29 星は集う⑥〜閉幕〜
“宵闇の間”は議事がすべて終わり、つかの間の静寂に包まれていた。
会議で採択された議案をイザベラがまとめる。
「以上で、全議事が終了いたしました。皆さま、また来年、星が廻ったらこの“宵の間”で。ごきげんよう」
五星会議の最終日は国王への上奏案件が採択された。
今回は決定がなされたのは2つだ。
イザベラが閉会宣言をしたのを受け、ギルドマスターたちが順に席を立っていく。
「やっと終わったぁー、しんどかったー」
“創生”チェルシーが真っ先に出ていった。
“絶対者”セシルは瞑目したまま立ち上がり、無言で会議室を立ち去っていく。
今回の五星会議に国家総力戦を提案した“破滅”カイは、去りゆくマスターたちの背中を睨みつけていた。
「過激な発言も結構じゃが、ワシの目の黒いうちは、そんな馬鹿な提案通らんよ」
ジョセフがため息まじりに発言し、立ち去ろうとする。
「ジジィ…」
カイが殺気を込めた視線を向ける。
「俺もいくぜ。カイ、またな」
「あぁ」
鬼ノ助も立ち去っていく。
イザベラが微笑みながらカイを見つめていた。
「なにか言いたいことでもあるのか?」
「いいえ」
「ふん、その表情気に入らんな」
「提案が通らなくて残念でしたわね」
カイは心にもない言葉に苛立ちを隠しきれなかった。
「ふん。こういった議題はあんたら王軍から進言してもらいたいもんだ」
文句を一言述べて、影の中にズブズブと吸い込まれるように消えていった。
ギルドマスターが全員去ったのを見送り、イザベラも会議室を後にした。
◆
サリー砂漠の真ん中。
ナツキ、ミユ、ギーメルの一行は穏やかな馬車に揺られていた。
ナツキの顔はうんざりしている。
「え、あんた魔法使えないの?」
まただ。
先ほどから、なにかとお互いの弱みを見つけては、何度となく小競り合いを起こしていた。
今度はミユがギーメルに吹っかけている。
「うっせぇな。相手を倒すならなんだっていいだろ」
「なに言ってんの。魔法は戦闘以外にも役立つわよ。私、戦闘以外で使う魔法の方が多いもの」
たしかにその通りだ。
ミユの水魔法は応用がきく。
水分身1つとっても、その活用方法は無数に存在する。
ミユは水筒から水をとりだした。
≪水固定≫
水を鍵、果物ナイフ、髪飾りなど、いろんな形状に変化させていく。
「見事だな」
思わず褒め言葉がナツキの口をついて出た。
「けッ…」
ギーメルは面白くなさそうだ。
「ふふんッ」
ミユは勝ち誇っている。
「ところで、俺が知る限りでも水魔法を使うやつは珍しいが、ミユはどうやって会得したんだ?師匠でもいるのか?」
「師匠なんていないわよ」
「じゃあ、どうやって」
「ある日、いきなり使えたわよ」
「え、まじ?」
「その日は仕事で本当に疲れてて、机に伏せてたの。もう水の入ったグラスをとるのもしんどいくらいにね。その時に“あぁー水が勝手に口に入ってきてくれたらいいのに”とか思っていたら、水が勝手に動き出して、口元に来たのよ。その日から色々と試すうちにいつのまにか出来てたってわけ」
(こいつ、水魔法の才能は天性のものか…)
まさか、習いもせずに無意識に魔法式を組めるとは。
「ギーメルもちゃんとお願いできたら、教えてあげてもいいわよ」
「絶対にやだね」
教えるのは無理だろうな。
こういうやつは天性の感覚で魔法を行使するため、言語化して人に伝えることが下手な場合が多い。
だいたいギーメルが繊細な水魔法を使えるとはまったく思えない。
どう考えてもこいつは魔術師タイプだ。
「まぁ、ギーメルは魔術を極めた方が強くなると思うぞ」
「魔術?」
なんだ、ミユは知らないのか。
「魔力を、魔法式を用いずに他の性質に変化させる方法さ」
「へぇーそんな方法があるの」
自分のレパートリー以外は素人同然ってところか。
ギーメルの顔が急に得意げになる。
「見ろ!」
ギーメルは、いきなり手から炎を出した。
自分が優位な分野とわかって、調子に乗っている。
「おい、こら!馬車の中で制御できもしない炎を出すな!あとで魔力切れを起こしても知らんぞ」
「へっへっへ」
炎はすぐ消したが、得意げな顔が鬱陶しい。
「やるじゃない」
ミユは素直に感心しているようだった。
(こいつらなんだかんだ言って、似てるんだよな)
「おいおい、あんたら、ソフィア様たっての願いだから載せたが、荷物を燃やしたら置いていくからな」
馬車の手綱を握っている商人から注意されてしまった。
本当に申し訳ない。
「すみませんッ…」
ナツキは平身低頭した。金がないところを厚意で乗せてもらっているのに、不用意な事故で叩き出されるわけにはいかない。
ギーメルは我関せずと言った表情だ。
(注意されてるの、主にお前だからね…)
「まったく、こっちは祭りに最後までいるつもりだったのに」
商人は愚痴をこぼしている。
稼ぐチャンスをふいにして不機嫌なのだろう。
一日早く王都出発することを、命の恩人のソフィアの頼みで仕方なく引き受けてくれたのだ。
「そういえば、あなたたちも追われる身とは言え、ずいぶんと慌てて出発したわね。なんか事情があるの?」
ミユが質問してきた。
「あぁ、五星祭が終わる前に出発したほうが、ロックベルでは都合がいい」
「なんでだ?」
ギーメルもわかっていなかったようだ。
理由は簡単だ。
ロックベルには王直属軍の“紺碧の鷹“がいるからだ。
エディンは、北と東をドルトに接しており、ドルトが北側から侵攻してきた場合の最前線基地がロックベルだ。
そのため国境の町として、王軍の中の最大戦力の1つが昔から配備されており、他の町にはない緊張感がある。
もしも、ロックベルを占領されてしまった場合、エディンは北側と東側から攻められてしまうのだ。
ひとしきり説明した後に結論を言った。
「ってなわけで、五星祭の間、”紺碧の鷹“の軍団長が王都に出向いている間にロックベルにいって、目的を達成するのが1番楽なんだ」
「なるほどね。でも、あんたならソイツがいても勝てそうだけどね」
ミユは無責任なことを言ってくる。
「いや、無理だな」
「そんなヤバイの?」
「あァ、あいつは俺より強い」
「知り合いなの?」
「軍団長となると有名人だからな」
ナツキは意味深に笑っている。
ナツキは強さに拘っていない。相手を強いと認めること自体は全然構わないのだ。
「あなたがそこまで言うんなら、早く発って正解ね」
ミユは納得したようだった。
「ナツキってそこまで強いのか」
ギーメルだけは呑気なことを言っていた。
ナツキとしては別になんて言われても構わないので、へらへら笑っている。
「あんたなに言ってんの。なにもわかってないわね」
(なんでそこでミユが怒るんだよ…)
意味不明なところで口論がまた始まった。
ーーこいつら到着まであと何回喧嘩するつもりだ。
◆
王城の内部には、エントランスに続いて大広間が広がっている。
広間の奥には目立たない控室があり、そこから地下へと延びる小階段があった。
地下に降りると長い廊下が続き、数メートル間隔で銅像が設置されている。
歴代軍団長の銅像である。
地下階段を降りた手前の4つの銅像は現在の軍団長4人の銅像となっている。
しかし、手前から5つ目の身体部分が女性らしき銅像のみ異常があった。
顔の部分は砕け、至る所に剣で切りつけたような傷がある。
像の下部にある名前は消されていた。
銅像の廊下を抜けた先に、大きな扉の会議室が設置されている。
秘密裏に戦略会議を行うための、軍団長だけが入れる特別な会議室であった。
イザベラは五星会議終了直後にこの会議室へと赴いた。
扉を開けるとすでに3人の男が座っている。
ぞんざいな態度で椅子に座る褐色髪の美丈夫が1人。
黒フードで顔を隠し、暗闇から隻眼の瞳だけが光る男が1人。
他の3人と比較すると一際若い、黒髪で若干垂れ目の優男が1人。
“紅蓮の狼”ブラッド・レイン
“真鍮の熊”オーロ
“紺碧の鷹”シグマ
――であった。
“漆黒の獅子” イザベラ・スミスを含め、王直属の4軍団長の全てが集結していた。
五星会議の内容をうけ、王軍としての今後の方針について議論するのだ。
「待たせたわね」
イザベラは着席しながら挨拶をする。
「では、はじめよう」
ブラッドの開会宣言とともに王直属四軍団長の会議がはじまった。




