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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
33/208

31 暗中飛躍②

 ナツキたちは馬車に揺られてゴディス島を北上していた。

 あたりはすっかり雪景色となっている。


 「へー、そんなことがあったのか」


 ギーメルの声が馬車内で響く。

 ミユの口からナツキとの出会いが語られたところだ。

 本物の“青眼(ブルーアイ)”が自分であることまで暴露していた。


 (ケンカばかりしているかと思ったら、意外と打ち解けはじめたな)


 ナツキ放っておくことにした。


 「そうよ。まさか青眼の盗人家業を盗まれるとは思っていなかったわ。それで今に至るってわけ」


 口調とは裏腹に不満そうどころか、得意げに語っている。

 ミユの心境はいまいちわからない。


 「で、あなたはどうしてナツキとパーティーを組んでいるの?」


 ミユがギーメルに質問をした。


 「それはー…」


 ギーメルはバルで軍人に捕まったこと、ナツキに助けられたこと、黒夢のアジトでの会話を話した。


 「…ってことで、俺はナツキが黒夢に加入する手伝いをしているのさ」

 「まさかナツキが盗賊になりたがっていたとはね」

 「おい!こら!全然違うぞ」

 「ん?嘘は言っていないぞ」

 「誰が仲間になると言った!家族は助けるが、仲間にはならん」

 「は!?話が違うぞ」

 「話を聞かなかったろ、お前ら」


 気ままな一人旅だったのに、こいつらのせいで胃が痛い。


 「でもさー、王軍の人間を蹴りとばすなんて本当に頭おかしいわね」

 「うるせェな」


 それ誰でもつっこみたくなるよね。


 「なんで蹴ったの?」

 「うッ…」


 なんか言いにくそうだな。そう言えば俺が初めて聞いた時もそんな反応だったな。

 確か“肩書きを盾にして言いよる男はカスだろ”とか説明していた。

 気に入ったから助けたけど、別に言いにくい理由とは思わなかったんだよな。


 「なによ。言いなさいよ」

 「笑うなよ?」

 「私があなたの言ったことなんかで笑うわけないでしょ」


 なんか別にも理由があるのか。それは初耳だ。


 「あの女が母親に似てたんだよ」


 馬車で沈黙が流れる。


 「ぶわははははは!」

 「あはははははは!」


 ナツキとミユの爆笑が沈黙を破壊した。


 「なッ!てめェ、笑わないって言ったじゃねぇか!」

 「やめて!やめて、あなた母親思いってキャラじゃ…笑い死ぬ…あははは!」


 そんな理由があったのか。家族を助けに向かっている道中、母親にそっくりなジェシカが困っていたから助けたのか。

 こいつやっぱり嫌いじゃないな。


 「俺は笑わないって約束してないから」

 「くそ、やっぱり言わなきゃよかった」


 ギーメルが顔を真っ赤にさせている。


 「おい、あんたら静かにしてくれ。周りは魔物がうようよしているんだ」


 商人からまたしても注意されてしまった。

 魔力感知を広げてみると、街道の周りには魔物イエティが大量にいる。

 こいつらは筋力が凄まじく、雪の中でも恐ろしく俊敏に動くので、襲われたら馬車なんてひとたまりもないだろう。

 しかし、視力が悪いので、相当接近しない限りは大丈夫だ。比較的大人しい魔物なので、こっちから刺激しない限り襲われないだろう。


 「すみませんね。気をつけます」


 謝罪はしておく。


 「まったく。まァ、あんたらには何度か魔物からの襲撃を救ってもらったから大目にみるよ。もうすぐロックベルの町につくよ」


 いよいよか。商人の馬車に乗せてもらっているので、町に入ることは造作もないだろう。

 問題は無事に出ていけるかだな。

 さっさとギーメルの家族を救って逃げ出したいところだ。



 王宮の地下会議室に座る4人の影。


 「…報告は以上ですわ」


 イザベラが五星会議の内容について報告していた。


 「ははは。新参の2ギルドは過激だな」


 “紅蓮の狼(レッドウルフ)”ブラッドが笑いながら感想を述べる。

 “真鍮の熊(イエローベア)”オーロは無言で報告を聞いていた。


 「笑いごとではないですね。“絶対者(アブソリュート)”の返答いかんでは大事になっていたでしょう」


 “紺碧の鷹(ブルーホーク)”シグマは苦言を呈した。


 しかし、他の3人は談笑している。

 議論された内容に対して緊張感がなさすぎるように思えた。


 「そういやお前も新参者だったな。わからんのも無理はない」


 ブラッドがニヤリと笑っている。


 シグマは5年前に王軍属となった。

 王軍幹部には珍しい、魔法学校卒業で推薦入隊したいわゆる“エリート”ではなく、王軍の一般入隊試験を受け、首席で突破したたたき上げだ。

 その後、あらゆる任務で好成績を収め、2年前に軍団長になったのであった。

 史上最速で軍団長になった記録を塗り替えた。


 「どういうことか、聞かせてもらえますか」


 シグマは五星会議自体が2度目であるが、今回の“死影”の提案を重大と捉えていた。

 しかし、他の軍団長はあくまで小事だと受け止めているようだ。

 それに疑問を持たないわけにはいかない。


 「国王にとって不都合な決定など、五星会議では通らないということですわ」


 イザベラが答える。


 シグマの任務は北方のロックベル警護。

 ドルトが北側から攻めてきた時に最前線で戦う場所である。

 この2年間、ドルトによる侵略はなかったが、自分の与えられた任務の重要性を理解していた。

 最前線にいる自覚があったからこそ、2ギルドの提案は軽々に扱うべきではないと考えていたのだった。


 しかし、総力をあげてドルトと戦うことが、“王にとって不都合”というのは解せない。

 過激な提案であり、積極的に攻めに行こうと考えているわけではないが、間違った話でもないと思っていたのだ。


 「余計にわからなくなりましたよ」


 シグマは重ねて疑問を言う。


 「ははは。来年のギルド大戦が無事に終わったら、お前にも教えてやるさ」


 ブラッドが高らかに笑いながら言い放った。


 同じ軍団長という立場であっても、シグマは新参者。

 まだ、自分にも明かせない秘密があるようだ。


 「あと1年も待たねば、知ることができないというのは驚きですね」


 思わず不満が口をついて出る。


 「慌てるな。必ず教えてやるからよ」

 「なにか条件でもあるなら、言ってもらいたい」


 なにか達成すれば知り得るならば、その条件を言ってもらわないわけにはいかない。


 「そうだな。そこまで言うならはっきりさせておこう。俺はお前を信用しきれていない」

 「なんだと」

 「怒るな。俺はお前をかっている。たった3年で王軍のトップまで昇りつめるやつなんざぁ、他にいないからな」

 「時間をかければよかったのですか」

 「ははは。そうじゃない。しかし、魔法学校にも通っていないおまえが、どこで魔法を習ったのか、出自はどこか、それを明かにしてくれたら、この国の秘密を語ってやる」


 王軍にとって、シグマはどこの誰に魔法を習ったのか、なぜ王軍に所属したのか不明であった。

 誰が聞いても頑なに答えようとしない。

 シグマは大きくため息をつきながら返答した。


 「…それについては言うつもりはない」


 返事はいつもどおりであった。


 「そうだろうな。別にそれでもいいが、お前が言えないことがあるように、俺たちにも教えられないことがある。別に落ち込むことはないさ。時間が経ったら教えてやるからよ」


 他の2人はなにも言う気配がない。

 しばし、会議室で沈黙が流れた。


 「この会議は終わりでいいだろ。今回はしょぼいことしか決定されていない。王軍を動かすような話もなさそうだしな。其々の持ち場に戻るとしよう」


 ブラッドが会議の閉会を宣言する。

 シグマはその言葉に不満を持ちつつも、これ以上の議論は無駄だと悟った。


 「では、失礼する」


 一言発して退室した。



 「ブラッド言わなくていいのか?出自など問題にしなくても、軍団長で事情を知らないままの方が問題では」


 シグマの去ったあと、沈黙を続けていたオーロは言葉を発した。


 「くっくっく」


 ブラッドが笑っている。


 「直接信用が足りないなどと言うなんて、如何なものかと思ったわよ」


 イザベラが苦言を呈した。


 「そう言うな。あれだけの強さをもった謎の人物だ。俺にはなにか引っかかるものがあるのさ」

 「なんだそれは」

 「自分でもよく分からんが。勘としか言えん」


 ブラッドの物言いに、イザベラが呆れかえっていた。


 「それだけ?」

 「ははは。それだけさ」

 「はぁ…。でも、あなたの勘はよくあたるからね」

 「あぁ、なんか面白いことが起こる予感がするんだ。もうちょっと様子をみよう」


 ブラッドの笑い声が会議室で響く。


 「で、今後、どうするんだ?」


 オーロはブラッドに質問を投げた。


 「あァ、オーロ、おまえに調査してもらいたい」

 「どういうことだ」

 「お前の下僕にシグマを調査させろ」

 「私の“子どもたち”を下僕と呼ぶのはやめてもらおうか。あいつのいる寒い地方に送るのは気が乗らんな…」

 「ははは。あいつに感知されずに調査できるのはお前くらいだ。そう言わずやってくれ」

 「仕方がない。引き受けよう」


 オーロの黒いコートがウネウネと動きだした。

 袖から黒い羽虫が複数とびだし、会議室の外へと出て行く。


 「いつ見ても気味が悪いわね」


 イザベラがうんざりした顔で不満を口にする。


 「私の子を悪くいうのは許さんぞ」

 「ははは。俺は好きだけどな」


 ブラッドが笑いとばしたことでオーロもそれ以上言い募るのはやめにした。


 「で、イザベラ、おまえにはグランドロッドが追っていた盗人の調査をしてもらいたい」

 「あなたが気にするとは意外ね。なにか思うことがあって?」

 「あぁ、どうやら俺が撒き散らした“デモニオ”をバルで治療をしたのはそいつらしいな」


 いち早く原因を見抜いて対処したばかりでなく、悪事を働く盗人が、貧民の疫病治療にあたるなど気にならないわけがなかった。


 「そうなの?てっきりソフィア・ホワイトが聖母神の奇跡で治療したのかと思っていたけど」

 「俺もそう思っていたが、ソフィア達が駆けつけたときには、薬屋を自称する怪しい男が治療をはじめていたらしい。しかも、特効薬による的確な処置で、治療方法まで医者どもに伝えていったそうだ」


 「え…」

 「なんだと…」


 オーロとイザベラが驚きの声をあげる。

 疫病“デモニオ”の治療方法は軍上層部しか知り得ないものだったからだ。


 「その男は何者だ?」


 オーロは質問する。


 「俺もそれを知りたい。下手したら、新たな“イレギュラー”になる可能性がある」

 「それは重大ね。あなたがそこまで言うなら、ひきうけましょう」

 「くっくっく。では、頼んだぞ」

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