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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
52/208

50 再出発②


自警団の詰所はカーロン村の北に位置していた。


スキンヘッドに顎髭の壮年の男が、椅子に座りながら鼻歌を歌っている。


手には剪定鋏を握り、花の手入れをしていた。


周りには魔法使い見習いの少年たちが楽しげに男を観察している。


男の名前はロック。

3年前まで王都の魔法ギルドで活動していた。


一般よりも早い引退と惜しまれたが、ロックは「牛と花に囲まれて生きたい」と王都を飛び出した。


カーロン村にきてからは、住民が年寄りばかりだったのもあって、相対的に若いという理由で団長という役職が決まり、それなりに忙しい毎日を送っていた。



ロックがのんびりと花壇の手入れに勤しんでいると、突如詰所の扉が乱暴に開いた。


「団長ー!!大変です!!」


魔法使い見習いの少年が入ってきた。


チョキン


ロックは気がそれた一瞬に手元が狂い、花の先を切り落としてしまった。

床に落ちた花頭を震えながら見つめている。


スキンヘッドの頭に青筋が浮かび、段々と赤くなってきた。


「ぁ…」


少年はばつの悪そうな顔を浮かべる。


「ぼけが」


ロックが叫んだ。


「出たー!“ぼけが”!」


その言葉を聞いた周りの少年たちが騒ぎ立てる。

飛び跳ねて笑い合っている。


ロックは口が悪いのが玉に瑕で、癇に障ることがあるとすぐ「ぼけが!」というのが口癖だった。

そこで子どもたちからつけられたあだ名が「ぼけがさん」。

恐れられて、というよりは親しみを込めて呼ばれていた。



「ぼけが。ワシが花をいじるときは静かにしろ」


床に落ちてしまった花を拾い上げ、走り込んできた少年に注意した。


「それで、なにがあった」


扉を開けた少年へと目をむける。


「教会の母神像が消えてしまいました!」


その瞬間、クワッとロックの眼は見開いた。


「ぼけが!そんな大事件だったら早く言え!」


「ぇ…でも…」


周りの少年たちはさらにわいわいと盛り上がっている。



「ちと出かけてくるか」


ロックは手入れ用の道具を片付け、上着を羽織って足早に教会へと向かうのだった。



ナツキたちは教会内で住民に囲まれていた。


「おい、お前らがやったんだろ」


母神像が消えた場に居合わせたことで、濡れ衣を着せられている。


「そんなことするわけないでしょ!」


ミユが反論している。

実際にやっていないのだ、無実の罪をかぶる気はない。


ギーメルが鬼の剣幕でなにか言いそうになったので、発言する前に制止した。


「なんだよ…」


文句を言われたが、ギーメルが発言して物事が好転したことなどない。

絶対にややこしくしてはいけない。


ずいぶんとこいつの扱いにも手慣れたもんだ。

ナツキは心のなかでそっとため息をついた。


ギィィ


教会の扉が開き、頭の禿げあがったの男が入ってきた。


「これはこれは、ロックさん。来てくれましたか」


神父が入ってきた男を出迎える。


「フレディ神父、災難でしたな。で、このぼけが容疑者ですか」


ロックと呼ばれた男がナツキたちに目を向けてきた。

いきなり人をぼけ呼ばわりとは、随分無礼な人だな。


それにしても相当な魔力量だ。

佇まいにも隙がない。


この男が村を取り締まるなんらかの役職付なのだろう。



「容疑者と言われても、俺たちはさっき村に着いたばかり。聖母神に真っ先に祈りを捧げにきた旅人を犯罪者呼ばわりするのが、この村の信者たちのやり方なのか?」


このままでは犯人にされてしまうので、けん制しておいた。


「なんだとッ!?」


住民たちが憤慨している。

怒りの声をあげたいのはこっちだ。


「確かにそうだ。皆さん、まだ犯人と決まったわけではない。こいつらの行動に見張りをつけ、調査するのを優先しよう」


ロックが騒ぐ住民たちを鎮めた。

人に失礼な物言いをするからろくな人間じゃないと思ったが、道理のわかる人みたいでよかった。


「あ…そう言えば」


住民の1人がなにかを思い出したような一言を口にした。


「どうかしましたか?」


フレディ神父がその男に水をむける。


「いえ、昨日、村を訪れた人相の悪い怪しい男がいます。宿代がないから、家畜の納屋でいいから寝かせてくれと強引に押し入られて困っていたのです。もしかしたら、その男が犯人かも」


「なんだとッ!?そんなぼけがいたのか」


ロックが叫んだ。

ナツキたちにとっても容疑が外れるのは歓迎だ。

その怪しい男が何者か知らないが、とりあえず話を見守ってみよう。


「その男を連れて来られますか?」


「やってみますが、なにせ乱暴そうな男なので、できるかどうか…」


フレディ神父の頼みに対して歯切れの悪い返事をしている。


「では、ワシらから出向こう。貴様らも来てもらう」


「なんで私たちまで!」

「おい、いい加減にしろよ…」

「まァ、ついていってみようじゃないか」


ナツキは怒り出したミユとギーメルを宥めて説得した。


「では、こちらです…」


怪しい男を目撃した男の案内で、ロックとフレディ神父が教会を出て行く。

ナツキたちも後に続いた。




「ここです」


徒歩3分程度歩いたところに、藁が大量に積まれた山がある。

そのすぐ横に建てられている馬小屋らしき場所に、住民が入っていった。


「…」

「……」


なにやら小屋の中で会話しているようだ。

内容までは聞き取れない。


「ゴルァ!ふざけんな!オレがそんなことするか!」


爆発したような大声が馬小屋から聞こえた。


なんだか聞き覚えのある声だ。


「え?まさか」


ギーメルが小声でつぶやいた。


バン!


乱暴な音をならし、馬小屋から男が出てきた。


「うらァ!オレが聖母神の像なんて盗むわけないだろうがァァァ!」


(げッ!?)


ナツキは目を剥いた。


「頭ァ!?」


ギーメルが叫んだ。


出てきたのは“黒夢“の頭目、ユウヤ・バナその人であった。


「あァん?なんでギーメルがこんなところにおるんじゃ」


「それはこっちのセリフっすよ!なんで1人でこんなところに」


「うっせェ!いろいろと大変な目にあったんじゃ!」


2人してぎゃあぎゃあと騒いでいる。


「ぼけが。静かにしろ。まさか知り合いとはな」


「ぼけだと、ぼけめェ!」


2人とも頭に青筋がうかんでいる。


「取り調べを行うから、自警団の詰め所まで同行願おうか。洗いざらい吐いてもらおう」


「行くわけねェだろうが。オレは金品しか盗まん主義だ!」


「盗みを働くと自ら認めるとは、いい度胸だ」


あの頭目(ユウヤ)にして、この配下(ギーメル)あり。

失言癖は黒夢の職業病なのかもしれない…。


盗んでいないのなら、冷静に話し合えばいいのに。


「おい、ユウヤ、余計なこと言っていないで、無実を証明すればいいだろ」


ナツキはユウヤに向かって注意を促した。


「ん?おぉ!青眼もいたのか。久しいな、黒夢に入ろうとこんなところまできたのか?」


ユウヤがさらにいらぬ爆弾発言をかました。


「黒夢…?貴様ら盗賊団か?」


ロックがじろりとナツキに目をむける。


「違う違う!誤解だよ!」


全力で否定させてもらう。


それにしても困った。

容疑者から外れられると思ってついてきたが、状況が悪くなるばかりだ。


ロックの行動を数分間観察しているが、どうにもユウヤとギーメルみたいな男とは相性が悪すぎる。



このままでは早晩捕まってしまうかもしれない。


「とにかく、落ち着いてくれ。怪しいのは認めるが、本当に犯人じゃないんだ」


「盗賊を信じろと言うのか」


「だから盗賊じゃないって!俺たちが真犯人を見つければ、疑いをはらしてくれるか」


「ほぅ、面白い。どうやって、犯人を見つけるんだ」


「へへ。多分だけど、現場に戻れば証明できると思うぜ」


ナツキは笑いながら返答した。


「ロックさん、さっさとこいつらを牢獄にぶち込んでください。神の罰を与えましょう」


フレディ神父が、ロックの肩を揺すりながら催促している。

神父だと言うのに、いろいろと言動が危うい人物だ。


「まァ、犯人を見つけると言っているんだ。一旦やらせてみて、無理ならその後ぶち込めばいいでしょう」


「そうですか…」


ロックはぶっきらぼうだが、意外と話のわかるやつのようだ。

しかし、神父はどうにも焦っているように見えるな。


ナツキたちは踵を返し、ユウヤも連れて教会へと足をむけた。



道中、ナツキは賢眼を発動させて、共に歩く者たち一人ひとりをつぶさに観察した。


ある男に目をむけた瞬間。


(やはり、こいつだろうな)


ナツキの口元は不敵に笑っていた。

明後日あたりから激動になると思います

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