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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
31/208

29 星は集う⑥〜閉幕〜

 “宵闇の間”は議事がすべて終わり、つかの間の静寂に包まれていた。


 会議で採択された議案をイザベラがまとめる。


 「以上で、全議事が終了いたしました。皆さま、また来年、星が廻ったらこの“宵の間”で。ごきげんよう」


 五星会議の最終日は国王への上奏案件が採択された。

 今回は決定がなされたのは2つだ。


 イザベラが閉会宣言をしたのを受け、ギルドマスターたちが順に席を立っていく。


 「やっと終わったぁー、しんどかったー」


 “創生(クリエーション)”チェルシーが真っ先に出ていった。


 “絶対者(アブソリュート)”セシルは瞑目したまま立ち上がり、無言で会議室を立ち去っていく。


 今回の五星会議に国家総力戦を提案した“破滅(カタストロフィ)”カイは、去りゆくマスターたちの背中を睨みつけていた。


 「過激な発言も結構じゃが、ワシの目の黒いうちは、そんな馬鹿な提案通らんよ」


 ジョセフがため息まじりに発言し、立ち去ろうとする。


 「ジジィ…」


 カイが殺気を込めた視線を向ける。


 「俺もいくぜ。カイ、またな」

 「あぁ」


 鬼ノ助も立ち去っていく。


 イザベラが微笑みながらカイを見つめていた。


 「なにか言いたいことでもあるのか?」

 「いいえ」

 「ふん、その表情気に入らんな」

 「提案が通らなくて残念でしたわね」


 カイは心にもない言葉に苛立ちを隠しきれなかった。


 「ふん。こういった議題はあんたら王軍から進言してもらいたいもんだ」


 文句を一言述べて、影の中にズブズブと吸い込まれるように消えていった。



 ギルドマスターが全員去ったのを見送り、イザベラも会議室を後にした。



 サリー砂漠の真ん中。

 ナツキ、ミユ、ギーメルの一行は穏やかな馬車に揺られていた。


 ナツキの顔はうんざりしている。


 「え、あんた魔法使えないの?」


 まただ。

 先ほどから、なにかとお互いの弱みを見つけては、何度となく小競り合いを起こしていた。

 今度はミユがギーメルに吹っかけている。


 「うっせぇな。相手を倒すならなんだっていいだろ」

 「なに言ってんの。魔法は戦闘以外にも役立つわよ。私、戦闘以外で使う魔法の方が多いもの」


 たしかにその通りだ。

 ミユの水魔法は応用がきく。

 水分身1つとっても、その活用方法は無数に存在する。


 ミユは水筒から水をとりだした。


 ≪水固定(アクアセット)


 水を鍵、果物ナイフ、髪飾りなど、いろんな形状に変化させていく。


 「見事だな」


 思わず褒め言葉がナツキの口をついて出た。


 「けッ…」


 ギーメルは面白くなさそうだ。


 「ふふんッ」


 ミユは勝ち誇っている。


 「ところで、俺が知る限りでも水魔法を使うやつは珍しいが、ミユはどうやって会得したんだ?師匠でもいるのか?」

 「師匠なんていないわよ」

 「じゃあ、どうやって」

 「ある日、いきなり使えたわよ」


 「え、まじ?」


 「その日は仕事で本当に疲れてて、机に伏せてたの。もう水の入ったグラスをとるのもしんどいくらいにね。その時に“あぁー水が勝手に口に入ってきてくれたらいいのに”とか思っていたら、水が勝手に動き出して、口元に来たのよ。その日から色々と試すうちにいつのまにか出来てたってわけ」


 (こいつ、水魔法の才能は天性のものか…)


 まさか、習いもせずに無意識に魔法式を組めるとは。


 「ギーメルもちゃんとお願いできたら、教えてあげてもいいわよ」

 「絶対にやだね」


 教えるのは無理だろうな。

 こういうやつは天性の感覚で魔法を行使するため、言語化して人に伝えることが下手な場合が多い。


 だいたいギーメルが繊細な水魔法を使えるとはまったく思えない。

 どう考えてもこいつは魔術師タイプだ。


 「まぁ、ギーメルは魔術を極めた方が強くなると思うぞ」

 「魔術?」


 なんだ、ミユは知らないのか。


 「魔力を、魔法式を用いずに他の性質に変化させる方法さ」

 「へぇーそんな方法があるの」


 自分のレパートリー以外は素人同然ってところか。


 ギーメルの顔が急に得意げになる。


 「見ろ!」


 ギーメルは、いきなり手から炎を出した。

 自分が優位な分野とわかって、調子に乗っている。


 「おい、こら!馬車の中で制御できもしない炎を出すな!あとで魔力切れを起こしても知らんぞ」

 「へっへっへ」


 炎はすぐ消したが、得意げな顔が鬱陶しい。


 「やるじゃない」


 ミユは素直に感心しているようだった。


 (こいつらなんだかんだ言って、似てるんだよな)


 「おいおい、あんたら、ソフィア様たっての願いだから載せたが、荷物を燃やしたら置いていくからな」


 馬車の手綱を握っている商人から注意されてしまった。

 本当に申し訳ない。


 「すみませんッ…」


 ナツキは平身低頭した。金がないところを厚意で乗せてもらっているのに、不用意な事故で叩き出されるわけにはいかない。


 ギーメルは我関せずと言った表情だ。


 (注意されてるの、主にお前だからね…)


 「まったく、こっちは祭りに最後までいるつもりだったのに」


 商人は愚痴をこぼしている。

 稼ぐチャンスをふいにして不機嫌なのだろう。

 一日早く王都出発することを、命の恩人のソフィアの頼みで仕方なく引き受けてくれたのだ。


 「そういえば、あなたたちも追われる身とは言え、ずいぶんと慌てて出発したわね。なんか事情があるの?」


 ミユが質問してきた。


 「あぁ、五星祭が終わる前に出発したほうが、ロックベルでは都合がいい」

 「なんでだ?」


 ギーメルもわかっていなかったようだ。


 理由は簡単だ。

 ロックベルには王直属軍の“紺碧の鷹(ブルーホーク)“がいるからだ。

 エディンは、北と東をドルトに接しており、ドルトが北側から侵攻してきた場合の最前線基地がロックベルだ。

 そのため国境の町として、王軍の中の最大戦力の1つが昔から配備されており、他の町にはない緊張感がある。


 もしも、ロックベルを占領されてしまった場合、エディンは北側と東側から攻められてしまうのだ。


 ひとしきり説明した後に結論を言った。


 「ってなわけで、五星祭の間、”紺碧の鷹“の軍団長が王都に出向いている間にロックベルにいって、目的を達成するのが1番楽なんだ」



 「なるほどね。でも、あんたならソイツがいても勝てそうだけどね」


 ミユは無責任なことを言ってくる。


 「いや、無理だな」

 「そんなヤバイの?」

 「あァ、あいつは俺より強い」

 「知り合いなの?」

 「軍団長となると有名人だからな」


 ナツキは意味深に笑っている。


 ナツキは強さに拘っていない。相手を強いと認めること自体は全然構わないのだ。


 「あなたがそこまで言うんなら、早く発って正解ね」


 ミユは納得したようだった。


 「ナツキってそこまで強いのか」


 ギーメルだけは呑気なことを言っていた。

 ナツキとしては別になんて言われても構わないので、へらへら笑っている。


 「あんたなに言ってんの。なにもわかってないわね」


 (なんでそこでミユが怒るんだよ…)


 意味不明なところで口論がまた始まった。


 ーーこいつら到着まであと何回喧嘩するつもりだ。



 王城の内部には、エントランスに続いて大広間が広がっている。

 広間の奥には目立たない控室があり、そこから地下へと延びる小階段があった。

 地下に降りると長い廊下が続き、数メートル間隔で銅像が設置されている。

 歴代軍団長の銅像である。


 地下階段を降りた手前の4つの銅像は現在の軍団長4人の銅像となっている。


 しかし、手前から5つ目の身体部分が女性らしき銅像のみ異常があった。

 顔の部分は砕け、至る所に剣で切りつけたような傷がある。

 像の下部にある名前は消されていた。


 銅像の廊下を抜けた先に、大きな扉の会議室が設置されている。


 秘密裏に戦略会議を行うための、軍団長だけが入れる特別な会議室であった。


 イザベラは五星会議終了直後にこの会議室へと赴いた。


 扉を開けるとすでに3人の男が座っている。


 ぞんざいな態度で椅子に座る褐色髪の美丈夫が1人。


 黒フードで顔を隠し、暗闇から隻眼の瞳だけが光る男が1人。


 他の3人と比較すると一際若い、黒髪で若干垂れ目の優男が1人。



 “紅蓮の狼(レッドウルフ)”ブラッド・レイン

 “真鍮の熊(イエローベア)”オーロ

 “紺碧の鷹(ブルーホーク)”シグマ


 ――であった。


 “漆黒の獅子(ブラックライオン)” イザベラ・スミスを含め、王直属の4軍団長の全てが集結していた。

 五星会議の内容をうけ、王軍としての今後の方針について議論するのだ。


 「待たせたわね」


 イザベラは着席しながら挨拶をする。


 「では、はじめよう」


 ブラッドの開会宣言とともに王直属四軍団長の会議がはじまった。

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