身を覆っている。


「魔王ベルフェゴールか」


「如何にも。――何が望みだ」


“滅”はごくり、と唾を飲み込み、声を振り絞るように望みを唇にのせた。


「――貴方の力を」


「何故、力を望む」


「この国の最強の魔法使いを倒すため」


「最強の称号を欲するか。人間などどれだけ強くなったところで、矮小な存在だというのに」


ベルフェゴールは、喉の奥でくつくつと笑ったようだった。

“滅”と十影たちを観察するように眺めている。


「この願いは聞き届けてもらえるのか」


「容易いことだ。して、お前たちは我になにを捧げる」


「全て、だ」


「ほう。お前の体も魂も捧げるか」


「その通りだ。大量の魂と供物も用意した」


ベルフェゴールは兵舎の方へ顔を向けた。


「若干足りぬが、久々の現世だ。受肉がかなうのであれば、我慢してやろう」


望みと、それに見合う犠牲。



契約は成った。



“滅”の眼前に巨大な契約書が現れた。

見慣れぬ緋色の文字が浮かび上がっている。古の言葉で綴られたもののようだ


「その契約書に手を当てるとよい」


“滅”は言われるまま契約書に手を当て、魔力を込めた。


「うぐッ…」


体に棒大な魔力が流れ込んできた。

一瞬でも気を抜いたら、体がばらばらに弾け飛んでしまいそうなほどの魔力が、濁流のように全身を巡る。


気づけば、宙に浮いていたベルフェゴールが消えている。



(では、貴様の身体をいただこう)


ベルフェゴールの低い声が脳内で響いた。


直後、”滅”の意識は深い海の底に沈むように消えていった。





十影の破は一連のやりとりを見ていた。


緊張のあまり、唾を飲む音が大きく聞こえる。


“滅”は、契約書に触れた直後、糸が切れた操り人形のように地面に倒れ込んだ。


「「滅様!」」


他の十影は一同、叫びをあげた。

その身に飛びつこうとして、ぐっとこらえる。


“滅”――正確には“滅”だったもの――はゆっくりと起き上がった。


両の掌を握ったり開いたりしながら、興味深げに見分していた。


「ふむ。人間にはしては中々だな」


ニヤッと笑いながら呟いた。

声も姿も”滅”だが、気配がまったくの別人だ。

十影には、それが手に取るように分かった。


「はぁぁ…」


“ソレ”は、息をゆっくり吐きながら魔力を解放した。

漆黒の魔力が全身を包む。


身体の周りの魔力は段々と揺らめきながら黒マントへと変化していく。

顔の輪郭はしだいにぼやけ、魔力によって髑髏へと変わった。


気づけば、”滅”の姿が完全にベルフェゴールの姿へと変態していた。


「くはははは」


突如、激しい笑い声を上げ、ベルフェゴールが片手を天に向ける。


天空に複数の魔法陣が出現した。

中からは、次々と下位悪魔たちが召喚されている。


“破”たちは、その様子を呆然と眺めていた。


悪魔たちが町の上空を飛び回る。

そこら中から阿鼻叫喚の声があがり、町は大混乱となっていた。


「それで、最強の魔法使いと言うのはどこにいるのだ」


ベルフェゴールが、傍らの“破”に尋ねた。


「程なくして、この地にやってくると思われます」


「では、それまで久々の現世を楽しむとするか」


ベルフェゴールは兵舎の中へと入っていった。

捧げた魂を回収にいったのだろうか。


いずれにせよ、作戦通り魔王召喚には成功した。


あとは“絶対者”の到着を待つだけだ。

十影は、かつて“滅”だったものの背中を食い入るように、ただただ見つめるのみだった。





ベルフェゴールが召喚されたのと同刻。


ナツキは、新たに得た“飛行の力”を使って、サイエフの森の上空を飛んでいた。

まだまだ力を使いこなしきれていないため、練習もかねて飛び回っていたのだ。

ようやく、魔力をさらに込めて、気流も利用することで高速で飛ぶことも覚えたところだ。


ミユはカーロン村で休ませている。


その間に、漢民族の集落がどのあたりにあるのか調べようと思い、調査に訪れていたのだった。


(本当に快適だな。風による抵抗をほとんど感じない)


もしかしたら俺って相当強くなったのではと勘違いしてしまいそうになる。

いやいや、いかん、調子にのった魔法使いの寿命は長くない。

謙虚に生きよう。


(ん…?)


突如、邪悪な気配を感じた。


懐から黒々としたオーラが漏れ出ている。

ナツキから出ているのではない。


「なんで封印がいきなり解けたんだ?」


ナツキは懐から“召喚の鍵”を取り出した。

デールでミユから奪ったあと、気配を隠すために魔法封印を行なっていた。


(なにかに共鳴しているようだな…)


外から封印を解いたのではない。

内側からなにかが爆発したかのように封印の魔法式を吹き飛ばしたようだ。


ナツキは再び魔法で召喚の鍵を封印した。

懐にしまいつつ、ふと西方に体を向ける。


「なにか不吉な予感がするな…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ