51 再出発③
3/11少し改稿しました。
(早く…早く横になりたい…)
ミユはげっそりとした表情で歩いている。
一刻も早く休みたいのに、教会へ寄っただけで事件にまきこまれ、犯人呼ばわりされてしまった。
「ちょっと…本当に犯人なんかわかるの?」
小声でナツキに尋ねる。
「あァ、まかせろって」
さきほど、自警団の団長に大見えを切っていたが、大丈夫なんだろうか。
こちらの気も知らないで、ナツキはなんだか呑気に笑っている。
しかも、なんだかいかにも人の悪そうな邪悪な笑みだ。
ミユはナツキたちと共に、教会へと戻ってきた。
「で、戻ってきたぞ。一体どうするんだ?」
ロックがナツキに尋ねている。
「見ててくださいな」
ナツキは、へらへら笑いながら教会の壇上へと足を進めた。
女神像のあった場所で床に膝をつけ、なにやら手を当てている。
「やはりな」
ナツキが小さくつぶやいた。
「この罰当りが!さっさとそこから降りろ!」
フレディ神父が怒気を含んだ声をあげる。
教会の神父であれば、神の像が立ててあった場所に立ち入るなど、恐れおおいということだろうか。
「罰が当たるのはあんたさ」
ナツキが振り返り、フレディ神父を正面から見据えた。
「なんだと…」
神父の眉間にシワがよる。
「まず、消えた女神像はこの下」
ナツキがベリベリと壇上の板を剥がしはじめた。
「ぼけが。なにをしとるか」
ロックが慌てて駆け寄った。
「見てみなって」
ナツキが笑いながら床板を剥がした下に指をむける。
「これはッ!?女神像!!」
一同驚愕した。
まさか教会の地下に隠されているとは。
「一体どういうことだ…」
ロックが目を剥いている。
「簡単なトリックさ。まず、目の前から消えた女神像は偽物だ」
「なんだと!?」
「消えた瞬間に火薬と油が燃える臭いがした。火薬と油を混ぜた薄い石材を魔法で作り出し、それで女神像の偽物を作成したのだろう。それに炎魔法で火をつけ、一瞬で燃やし尽くしたのだろうな」
「ばかな…そんなことが」
「石材を加工、しかもかなり細かい細工が施されている。ということは犯人は精巧な女神像を作り出せる地属性の魔法使いでしょうね」
ナツキが不敵に笑いながら、解説をしている。
「しかし、それなら本物といつすり替えたのだ。大体、女神像はフレディ神父が毎日手入れをしている。住民が祈りを捧げているときに床下に移すなど、不可能だ」
ロックがナツキに凄い剣幕で詰め寄る。
「えぇ、ですから、犯人は他でもない、女神像と教会の手入れをしている神父さまご当人だ」
「なにぃ!?」
ロックが口をあんぐりと開けながら、ゆっくりと振り返った。
当のフレディ神父に目をむけると、心なしか額に汗を浮かべて、ナツキを睨みつけていた。
「口では否定するかもしれないが、道中あんたを観察させてもらった。魔力だけは嘘をつけないね。あんたは闇落ちしかけている地属性の魔力だったな」
「ふん。私の属性など証明できんだろうが」
「俺の眼は誤魔化せないけどな。まァ、あんたが犯人なのは間違いない。いずれにしても、女神像は見つかったんだ。俺たちを解放してくれてもいいだろ」
「くッ!!ロックさん、さっさとそこの賊を捕まえてください!」
「フレディさん…」
ロックが白けた目でフレディ神父を見つめている。
「ロックさん、私なわけがないでしょう!なぜ私がそんなことをするのだ。動機がない」
悪あがきで色々とわめいている。
「大方、像を独占するか、売り飛ばすつもりだったのだろう。まァ、俺にしてみたら、容疑を晴らすのが目的だ。女神像がここにあった時点で、あとはどうでもいいけどな」
ナツキは笑いながら言った。
しかし、このままこの悪徳神父が裁かれないのも面白くはない。
「この無礼者め!殺してくれる!」
フレディが魔法詠唱をはじめた。
どうやらナツキを狙っているようだ。
ミユは、阻止しようと懐から水をとりそうだそうとした。
ドゴォ
鈍い音とともに、フレディ神父の体がくの字に曲がっている。
「ぼけが」
ロックが神父のみぞおちに拳を入れていた。
どうやら身体強化をさせて高速で殴りかかったのだろう。
「ぐはぁ…」
フレディ神父が嘔吐しながら気絶した。
「疑ってすまなかったな。犯人を見つけてくれた礼を言う」
ロックがナツキに一礼した。
「いいってことよ、ぼけがさん」
「ぼけが」
ロックはにやりと笑い、神父を担いで、教会から出て行った。
ミユたちは一連のやりとりをポカーンと眺めていた。
「どうにかなったな。やっと休めるぞ」
ナツキは意趣返しができてご満悦、といった表情でミユに並んだ。
「あなた犯人わかっていたの?」
「大体な」
「いつから?」
「最初からあいつが怪しいと思っていたさ。俺たちに気づかれずに魔法を発動できるとしたら、女神像の近くにいる人間しかいないからな」
ミユは納得しつつも驚いた。
前から思っていたが、ナツキは飄々とした態度でものすごいことやってのけるものだ。
◆
無事に事件を解決させたナツキは、ユウヤとギーメルに目をやった。
「ううむ。あいつら腹立つな。なんかこの村から盗んでやるか」
「久々に頭と仕事するとなると、腕がなるぜ」
しばらく放っておいたら、何やら2人が危険な会話をしている。
「おい。無事に難を逃れたんだ。揉め事を起こすなよ」
「ガハハハ。それもそうだ」
ユウヤが豪快に笑っている。
冗談じゃなくてやりかねないのが怖い。
「久々に会ったが相変わらずやるな。さっきギーメルから家族救出の顛末を聞いていたところだ」
「そうかい。まァ、行く必要はなかったけどな」
「とんだ災難だったな。ウハハハ!ところで、任務を完了したんだ。これでお前を黒夢に入れてやろう」
相変わらずマイペースなやつだ。
「いや、盗賊にはならん。俺は今やることがあるからな」
この際だ。ナツキはきっぱりと断っておいた。
「なんだと!?」
驚いている。喜ぶとでも思っていたのだろうか。
「話が違うだろゴラァ!」
「話を聞かなかったろ!」
正直なところ、ギーメルの件で手を貸したら、そのままトンズラするつもりだったので、再会した時のことを考えていなかった。
まさかこんなところでユウヤと出会うとは。
そこでふと、ナツキは抱いた疑問を口に出してみた。
「ん?ところで、ユウヤはなんでこんなところにいるんだ。しかも1人で」
「おぉ、お前らと別れて、しばらくしてから大変な目にあったんだ。黒夢は今散り散りになって、何人かは王都に捕まっている」
「なんだって!?」
ギーメルが驚きの声をあげる。
「頭!なにがあったんだよ!!」
ギーメルがユウヤに喰ってかかった。
「今思い出しても忌々しい…。五星のグランドロッドが大軍を率いて攻めてきたんじゃ!」
なんだって…。
詳しく聞くと、サブ・マスターとジェネラルを含めた複数の魔法使いが、黒夢を襲撃してきたらしい。
応戦しつつ逃げ回ったが、黒夢のメンバーは苦戦を強いられ、撤退するはめになったとか。
ユウヤも執拗な追手の攻撃から逃れ続け、なんとかカーロン村まで逃げてきたとのことだった。
「それで、この村で回復したら、王都に向かい、仲間を救出する予定だったんだ」
ひとしきりユウヤが説明を終えた。
ナツキは、ソフィアからグランドロッドが青眼捕縛を諦めたことを聞いている。
おそらく俺が黒夢の盗賊を助けたと聞いたグランドロッドの魔法使いたちが、意趣返しで襲撃に乗り出したのだろう。
ユウヤたちにはとんだ災難だったな。
「……ナツキ、悪いが俺はここで抜けさせてもらう」
ギーメルは騒ぎ立てていたかと思うと、ナツキに向き直って宣言した。
こいつにとっても、自分が黒夢を離れて旅している間に災難にあっていたのに忸怩たる思いがあるのだろう。
「ギーメル、あんた大丈夫なの、王都って…」
ミユは、心配そうに声をかけた。
「俺は頭についていくから、問題ない」
「ギーメルが来るならワシもありがたい!ガハハハ。では王都へ行って暴れてくるか」
(確かにユウヤの実力なら申し分ないだろうが…)
「まあ待て、相手が王軍なら、そんなに事を急くと命取りだぞ。まずは準備に時間をかけたらどうだ。俺も手を貸せることがあるかもしれん」
逸る2人がどうにも危なっかしい。
少なくともこのまま行動を起こさせるのはうまくないと判断し、ナツキは説得を試みた。
「いや、ここからは“黒夢”の領分だ」
先ほどまでの剛毅さは鳴りを潜めて、真顔でユウヤはナツキに応えた。
ナツキはそのユウヤの様子にただならぬものを感じ、ハッとする。
「……そうまで言うならとめないが、せめて何かしら薬は受け取ってくれ。王都で役に立つだろ」
とりあえず、一刻の猶予をもらって、ユウヤ、ギーメル組とナツキ・ミユ組で手分けして物資を手配する、ということにさせてもらった。
正直、王都を警護している王軍と五星ギルドに勝てるとは思えない。
別行動しながら、ナツキはどうにか別の方法で救出できないか考えを巡らせていた。
「あんな奴でもいなくなるとさみしくなるわね」
ミユの浮かべる表情は複雑そうだった。
少し前まで、なんだかんだパーティとして馴染んできたのが、ここへきて急な展開である。
ナツキも心のなかでそっと同意した。
果たして一刻のあと。ユウヤが寝泊まりしていた納屋で待ち合わせをしていたのだが、そこには置手紙というには粗末な紙切れが置いてあった。
『ナツキ、世話になったな。また会おう』
筆跡はギーメルのものらしかった。ユウヤの署名も添えてある。
「あいつら……」
俺らと落ち合う前に、王都に向かったのか。
なんとなくだが、“手出し無用”と言われた気がした。ナツキが止めようとしていることを察したのかもしれない。
「……達者でな。捕まるなよ」
呟いた言葉は思いがけず、寂寥に満ちたものになってしまった。
「また、どうせどっかでばったり出くわすわよ」
ミユの言葉は努めて明るくしているようで、なんだか慰められているようだった。
「ははは。たしかにな。まァ、なんかまた会う気がするんだよな」
「で、私たちはどうするの?」
「んー、この村で少し休んだら、ゴディス島の南方へと向かうつもりさ」
「よかったぁー。動き続けていたから流石に疲れた」
気づけばもう暗くなってきている。
ナツキとミユは宿舎へと向かった。
◆
小望月の月が夜空に浮かんでいた。
明日はいよいよ満月。
月光が町を照らす中、切り取られた空間のように暗い廊下の先にある小部屋でうごめく影があった。
五星ギルド「ダークファントム」の会議室に14人が勢ぞろいしている。
長机の片側の中心に座るのは“死影”のギルドマスター“破滅”カイ。
左右に黒頭巾の男たちが座っていた。その数9人。
「1人足りねェな」
言葉を発したのは“鬼組”の“地獄鬼”中条鬼ノ助。
横にはサブ・マスター3人が座っている。
2ギルドの最後の戦略会議であった。
「王城の地下を調査していた1人が戻らん」
「おいおい。下手うったんじゃねェだろうな」
「くくく。かもな」
カイの物言いに、鬼ノ助の額に青筋が浮かぶ。
「おい、笑い事じゃねェだろ」
怒気を含んだ声を発した。
「まァ、慌てることないさ」
「ちっ、呑気に言いやがる」
鬼ノ助はボリボリと頭をかきながら上を向く。
「なにかあったと考えておいたがいいだろうな。王軍からオレに呼び出しがかかった」
「なんだと」
「十中八九、“絶”の件だろう」
「どうするつもりだ」
「なァに、向こうが招き入れてくれるなら話が早い。出頭に応じて、オレが王軍相手に仕掛ければいい話だ」
カイが凶悪な顔をして笑う。
「お前とつるむと命がいくらあっても足りねぇな…」
「今日は役割分担を相談しようと思っていたが、自ずと決まったな。“紅蓮の狼”の相手は俺たちがする」
「ってことは、オレが御用ギルドのバカどもを倒せばいいのか」
「そういうことになるな」
「けっ、簡単に言ってくれる。グランドロッドとノスタルジアならまだしも、“絶対者”だけは勝てる保証がないぞ」
鬼ノ助はふんぞり返りながら愚痴を吐く。
実際に、“最強の魔法使い”セシル相手では、カイと鬼ノ助が2人がかりで戦っても五分といった見立てをしていた。
それを鬼組だけで挑み、尚且つ他の五星ギルドも相手取るとなると、勝てる見込みなど見えない。
「心配することないさ。セシルは俺たちでどうにかする」
「どういうことだ。お前は王城で王軍と戦闘すると言っていただろう」
「俺がやるんじゃないさ。十影の郎党半数をぶつける」
カイが勝ち誇った顔で言い放つ。
鬼ノ助も十影の実力は認めている。
しかし、そのうち5人との戦闘だったら、鬼ノ助でも勝てる自信がある。
当然セシルには及ばないだろう。
「お前たちの実力は認めるが、セシル相手じゃ3分と持たんぞ」
「今のままならな」
「今のまま?」
「くくく。“滅”にコイツを使わせる」
カイが懐からおもむろに取り出したのは、鍵だった。
それも、かなりの禍々しいオーラを放っている。
「それは、“召喚の鍵”か」
「ああ、属性"怠惰”の鍵だ。“滅”の魔力ならば魔王を召喚することができる」
召喚の鍵はこの世に7本、魔界に存在する7柱の魔王の数だけあるとされている。
鍵ごとに魔王の眷属たる悪魔を呼び寄せることができる。
「術者がただで済むとは思えないが」
鬼ノ助は視線を滅に向ける。
魔王など召喚すれば、命がいくらあっても足りない。
召喚した時点で多大な魔力をうばわれ、契約する時に多量の供物が必要となる。
セシルを倒せたとしても、使用者には間違いなく死が待っている。
「すでに心を決めた」
「そうか…」
鬼ノ助は、あらためて死影の面々の覚悟を胸に刻んだ。
「で、王城のど真ん中で魔王を召喚するのか?」
「いや、それだとどんな被害が生まれるかわからん。セシルを誘き出すことに使うさ」
「つぅことは、周辺の町で騒ぎを起こすってところか」
「その通りだ。カッツウォルドの町で召喚を行い、セシルを誘き出す。魔王が現れたとなれば、あいつくらいしか倒せないだろう。慌てて向かってくれるさ」
カイがにやりと笑う。
これで“絶対者”セシルの対策はできた。
「ところで”紅“への要請はどうなったんだ」
「くくく。あいつらも戦闘に加わるさ。俺たちが掴んだことを伝えたら、快く引き受けてくれたよ」
「ほんとかよ」
「本当さ。彼らにはノスタルジアとの戦闘を任せた。すでに動き出している頃だろう」
鬼ノ助にしてみたら、紅の実力は計れていない。
カイが認めるほどならば、確かではあるだろう。
先に聞いた、紅のリーダーがカイと引き分けたというのが事実であれば、“創生”チェルシー相手にもヒケをとらないはずだ。
「そうなると、必然と俺たちはグランドロッドとの戦闘だな」
「その通りさ。負けることは許さん。死んだら殺してやる」
「あんな老耄には負けねぇよ」
五星ギルドに対する仕掛けは、これで整った。
「ところで、王軍は“紅蓮の狼”だけか?残りの3軍はどうなんだ」
「“漆黒の獅子”だけは謎だ。軍隊は王城に残っているが、イザベラだけは留守にしている」
五星ギルドのマスタークラスになると、王軍の一般兵士なら何人いても問題はない。
魔法使い同士の戦闘では数よりも質が重要。
カイと鬼ノ助にとってみれば、王軍ではトップ4人の対応を考える必要がある。
「あの性悪女はまたどこかで悪巧みでもしてるんだろう」
「多分な。まァ、あいつ程度ならいたところでオレなら勝てるさ。闇魔法は死影にはきかん」
「問題はシグマとオーロだな」
「それもおそらく早々には問題にならん。あの2人はロックベルとミリタからすぐには動けないだろう」
「確かにそうだ。王城での戦闘をいかに迅速に終結できるかが鍵だな」
「任せておけ。ブラッドと国王は死影が仕留めてやる。くくく」
カイの邪悪な笑い声が会議室で静かに響いた。
「では、オレたちは動き出すとしよう。“滅”、4人を連れてカッツウォルドへ迎え」
「御意」
十影のうち5人が影へ沈んでいった。
「じゃあ、俺たちは明日、セシルが動き出したのを確認したら行動へ移す」
「くくく。健闘を祈る」
死影と鬼組の最後の会談が終わった。
月は段々と明るさを増すように夜空を煌々と照らしていた。




