表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
54/208

52 星の衝突①〜開戦〜


マァム湿原を4つの影が移動していた。

先頭を歩く漆黒のローブに身を包む男は、“紅”のクレイであった。


マァム湿原には湿地帯ならではの希少な植物が多数存在する。

魔力をうけて、稀に変異するキノコや薬草が採取されるのであった。


その特殊植物を研究するための施設がマァム湿原に存在する。

五星ギルド「ノスタルジア」の支部であった。

魔物の出没頻度が高い湿原ではあるが、五星ギルドの魔法使いたちであればあまり問題となることもない。


研究施設の周りには、警備兵が巡回していた。


“紅”の面々は、その研究施設を遠目にうかがえる地点までやってきて、監視を続けていた


「やっとつきましたね」


口を開いたのは“ 聖魔(セイント)”ルカ。

少し伸びたちぢれ髪の優男である。

回復魔法を得意とする聖魔法の使い手であった。

その両手には、頭ほどもある大きさの魔石を抱えている。



「流石に五星ギルド相手に喧嘩を売るのは、身震いするな」


ルカに応えたのは、茶髪の美丈夫で、焦げ茶のローブを纏う男。

地属性の大魔法を得意とする魔法使い“大地(アース)”ヒューゴであった。


「ヒャーッハッハッハ!!ヒューゴ、情けないネ!こんな楽しいこと。ない。ヒャハハ」


一際巨大な体に、全身革ベルトを巻き付けた仮面の男。

ドルトの出身の武人、“狂・道化(クレイジーピエロ)”ディルクである。

異常なまでに好戦的で、あまりにも戦闘を望むことで、ギルドメンバーを何人も活動不能にしたことで、追放された男。

ディルクもまた、ご多分に漏れず3年前にクレイに敗北し、その強さに惹かれ、仲間となった男であった。


「警戒するのは悪いことではないさ」


クレイが口をひらく。


「クレイさん、どうしますか?」

「ルカは後方で待機だ。増援がきたら念話で知らせてくれ。回復が必要なほどの局面になったらこちらから呼ぶ」

「わかりました」


「ヒャーッハッハ!先陣は俺!俺が行く!」

「ディルクの望み通りでいくさ。存分に暴れるといい」

「ヒャハハ!楽しみィ!」


「俺はどうします?」

「ヒューゴはディルクの後方につき、援護をしてくれ」

「わかりました」


「ヒャハハ!ヒューゴ、邪魔したら。おまえ、敵一緒。ヒャハハ」

「げッ…」

「ディルク、仲間内での戦闘は許さんぞ」


クレイはディルクをけん制の意味を込めて、睨みつけた。

ヒューゴは胸を撫で下ろしている。

ディルクもそれ以上はなにも言わなかった。


「俺たちの役割は陽動でもある。では、派手に行くぞ!」


クレイの合図でルカ以外の3人が突撃した。


ディルクが研究施設の扉を破壊しながら突入していく。


「ヒャーッハッハ!」


下品な笑い声が響き渡る。


奇襲を受けた警備兵たちが慌てふためいている。

しかし、直後、戦闘態勢の立て直しを図ってきた


「流石五星ギルドと言ったところか」


ヒューゴが呟く。


ディルクの正面にいる2人の魔法使いが、懐から短い筒を取り出した。

筒の先をディルクに向けている。


「くらえ!」


筒の先から複数の魔力弾が飛び出した。

ノスタルジーお得意のマジックアイテムか。

見たところ、どうやら魔法詠唱なしで複数の攻撃魔法を撃てる道具らしい。


「ヒャーッハッハ!」


ディルクは片手で全ての魔力弾をはじきながら突進していく。


「なッ!?」

「ぐふぉッ…」


2人の魔法使いは、ディルクにボコボコに殴られて倒れ伏した。


「あいつの戦闘スタイルはいつ見ても鳥肌もんですね」


ヒューゴが青ざめながら感想を述べる。


「あれで手加減しているさ。本気なら、腕で人体を紙屑のように千切る奴だからな」

「ほんと、敵じゃなくてよかったですわ」


クレイの言葉を聞いたヒューゴがため息混じりに話す。


「一階の戦闘は任せたぞ、俺は最上階を制圧する」

「わかりました」


クレイは掌を天井にむけた。


ドォン


紅蓮の炎が一直線に天井へ向かって伸びていく。

攻撃した先は、吹き抜けのようになって宵の空が見えていた。


「相変わらず凄い炎術ですね」


「ヒャーッハッハッハ!さすが。さすが」


“大地”と“狂・道化”の声を背にクレイは上階へと進んだ。


最上階には研究施設の本部らしき部屋があった。

白衣をきた魔法使いたちが、クレイの登場に動揺している。


「お…お前たちは…なにが目的だ」


震えながら1人が質問してきた。


「知れたこと、この施設は我々“紅”の管理下に置く」

「なんだとッ!?」

「本部に連絡をとるといい。快い返事を期待するよ」


クレイは微笑みながら語りかけた。



五星ギルド「ノスタルジア」の本部に激震が走った。


湿原近くに位置する研究施設支部から緊急救援を求める連絡が入ったのだ。


ギルドの事務員たちが、慌ただしく走り回っている。

五星ギルドに戦闘をしかけるものなど滅多にいない。

突如としてもたらされた研究所襲撃の報は、ギルドメンバー全員を仰天させた。


バン


研究室の扉が大音をたてながら開いた。


白衣を纏ったギルドマスターチェルシーであった。


「マスター!研究所が!」


「話は聞いたわ。ふざけた連中ね。許さない」



チェルシーは白衣を脱いだあと、テーブルの上にばさっと放り投げた。


いつもは陽気なキャラクターで通っているマスターの目つきがつり上がっていることで、本部内の緊張感はさらに高まった。



「マリー、リリィいる?」


「「はい!ここに!」」


「“紅”を撃破に向かう。魔石兵を準備し、戦闘できるもの全員を連れて行くわよ」


チェルシーは腰のベルトにつけているカードホルダーから、ピッと3枚の魔法カードを取り出した。


チェルシーが魔力を込めると、1枚は三角帽子に、1枚はローブに、1枚は靴に早変わりした。


靴の側面には鳥の羽のような飾りがつけてある。


「羽靴を全員分急いで用意して」


チェルシーの命をうけ事務方が慌ただしく動き回る。


ギルド本部の玄関にチェルシーがカードから出したのと同型の靴が並んでいく。


「全員、装備して、マァム湿原へ。魔石兵たちも準備ができ次第出発!いくわよ!」


「「はい!」」


チェルシーと共に、サブマスター2人、10人ほどの魔法使いがギルド本部から、文字通り"飛び出した”。


チェルシーが膝を曲げ、飛び立っていく。

そのジャンプは軽々と3階建ての住居の屋根を超えていく。


風をきりながら、複数の魔法使いたちがタペル上空を翔けていった。




「くくく。行ったか。はじまったようだな」


飛び立っていくチェルシーたちを、笑いながら見ている男がいる。


死影のギルドマスターカイであった。

カイは“十影”のうちの4人を連れ、王城に向かって進んでいた。


「次は俺たちの番だ」


チェルシーたちが血相を変えて飛び出していったのは、間違いなく“紅“が事を起こしたからだろう。

これで五星ギルドの一角を王都から引き離すことに成功した。



カイたちは王城の入口へと到着した。


「呼ばれてきてやったぜ。さっさと城門を開けろ」


門番の兵士に命令する。


「通れ…」


やや緊張した面持ちで警備兵が発した。

滅多に開かない王城の正門がガラガラと音を鳴らしながら開いていく。


カイと十影は門の中へと進んだ。


「こっちだ」


紅蓮の狼(レッドウルフ)”の紋章が入った、真紅のマントを羽織った兵士が案内にやってきた。

カイたちは後ろをついていく。


城内一階の正面階段を下り、エントランスを進んでいく。


「応接間に通すかと思いきや、王軍の会議室か」


カイたちが通されたのは“新月の間”。

王軍の軍団長たちが軍事会議を行う場所であった。


扉を開け、中へ入ると、“紅蓮の狼(レッドウルフ)”軍団長ブラッド・レインが足を組んで座っていた。


「よくきたな」


ブラッドは不敵に笑っている。

横には、布でくるまれた謎の荷物が置いてある。


「応接間で茶菓子くらい出すかと思いきや、“新月の間”とはな」


「ははは。緊張しているのか?らしくないじゃないか。まァ座れよ」


ブラッドに促され、カイは椅子に座る。

十影の4人は後ろに立ったまま控えている。


「で、オレを呼びつけた用件はなんだ」


「とぼけるなよ。なにを嗅ぎ回っているんだ?」


ブラッドがニヤリと笑いながら返事をした。


「知らんな。なんのことかハッキリ言え」


「ははは。しらを切るのは無駄だ。とりあえずコレを見てもらうか」


ブラッドは横に置いてあった荷物をテーブルの上に置いた。


ゆっくりと上からかけてあった布をめくる。



!!!


死影の面々が目をむいた。


それは、何の変哲もない瓶だった。

ただ、そこに変わり果てた“絶”の首が収められているという以外は。

光を失った“絶”の双眸が虚ろにこちらにむけられていた。




「てめェ…」


カイはブラッドを睨みつけた。


「ははは。これでわかったろ。さっさとコイツになにをさせていたか白状するといいさ」


カイは怒りで我を失いそうになるのをぎりぎりで自制した。

控えている十影の面々は殺気を放っている。


「フン…。“絶”が帰って来なかったのはそういうわけか。てめェが殺ったのか?」


「俺ではないさ。誰がやったのか言うつもりはないがな」


「どこの誰だろうが、近いうちに後悔させてやるさ」


「ほぅ、それはどういう意味だい?」


ブラッドがにたにたと笑っている。


「知れたこと。今日、エディンは滅びるのさ」


カイは静かに反逆を宣言した。


「残念だが、勝算はまったくないと言っておこう」


ブラッドはカイの宣言に対して、まるで知っていたかのように不敵に笑いながら返事をした。


「余裕こいているのも今のうちさ。600年のくだらねぇ遊戯はオレたちが終わらせる」


「ははは。その遊戯の中で五星まで昇り詰めたのだから、満足して胡座をかいていればいいものを」


「ほざけ。オレたちを実験動物程度にしか見ていないのだろう」


「そいつは違うな」


「なに?」


「せいぜい虫けらどまりだよ。ははは」


口調は笑っているが、ブラッドの眼には底冷えするような冷たい光が宿っていた。

カイの額に青筋が浮かぶ。


「やるぞ」


カイは小声で合図した。

直後、十影の4人が会議室の四隅へと散り、魔法詠唱をはじめる。


無限空間(インフィニティゾーン)


部屋を暗闇が包みこむ。

気づけば、周囲は星空のただなかにいるような、不思議な景色へと変貌していた。

天地の概念が崩れたかのように、全員が宙を漂っている。


「見事な魔法だな」


ブラッドが笑いながら褒めてきた。


「強がりも今のうちさ。お前はもうここから出られん」


「別に構わないさ。好きにするといい」


「なんだと?」


「思い上がった羽虫が、自ら火の中に突撃するというのだ。邪魔する必要ないだろう」


無限空間は、死影の最上級束縛魔法である。


この魔法に捕らえた時点で、今回の戦闘でブラッドは脱落したと言っても過言ではない。

しかし、余裕の態度が一切崩れないことが解せなかった。


「けっ、これから今まで恣にしていた権力が奪われようというのに、呑気なやつだ」


「何度も言わせるな。お前たちなんかには無理だよ」


「ふん。オレから言わせればテメェのほうが虫けらさ」


カイはブラッドを一瞥して、空間の中にズブズブと溶けていく。


「“刹”は俺とともに来い。“恨” “憎” “罪” 、この牢獄を合図があるまで解くんじゃないぞ」


「御意――」


一言、十影の4人に命じる。


「お前はこの国の闇を舐めている。必ず痛い目をみることになるだろうさ」


ブラッドが嘲るような笑みを浮かべている。


(ふんッ、負け惜しみがすぎるぜ)


カイは無限空間から脱出し、“新月の間”を後にした。


(ダークファントム、全メンバーに告ぐ。紅蓮の狼を拘束した。王城へ進軍し、暴れろ)


十影以外の全メンバーに念話で命じた。

念話越しに、全員の士気が高まった様子が伝わってきた。

王都での闘いの幕開けだった。

51話のギーメルとの別れについて、修正を行いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ