28 星は集う⑤〜再会2〜
王都の最北の玄関口、リンデン門の前の広場には、馬車の停留所があり、タペルを出入りする人で賑わっていた。
その横には診療所がある。旅の途中で魔物に襲われて怪我をした者を手当てするための簡易施設だった。
「ううぅぅ…」
寝台で傷ついた足を包帯でくるまれ、呻く商人がいる。
その横に1人の金髪の女性がやってきた。
≪回復≫
先ほどまで包帯で覆い、起き上がることさえ困難だった身体は、今では痛みは消え去り、怪我をする前よりも調子がよさそうだ。
「おぉ!これは!」
商人がいたく感動している。
「ふふ、よかったですね」
治療をしたのはグランドロッドのソフィアだった。
腕にサブ・マスターの腕章はない。
ギルド内会議で降格の正式決定はされていないが、彼女は自主的に腕章をはずしたのだった。
市井に戻り、国民と触れ合う一般任務を引き受けたいと希望を出したところだ。
受理されるのはまだだが、祭り中もできることはある。
回復魔法を使って、王都内の診療所を回って仕事をしていたのだ。
バルでの一件はソフィアに衝撃を与えた。
危険を顧みずに大義をもって疫病の治療にあたる逃亡者。
かたや、任務に縛られ自由のない自分。
聖母神の加護をうけて様々な任務を達成してきたが、今一度初心に帰り、より高みを目指したいと考えた。
それにはサブ・マスターの肩書が邪魔に思えた。今では清々しい気持ちで活動をしている。
診療所は軽い症状から重体の者までさまざまな患者がいたが、1人ひとりを回復させていく。
商人や旅人たちから感謝の言葉をうけ、北地区診療所を出た。
(こうした活動をするのは、本当に久しぶり)
心地よい達成感が溢れてくる。
診療所の外でしばし休憩していたら、馬車の停留所の方に向かってくる影が3つ。
(あら…?あれは)
ソフィアは口元に笑みを浮かべ、人影のほうへと向かっていった。
◆
ナツキはさらに不機嫌になっていた。
問題児のギーメルだけでも大変だったのに、本物の“青眼”ミユまで勝手についてくることになった。
おまけに相性が悪いのか、この2人は出会って間もないというのに口喧嘩が絶えなかった。
(目立ちたくないって俺の気持ちを、少しでも汲んでくれないだろうか…)
うんざりとした気持ちで、やっと北側の馬車の停留所までやってきた。
「俺はお前なんて、パーティーに入るの認めてないからな」
「私だってあんたなんかいないほうがいいわよ」
「俺は“青眼”ナツキとここまで旅してきたんだ。お前が後から入ったんだろ」
「はァ!?青眼は私だから!!」
「はァァ!?お前なに言ってんだ!?」
(おいおい!馬鹿者ども!外でそんな会話するんじゃない)
ナツキは頭を抱える。
いつもの不敵な笑みはなりを潜め、げっそりとした表情になっていた。
ギーメルは盗賊なんだから、もうちょっと緊張感を持った方がいい。
喧嘩していない時間は、きょろきょろと出店を見たりと落ち着きがない。
ミユは無理やり仲間になってから、なにかとギーメルに張り合う。
口論していない時は、上機嫌なのか、鼻歌を歌っている。
サリー砂漠は夜が冷え込むから防寒服を買っていた。
(どっちの服がかわいいかとか聞かれてもよくわからん。そんなのどっちだっていいだろ。頭を悩ましているのは俺だけか…)
タペルについてたいして動いていないはずなのに、どっと疲労が襲ってきた。
やっと停留所にたどり着く。
「はぁぁーー…」
つい大きなため息を吐いてしまう。
「お困りですか?」
金髪の女性が話しかけてきた。
「げッ!!!」
ソフィアだった。
(いかん、こんなところで出会うとは。1番出会ってはいけないうちの1人じゃないか)
ナツキはどうやってこの場を切り抜けるか考えを巡らせる。
「警戒しないで大丈夫ですよ。すでに組織はあなたのことを追っていませんわ」
「え…、マジ?」
驚いた。どうやら青眼を捕縛する任務を、グランドロッドは途中で断念したらしい。
しかし、そうであったとしても、青眼が指名手配なことに変わりはないはずだ。
横目でちらちらとミユを気にしつつ、尋ねてみる。
「“青眼”が目の前にいるのに、見逃していいの?」
「私としては、あなたが捕まることが良いことだとどうしても思えませんの」
ソフィアは晴れやかな笑顔で答えた。
「ちょっと、なんなのよ、この女…」
ミユが後ろから聞いてくる。
(今出てくるのは勘弁してくれ!)
ナツキはさりげなくソフィアの視線を遮るように、ミユの前に立つようにした。
なんとなくだが、ミユの瞳の色をしげしげと見られたら困る。
(万が一サブ・マスターに感づかれたら面倒くさいことになるしな)
そう思いながら、ソフィアとミユを交互に見やって、ふと違和感を覚えた。
「あんた、腕章はどうしたんだ」
「あら、気づかれてしまいましたか。自分で希望したことですので、お気になさらず」
はっきりとは言明しないが、責任でも取らされたのだろうか。
「そうなのか?少なくとも俺は、あの時治療を手伝ってくれたあんたには感謝しているんだが」
「それは私の台詞ですわ。あなたは私に、魔法使いとしての原点を思い起こさせてくれましたから」
あの時はいろいろ差し迫っていたとはいえ、殺すなんて言って悪いことをした。
五星ギルドの連中のなかにも、まだマシなやつ――もとい、賢明な人物がいるのは嬉しい誤算である。
ナツキはこういう人がもっと増えたらいい世の中になるのにと思った。
「ところで、これからどちらへ?」
先ほどまでのやりとりからすると、他意はない質問なのだろう。
(んー、グランドロッドに行き先が伝わるのはどう考えても良くないが……)
「ロックベルに向かう。サリー砂漠を越えるためにここにきたんだ」
なんとなくソフィアは、信用できる気がした。
「そうでしたか。なぜさっきはため息を?」
「あぁ…こいつらのせいで手持ちの金がなくなってな。商人の馬車に文無しで乗せてもらう交渉をこれからするのかと思うと、気が重い」
傍らのギーメルとミユを見やって、大仰に肩をすくめてみせた。
「そういうことでしたら、私の知り合いの商人に紹介いたしましょうか」
「え、いいのか?」
今日は色々と驚かされることばかりだ。なんでこんなに協力的なのだろうか。
「勿論です。あなたの旅に聖母神様の加護があらんことを」
ソフィアが微笑んで、馬車の出立を待つ、商人に話を通してくれた。
どうやら診療所で、無償の治療を施されたようで、その恩義をから旅費は要らないと言ってくれた。
ナツキは渡りに船、とありがたく申し出を受けることにした。
ギーメルのせいで手持ちの金がなかったから、本当に助かった。
「お金なら私が持ってたのに…」
なぜか、ミユが不機嫌になっている。
さっきまで鼻歌を歌っていたくせに、なんなんだ。
「ありがとう。世話になった」
「えぇ、また会えるといいですわね」
前回は絶対嫌だと言ったが、今回は不思議とそれを言う気にはなれなかった。
とりあえず、タペルでの目的は達成した。
これから長いサリー砂漠の旅だ。
パーティーは3人になった。
ひとりは元盗人、ひとりは現役の盗賊、俺は指名手配の盗人…。
なかなか愉快なパーティーだ。
最近はよくよく盗人との縁があるようだ。




