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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
43/208

41 漆黒の試練②


ナツキ一行はモリス邸の正門に到着した。

門番は手っ取り早く眠らせて、正面突破を図ることにする。


こっそり入ったほうがいいのだろうが、今回はすでに町で騒ぎを起こしてから来た。

自分たちが接近していることなど筒抜けだろう。


それにしては、待ち伏せする護衛や魔法使いが今のところいないのは気になるが。


廊下を進むと、前方に4人の魔法使いが向かってくるのが見える。

全員黄色のローブに、腕章をつけている。


遠くて位まではわからんが、魔法ギルドの役付だろう。


「面倒だ」


ナツキは一言こぼした。

自分の体内で攻撃魔法をつかったせいで、ダメージをうけている。

呪術師を逃がさないためにも、余計な戦闘は避けたい。


(シグマの技を借りるか)


氷連柱(アイスストライク)


廊下に轟音を響かせ、白と青の氷が連なって行く。

壁、天井、床を凍りつかせながら屋敷最奥の壁まで走り抜けていった。


走って向かってきていた4人の魔法使いは全員凍りついていた。


ミユとギーメルは、あんぐりと口を開けて驚いている。


「あなた容赦ないわね」

「敵ながら気の毒だぜ」


「なんだよ。この魔法は狭いところでこそ力を発揮するんだぞ」


シグマはこの魔法で氷の壁を作り出して、相手の行動を制限するために使ったりもしていたのを覚えていた。


屋敷内の廊下での戦いなら、俺の魔法に抵抗(レジスト)できないレベルの魔法使いなら、一瞬で倒せる。



ナツキたちは、屋敷の廊下を進んだ先にある階段を登った。


階段は1階から最上階まで続いている。

おそらく最上階に向かうのが良いが、2階に到達した段階で異変に気づいた。


「聞こえたか?」


ナツキはミユとギーメルに問いかける。


「え、なにが?」

「なんのことだ」


自分の気のせいだったのだろうか。


「アぁぁぁァぁああ!」



今度は間違いない。

悲鳴だ。


2人にも聞こえたようだ。

表情が険しくなっている。


「行ってみましょう」


ミユが先頭を駆けていく。


罠かもしれないが、そうも言ってられん。

市民が拷問でも受けているようなら一刻を争う。

なにせ、ここにはグールの呪いの元凶の術者がいるのだ。


ナツキ達もミユに続いた。


廊下を駆け抜け、悲鳴の聞こえる方向へとすすんでいく。


「ここね」


ミユが扉をバンと開けた。


そこには、目を疑うような光景が広がっていた。


ミユも驚愕して血の気がひいている。


ナツキとギーメルも、ミユに並んで部屋の入口へと立った。


「これはッ…」


部屋の中には複数の拷問器具。

器具に拘束されているのは人ではない。

魔物ハーピィであった。


ハーピィは人間の女性の頭、足は鳥、背中に羽の生えた魔物である。


群れをなし、空中から攻撃を仕掛けてくる習性を持っている。


しかし、割り合い大人しいうえに、人語も解すため、こちらから仕掛けない限りは戦闘になることはない。


部屋にはハーピィがおぞましい器具で拷問をうけていた。その数5体、脇に拘束されている7体は縛られて絶望した表情を浮かべている。


拷問をしている者たちは皆、黒覆面をつけていた。

部屋の中心には場違いな燕尾服姿の男が、椅子に腰掛けている。


「あなた達!なにをしているの!」


ミユが鋭い眼光で質問をした。


覆面の男、ハーピィたちの視線が集中する。


男が立ち上がらずに顔だけ向けてきた。


「お前らに応える義理はない」


「あなたは何者?」


「やれやれ、最低限の礼儀もわきまえないとは。突然乗り込んできて、自分から名乗らないような輩に、名乗る名前はこちらも持ち合わせていないが。」


横柄な態度のこの男は、塵芥でも見るような目を向けてくる。


(カッツウォルドの領主はもっと年齢がいっているはずだな…ドラ息子ってところかな?)


ナツキはおおよその目星をつけた。相手が誰だろうと、やることは変わらない。


「この屋敷ではずいぶんと悪趣味なことをしているんだな」


「たかが魔物。なにをしても構わぬだろう」


たしかに警備隊などが、町の治安のために魔物を討伐することもある。

しかし、わざわざ屋敷に連れ込み、痛めつけるなど、尋常な話ではない。


ナツキは賢眼を発動して部屋の中を観察した。


部屋の中央には大量の魔石が積まれている。

よく見ると、拷問器具に拘束されているハーピィの身体の至る所に魔石がつけられていた。

部屋の隅には、どす黒く闇属性となった少量の魔石と、ハーピィの死体が積まれている。


(まさか、こいつら…)


ナツキの額に青筋が浮かぶ。


「お前ら、闇の魔石を人工的につくっているのか?」


「ほぅ、よく察したな」


嫌な予感が的中した。


魔石は加工することによって様々な魔法アイテムにすることができる。

もっとも一般的な使用方法は、魔法式を組み込んだ魔石を杖に埋め込み、魔法を瞬時に発動させることだ。


自然から発掘される魔石は基本的に属性がない。

魔石を使用する魔法使いの属性に影響され、段々と属性が変化していく。


こいつらは魔物を痛めつけて闇のオーラを強制的に外へだし、魔石を闇属性へと変化させていたのだ。

闇属性の魔石など、呪いを生み出す最悪なものばかり。

生み出すものもさることながら、その手段が非人道的にすぎる。


こんな暴挙を、町を統治する貴族が行なっているとは。


「反吐がでるね」

「なんとでも言うがいい」

「目的はなんだ。世界でも滅ぼす気か」

「バカ言うな。全ては金のためさ」

「どんな悲劇が生まれるか考えたことは?」

「あるわけないだろう。馬鹿馬鹿しい」


こいつクズだ。

絶対に許せん。


「この屋敷に無断で立ち入ったばかりか、この部屋を目撃されたのだ。お前らは死んでもらうぞ」


男の合図とともに、拷問官たちが戦闘態勢に入った。


ザシュッ


突如、3人の拷問官が昏倒した。

全員胸を切り裂かれ血を流している。致命傷とはいかないまでも戦闘不能だろう。


横には抜刀したギーメルがいた。


「お前らいっぺん死ね」


珍しくギーメルが静かにしていると思ったら、すでにキレてリミッターが外れていただけだった。


ドン!!


水の塊が2人の拷問官の体に直撃した。

水圧で壁に叩きつけられ、ずるずると床に崩れ落ちた。


横を見たら、掌を前に突き出したミユが立っていた。


5人を一瞬で倒されたことで、男も動揺しているようだ。


「貴様ら、何者だ」


「旅の薬屋さ」


「薬屋だと…?そんなわけがッ…ゴフォッ」


言葉の途中だったが、男の顎を、ミユが蹴り飛ばした。

男は口から血を流しながら、床でピクピクしている。


「さっきから口を開けば胸くそ悪いことばっかり。ちょっと黙っててよ!」


ミユも怒りが最高潮だ。



ナツキたちはハーピィを拷問器具から解放し、薬草で応急処置をした。

人間に対する恨みはすごいだろうが、禍根が残らないことを祈るばかり。

拘束されているハーピィたちを縛る縄は、ギーメルが刀で断ち切っていた。


ハーピィたちは不思議そうな目を向けてくる。


「ナゼ助ケタ?」


1人のハーピィが質問してきた。


「なんでだろうな」


ナツキもよくわからなかったので、素直に返事した。


「こんな理不尽なこと、人だろうが、魔物だろうが、されているのはおかしいわよ。やめさせるのなんて当然だわ」


ミユがよく通る声で言葉を重ねた。


ナツキはそれを見てニッと笑う。


「おっと、忘れるとこだった」



ナツキは掌を闇の魔石にむける。


炎玉(ファイヤーボール)


作り出された闇魔法アイテムの原料になるであろう魔石を焼き尽くした。


(呪いの魔法使いだけ倒そうと思ってやってきたが、予定変更だ。ここの領主は許せん)


魔石を焼く炎よりも、ナツキの心は燃えていた。

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