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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
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39 暗躍する影②


「ふぅー…結構採れたな」


ナツキはカッツウォルドの北側にひろがる“レットの森”にいた。

久々に薬の原料の採集をしている。


「あぁー!もぅさっさと行こうぜ」


ギーメルにも採集を手伝わせては見たが、薬草の見分けに苦戦し、早々に飽きてしまったようだ。

さっきから早く出発したいとうるさい。


ミユは黙々と採集に励んでいた。


森に立ち寄って薬草を採っていくと言ったら、2人とも最初は不満を口にしていたが、理由を聞いてミユは俄然やる気になったようだ。

カッツウォルドの町はエディンでもっとも貧しい町で、以前立ち寄ったときに、医療を受けられない生活困窮者があまりに多かったのをナツキは覚えていた。

今度は、そうした住民のためにできるだけ薬を渡せるよう、主要な薬品の原料を揃えていくつもりだ。


ミユは集中力とセンスの高さで、はじめての作業にもかかわらず上手に採集している。


「よし。もういいだろう」


ナツキのカバンは薬草でパンパンに膨らんでいた。

幸いにも盗賊の金を少し頂戴したおかげで、生活費には余裕がある。

これなら格安販売、もしくは無料で提供しても問題ないだろう。


馬車に戻ったら、作業を全然していなかったギーメルが1番疲れた顔をしていた。


「もう、情けないわね。あんたは」

「うるせぇな」


放っておいたらまた喧嘩になりそうだ。


「2人とも収集ありがとうな。もうすぐ町だから、宿舎でゆっくり休もう」


ギーメルも頑張ってくれたのだ。

ちゃんと礼を述べておく。


馬車で2時間ほど移動すると、森を抜けて前方に町が見えてきた。


一つだけ大きな屋敷が目立っている。


「はじめてきたけど、こんなに外周が無防備な町もあるのね」


ミユが疑問を口にした。

他の町は石壁や城壁に囲まれている。


カッツウォルドは大きな屋敷以外は簡易な木製の柵しかなかった。


「国境からもっとも遠いという、地理的要因があるからだろうな」

「だからって、魔物からの襲撃だってあるでしょ」


ミユの言うことは正しい。

ドルトからの侵略がなかったとしても、魔物からの襲撃には備えるべきだ。


「ここを統治する貴族はケチで有名だからな。住民を守ために金なんか使いたくないんだろう」

「なにそれ。ひどいわね」

「最低な野郎だな」


2人とも心底腹を立てている。

俺も同意見だ。


町の入口には王軍の“ガーディアン”が立っていた。

そのまま横を通り過ぎようとしたら


「待て」


止められてしまった。


「怪しいもんじゃないですぜ」

「別に疑っているわけではない。通行税を払ってもらう」


(まじか。前はこっそり1人で訪れたから払わなかったが、そんなものあるのか)


あらゆる機会を利用して金を集めているのだろう。


この町の貴族にますます嫌気がさす。


「おいくらですか?」


「馬車に乗っているのは3人か。それなら金貨30枚だな」


「うへぇ!?まじ!!?」


高すぎる。

そんな法外な通行税つくったら、商人の出入りはなくなって、町は栄えないぞ。


そもそもエディンで1番貧しい町と有名だから、訪れる商人は少ないのだろうが…。


たまに来た者からできるだけぶんどろうという肚か。

公的な徴税かも怪しいものだ。


「なによ、こいつら…」


ミユがキレそうだ。ギーメルも睨みつけている。


「お前ら余計なことするなよ」


釘をさしておく。


(しかし、金貨30枚も金をもっていない。この町を素通りするしかないか…)


できれば、休んでからレリィの洞窟に向かいたかったが、仕方がない。


「あ…おい、あれ」

「ん…?あッ」


ガーディアンがなにかに気づいたようだ。


目線の先には、仕立てられた馬車に刻まれた“紺碧の鷹”の紋章があった。

これは王軍が手配しているという、後ろ盾のあかしだ。


「失礼しました。どうぞお通りください」


急に態度が180度変わり、白々しいほどの敬礼までして、無事に通してくれた。


(シグマに感謝だな)


王軍同士なら税金を取る必要もないということだろう。

ナツキたちはカッツウォルドの町の中へと進んでいった。





五星ギルド「ダークファントム」の“十影”の1人が、流刑島を駆け回っていた。


“絶”は辿り着いた土地で、さらなる情報を集めようと、慎重に内偵を続けていた。


島には、マンティコアやグリフォンがそこら中を飛んでいた。

なかには異形の姿をとっているものもいる。


実験失敗した魔物を島に捨てているといったところか。


人に見つかるのは絶対にまずいが、魔物にも見つかりたくない。

戦闘になった場合、自分の存在が誰にバレるかわからないからだ。


“絶”は島の西海岸沿いにあるトゥームから東方向へ向かっていた。


まずは島の全貌を知る必要がある。


まもなくして、東海岸に到着した。


「むッ…」


“絶”は景色の変化を感じ取り、木の影に隠れた。


前方に町がある。

トゥームと同程度の広さ。

船着場と研究施設らしき建物のみ整った造りをしている。

それ以外の住居らしき建物は今にも崩れそうなほどであった。


町の入口には「ウェルン」と書いてある看板があった。

あれがこの場所の名前であろう。



船着き場と研究施設前に人がいる。

鎧に身を包み、剣を装備している。


(まさか、あれはッ!?)


甲冑の胸にはドルトの国旗があった。


エディンの罪人が送られる流刑島に、敵国ドルトの町があったのはなぜか。

居住用の町でなく、トゥームと同じ役割を果たしていることは感じ取れた。


(どういうことだ…流刑島に二国の施設が共存しているとは…)


“絶”にはまったく理解の及ばない話だ。


リスクは高いが、調査する必要がある。


“絶”は影に潜みつつ、研究施設へと足をむける。


施設内ではトゥーム同様、叫び声がそこら中から聞こえる。


(こいつらもか…)


拘束された罪人らしき男の身体に、武器を同化させる実験を行なっている。

別の部屋では魔物を縛りつけ、見たこともない形状の兵器で攻撃する実験がされていた。


“絶”が影に潜んで様子を伺っていると、甲冑にマントをつけた、銀髪の男がやってきた。


「これは、ヴィルヘルム様!いらしていたのですか」


実験を行なっていた研究員が敬礼をした。


「うむ。視察でな。それで、新兵器の開発は順調かね」


研究員の横に立てられている、禍々しい槍を手にした。


「見事だな」


満足げににやりと笑う。


「お褒めいただき恐縮です」


研究員が安堵した表情を浮かべて喜びを口にする。


「しかし、君には罰を与えなくてはいけない」


「は…?」


笑顔が急に曇った。


ヴィルヘルムと呼ばれた男が研究員に向けていた体を、半回転させて後ろを振り向いた。


「ぐぁぁ!!?」


急に研究員の胸が切り裂かれ、血を流しながら倒れ込む。


「な…なぜ…」


「うろたえるな、それくらいで死にはしない。ネズミが紛れ込んでも気づかぬのだから、少し反省するといいさ」


(!!!)


“絶”の背筋が凍りついた。


「ふんッ!」


次の瞬間、ヴィルヘルムが手にした槍を投擲した。


ザシュッ


その音は、自分の体の中心から聞こえたように思えた。


「バカな…」


槍は”絶”の右胸に突き刺さっていた。


堪らず影から出てしまう。


「こ…こいつは!?」


研究員が悶えながら驚いている。

驚きたいのはこっちだが、一刻も早く去らなくては。


「さて、どこの密偵か教えてもらおう」


銀髪で色黒の男が睨みつけてきた。

凄まじい殺気。


(こいつの“気”…マスタークラスか…)


気を解放しただけで、すさまじい力を持っていることが伺えた。


“絶”は魔法詠唱をはじめる。


絶望の檻(ディスペア)


“絶”の足元から漆黒の影が広がっていく。

部屋全体へと闇が広がり、鉄格子状の黒い線が部屋の外周に広がっていく。


戦闘では勝てないだろうが、動きを封じてしまえば逃げることはできる。


「ほほぉ、闇魔法使いか。手の内を晒すとは、名乗っているようなものだぞ」


ヴィルヘルムが邪悪な笑いを浮かべてくる。


(なんとでも言うがよい。この場は逃げさせてもらう)


“絶”は再び、地面の影に潜ろうとした。

膝までズブズブと沈んだその時。


「はッ!!」


ヴィルヘルムが突進してきた。

凄まじいスピード。


隠密、暗殺に特化した“十影”の自分にとっても回避不能な速さ。


“絶”の眼前でヴィルヘルムは体を半回転させた。


ザシュッ


体から激しい痛みとともに血が吹き出していく。


「その程度か」


ヴィルヘルムが一言のべ、踵を返す。

マントから血が滴り落ちていた。


(無念…)


“絶”は、段々と意識が遠のいていくのを感じた。


バタンッ


扉が開き、騒ぎを聞きつけたのか、施設の人間がどかどかと入ってくる。


「ヴィルヘルム所長!これは一体!?」

「うむ。ネズミを1匹始末した。よい実験材料が手に入ったな」



遠のく意識の中、”絶”は驚愕した。


国家ドルトは絶対王政である。

その体制を補助する役割として、軍事、行政、研究分野が置かれている。

「所長」とは研究開発部門のトップのこと。


ドルトの国王に次ぐトップ3の1人がここにいたのだ。


(無念…エディンはドルトと……マスター……)


これが”絶”の最後の思考となった。

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