42 漆黒の試練③
ナツキたちはハーピィたちを解放し、さらに最上階へと向かった。
階段の踊り場まで戻ったところで、3人の男が待ち構えていた。
1階の魔法使い同様、黄色いローブを着ている。
ギルドマスターとサブ・マスターの腕章をつけていた。
氷漬けにしたやつらとは違い、こちらとの距離を一定に保って警戒を怠らない。
マスターの腕章をつけたやつが名乗りをあげてきた。
「“ゴールドグラス”のエリオットだ。お前たちの目的と名を言え」
この屋敷を護衛していたのはゴールドグラスだったのか。
庶民からの依頼は一切受け付けず、金になる貴族からの依頼しか引き受けない、と悪評の絶えないギルドだ。
(“類は友を呼ぶ”、か。こんなクズ貴族を護衛している時点で、ろくな奴らじゃない)
「すでに知ってるんじゃないのか。旅の薬屋だよ。目的は色々変わったが、とりあえずこの屋敷にいる連中に痛い目をみせにきたってとこかな」
完全に悪者の発言だが、この際気にしない。
「愚か者どもが、痛い目を見るのは貴様らだ。侵入した時点で、処刑確定だがな」
「死ぬのはてめぇらだ」
ギーメルが刀を抜いて構える。
「デクスターやれ」
「はッ」
エリオットがサブ・マスターの1人に命じた。
デクスターが魔法を詠唱する。
≪炎玉≫
炎魔法をなぜか自分の足元に向けて発射した。
≪精霊召喚≫
炎玉から大型の蜥蜴が3匹這い出てきた。
自分の炎魔法を媒体にして精霊を呼び出したのか。
同時に複数の精霊召喚とは魔力量はなかなかだな。
「クズどもが、そんなもんでビビるか」
「まて、ギーメル」
今にも飛び出しそうなギーメルを止める。
「なんだよ」
「俺がやったが手っ取り早い」
ナツキは右手に魔力を込める。
≪氷連柱≫
青白い氷の連なる柱が階段まで連なる。
「なんだとッ」
相手方は驚いたようだ。
階段まで氷連柱は走り抜け、サラマンダー全てをのみこんだ。
「オーリー!」
エリオットの命で、横に控えていたもう1人も動き出した。
階段横に置いてあった植木鉢に向けて魔法を詠唱する。
≪精霊召喚≫
「出でよ、ノーム」
植木鉢が割れ、中から土の精霊が出てきた。
数こそ1匹だが、天井まで届くほどの巨体だ。
氷の柱を砕きながら真っ直ぐ向かってくる。
これは体当たりされるだけで大ダメージを受けそうだ。
「私相手に土の精霊なんてバカな人たちね」
ミユが魔法を詠唱した。
ミユの魔力によって、ナツキの作り出した氷が水へと変わっていく。
≪水壁≫
水がノームの足元から天井まで吹き上げた。
突進していたノームは足がとまり、体が仰反る。
水によって土の体が流され、段々と小さくなっていった。
≪水弾≫
ミユが水魔法を追撃し、ノームは後方へ吹き飛びながら消えた。
「こいつら!?」
サブ・マスターの2人が慌てふためている。
「慌てるな。うまく弱点をつかれただけのこと」
マスターは落ち着いているな。
それにしてもミユの魔法は見事だ。
感性だけでやっているとは思えないほど、高度な魔法を使いこなしている。
「はぁぁぁぁ!いでよ、シェイド」
エリオットが魔法詠唱を開始した。
≪精霊召喚≫
足元の影が沸騰するように泡立つ。
影が噴水のように天井までのび、精霊が出てきた。
右手に剣、左に斧、全身を漆黒の鎧につつんだ闇の精霊であった。
「こいつに弱点などないぞ」
エリオットがすでに勝ち誇った顔をしている。
≪闇玉≫
シェイドが漆黒の玉を複数うってきた。
ナツキたちは横に飛んで回避する。
「ははは!逃れられるものか!」
闇玉は次々ととんでくる。
同時に5つ以上作り出し、またしても撃ってきた。
≪水壁≫
ミユが再び水の壁を作り出し、闇玉を防ぐ。
水は闇玉と相殺し、周囲に飛散してしまった。
防いだと思ったら、シェイドは体の周りにまた複数つくりだしている。
「やば…水がもうない」
ミユが焦っている。
(いなすのは簡単だが、さっさと終わらせたい。大型魔法でケリをつけるか)
ナツキが攻撃しようとしたその時
「どりゃああ!」
ギーメルが突進した。
「あ!」
「なにやってんの!?」
ギーメルにむかって闇玉が5つ飛んでくる。
はじめの3発は体を捻り、紙一重で回避した。
残りの2発は妖刀で切り裂き無効化している。
相変わらず相性のいい武器だ。
「なんだって!?」
エリオットたちも驚いたようだ。
普通は、刀で魔法を防げるとは思えないだろう。
ザン
ギーメルは突進した勢いそのままに、シェイドを斬りつけた。
シェイドはゆっくりと揺らめきながら影の中に消えていった。
魔力を直接奪われた精霊は、ひとたまりもなかっただろう。
「バカな!闇の精霊に斬撃など効かぬはず!」
弱点属性のない闇の精霊を、斬っただけで退けるなど誰も驚くだろう。
「終わりだ」
ギーメルが3人を斬りつけた。
全員がその場に倒れ伏した。魔力も吸い上げられているので、再び向かってくる気力はないだろう。
精霊を封じられただけで呆気ない。
「いくぞ」
ギーメルが鼻息荒く階段を登っていった。
ナツキとミユも走って後を追いかけた。
◆
イザベラは、モリス邸の最上階の部屋にある椅子に腰掛け、魔力感知を広げて屋敷内の様子を伺っていた。
「どうやら、ギルドの面々は敗北したようね」
妖艶な笑みを浮かべつつ、状況を述べる。
「なんだと!!」
ジャスパー・モリスが驚きの声をあげる。
「あのカスども!高い金を払ったというのに役立たずめ」
手に持っていたワイングラスを叩きつける。
イザベラは頬杖しつつ考える。
(闇精霊の召喚すら問題にせず倒すなんて。思っていたより厄介そうね。これは少し様子を見たほうがいいかしら)
イザベラは瞑目しつつ立ち上がる。
「私は少しの間この場を失礼いたしますわ」
「なんじゃとッ」
ジャスパーが額に汗を流しながら迫ってきた。
「ワシを見捨てる気か!?金なら払うぞ!」
(本当に醜い男ね)
内心、軽蔑しつつも、表情には出さないでおいた。
「安心してください。漆黒の獅子の優秀な魔法使いを待機させますから。マックス、貴方はここで侯爵の警護をなさい」
「承知しました」
イザベラは黒い真珠を取り出した。
それをマックスへと手渡す。
「これは?」
「お守りよ。しっかり持っていなさい。あなたの二つ名に恥じない戦いを期待するわよ」
「はッ!ありがとうございます」
「ではよろしくね」
イザベラはマックスに背を向け、扉から出て行った。
その笑顔は邪悪に歪んでいた。




