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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
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24 星は集う①〜王都タペル〜

 首都タペルは魔法国家エディンの最大の城塞都市である。

 タペルは”芸術の中心地“デールから、西方向へ馬車で4日ほど移動した位置にあった。


 王都の中心の高台には王城がそびえ、そこから同心円状に城下の街並みが広がっており、赤レンガの屋根屋根を見下ろすことができる。


 王城は守りが堅牢なことでも知られ、城壁に囲まれ、周りに堀がめぐらされていた。

 一握りの人間を除いては、普段の王城への出入りは限りなくないと言ってよかった。


 王城に立ち入ることができるのは河川に跳ね橋が掛り、城門の落とし格子が上げられた時だけである。


 城壁の周りは階段を下りるように低く作られ、そこには貴族の屋敷が立ち並んでいた。

 貴族エリアを一周するように赤レンガで作られた壁があり、外側はさらに一段低い造りとなっている。


 ここより外は一般市民の生活エリアとなる。

 国営の歌劇場、闘技場、美術館などが集中していた。


 王都の西側には魔法ギルドの本部が立ち並んでいる。

 これは、王都西の海岸付近にある“レリィの洞窟”から度々魔物が襲ってくる、という地勢状の理由からであった。

 それぞれが魔法使いの精鋭をそろえて、王都を防衛するという役割を担っている。


 東側は、敵国がもっとも攻めてきやすい方向であるため、王軍の兵舎や訓練所が並んでいた。


 王都の北側は雑貨屋や飲食店、衣料品店などあらゆる店が軒を連ね、エディン一の繁華街となっていた。


 タペルでは年一度「五星会議」が開催される。

 魔法ギルドのトップに君臨する5つのギルドが集まり、様々な議題を討論するのだ。

 決定事項は、国王に上奏することができ、事実上エディンの執政において、大きな発言権を持っていた。


 五星会議の議題は年毎によって異なるが、3日間開催されるのが慣例となっている。

 同期間に城下では大規模な祭りが開催され、これを「五星祭」と呼び、この期間、タペルは一際賑やかな都になった。



 本日の正午より、五星会議が開催される。



 庶民の居住区は、すでに祭りの人で大賑わいだ。


 繁華街には出店が並び、大通りでは国営歌劇団がパレードを行なっている。

 闘技場では魔物と魔法使いの戦闘を観戦できるトーナメントが開催されており、観客の熱気で大盛り上がりだった。

 王立公園には即席の舞台がつくられ、歌、踊り、講演会など様々な催しが行われていた。



 タペル王城の奥に“宵闇の間”と名付けられた広間があった。

 天井にはシャンデリア、壁には神々の戦いを描いた絵画がかけられている。


 この広間は主に五星会議が開かれるときに使用され、部屋の中央には、古めかしい円卓に椅子が6つ。

 それぞれに、議長と、五星ギルドのギルドマスター達が座るのだ。


 議長は王直属4軍のいずれかの将軍が担う。

 会議で発言権を持つのはこの6名のみ、そして各ギルドのサブ・マスターまでが傍に侍ることができた。


 今回議長を務めるのは“漆黒の獅子(ブラックライオン)“軍団長のイザベラ・スミス。


 青灰色の髪に2つの泣き黒子が特徴的だ。

 見た目は若い女性だが、不思議と貫禄がある。

 4軍団長で唯一の女性であった。


 彼女は嫣然とした表情を浮かべながら、ギルドマスター5人の到着を待っていた。



 「おい、町で休んでいかないのか!?」

 「あほか!俺は指名手配されているんだっつの」


 デールの町の西側、マァム湿原で言い争いをしながら歩く2つの影。


 ナツキとギーメルであった。


 ナツキはギーメルの家族を救うためにロックベルの町に向かっていた。

 ロックベルは中央平原の北側にそびえるロック山脈の最西端にある町。

 “芸術の中心地”デールからみて北西方向に位置する場所であった。


 中央平原から向かう場合、デールの町によって一休みするのが普通である。

 しかし、ナツキは最近、デールを統治する貴族に喧嘩を売って指名手配されたばかりである。それに加えて、トラブルメーカーのギーメルを連れているので、問題が起きないわけがなかった。


 そのことに腐心するくらいなら、立ち寄らないのが賢明だと判断した。


 そういうわけで、デールを素通りして行く旨を伝えたギーメルから文句を言われているのである。

 もちろん本当の理由を明かせば、ギーメルは怒り狂うに決まっているので、そこは適当ににごしておいた。



 「あーぁ、追われる身はつらいねぇ」

 「お前も盗賊だろ。ふざけんな」


 この“歩くトラブルメーカー”め。


 「で、ロックベルに行くなら、北に向かうんじゃないのか?」


 ギーメルが質問してきた。


 「あのなぁ…サリー砂漠を貧弱装備で渡るのなんて命知らずすぎるだろ」


 ギーメルは地図上の直線距離、最短経路しか見ていないのだろう。

 確かに、デールから北西方向に真っ直ぐ進めばロックベルに着く。


 しかし問題は、町の北西方向に大きくひろがっているサリー砂漠だ。


 魔物の強さはサイエフの森と同程度。これは問題ない。

 危険なのは夜の寒さだ。

 もともと、砂漠というものは寒暖差が激しいものだが、ロック山脈から吹き下りる冷気の影響で夜の冷え込みがさらに深刻になる。

 焚火をして夜を過ごそうにも、砂漠地帯だから薪もない。


 そのため、ロックベルに行く時は、いったん砂漠の南、王都タペルに寄り、装備を整えて商人の馬車に乗せてもらうのが一般的な移動方法であった。


 ナツキはグランドロッドの本部があるタペルにはなるべく行きたくなかったが、五星祭の賑わいの中なら紛れることができると考えた。


 「お前、家族がロックベルにいるってことは、北国出身だろ?その時に移動手段は何を使ったんだ?」


 何気なく質問してみた。


 「え?俺は身1つで旅立ったぞ」

 「は?」

 「ん?」


 聞けば、冷える夜は走れば寒くないと自分に言い聞かせて進んでいたらしい。


 (あほかー!なんてやつだ)


 どうしても我慢できない時は魔物を倒して毛皮にくるまって寝たとか。どこの野生児だ。


 (いかん…常識がない。常識は俺もよくわかっていないが、こいつは生きる上で最低限必要な部分がない。本当にタペルに行って大丈夫だろうか…)


 激しい不安に襲われる。


 「おい、前方から魔物が多数きたぞ」

 「む…?」


 ギーメルに言われて目を向けると、魔物コボルトの群れだった。20匹もいる。

 こいつらは単体だと臆病な魔物だが、集団になると強気に襲ってくる。

 大体5匹を超える集団になるとボスがいるので、そいつさえ倒してしまえば戦闘終了になることが多い。


 おそらく最も後ろにいる一際身体の大きいコボルトがボスで間違いないだろう。


 (よし、炎弾一撃でボスを屠りますか)


 魔法を放とうとしたその時――


 「とりゃあああ!」


 ギーメルが突撃した。


 あっという間に乱戦だ。

 相手の攻撃を交わしつつ、ギーメルが暴れ回っている。


 ナツキは頭を抱える。


 「どあほー!!なに余計なことしてんだー!」

 「なんだよ、倒せばいいだろ」


 得物を四方八方にぶん回しながら、返事をしてきた。


 相手を興奮状態にさせてしまったら、ボスを倒しても戦闘継続となるだろう。

 おまけに戦闘の中心にギーメルがいるせいで、俺の広範囲魔法で吹き飛ばすことすらできん。


 仕方ないので炎剣(フレイムソード)を出して、ナツキも乱戦に加わった。


 コボルトは、動きは速いが力がないので、不意打ちで急所を攻撃されない限り死ぬことはない。


 驚いたのは、ギーメルが乱戦の中、一撃も受けずに敵を撃破していくことだった。


 (こいつ口だけかと思ったらやりやがる)


 賢眼を発動させて観察してみた。


 妖刀でコボルトを撃破するたびに、少量の魔力がギーメルに蓄積されていく。

 しかし、一向に魔法を使う様子がない。


 「おい、おまえ魔法は使わんのか?」

 「うむ。めんどいからな。斬った方が早い」


 (おいおい!それだと宝の持ち腐れだろ。いや、妖刀は運低下(デバフ)効果があるから、より悪い)


 ギーメルには色々とあとで話す必要があるな。


 色々と考えていたら、ギーメルが最後の1匹を倒して戦闘が終わった。


 「ふぅ…いらぬ戦闘だった…」


 ついつい愚痴を溢してしまう。

 ギーメルが「ははは。ちょろいぜ」と笑っているのにイラッとした。

 文句を言っても効き目がなさそうだ。



 気づけば陽は落ち、湿原が暗くなり始めた。


 「今日はこの辺で野宿するぞ」


 2人は湿地を避け、適当な草地を見つけて薪を集め、焚火をつくり、夜営の準備をした。


 薪がパチパチと音を鳴らし、炎が揺らぐ。

 保存食に持ってきた干し肉の表面を軽く炙り、酒を飲みながら語らった。


 「それにしてもお前、魔力を吸収する妖刀を使っているのに、魔法を使わないのはもったいないぞ」

 「あァん?その話か。ユウヤさんに習ったことはあるが、魔法式ってのがめんどかったから、覚えなかった。ははは」


 大雑把な奴だ。


 だが、魔法式の扱いが苦手だったとしても、やりようはある。我流で叩き上げていく盗賊たちは、魔力に関する知識は偏っていそうだ。


 「おまえ、魔術は知っているか?」

 「なんだそりゃ。魔法とは違うのか?」


 予想的中だった。

 魔法式の扱いが苦手でも、魔術なら得意な人はよくいる。

 ナツキは師匠に教わってきたが、このことを理解していない魔法使いは多い。


 「魔術ってのは、魔力を直接別の性質に変えるのさ。魔力切れになりやすいが、おまえの刀ならその弱点を補えるだろう」

 「へー、そんな方法があるのか。どうやったら使えるんだ?」

 「おまえには口で教えるより、直接体験させたほうが早そうだ。ちょっと手を貸してみ」


 ナツキはギーメルの左手を両手で持った。


 「魔力を左手に集中してみろ」


 段々とギーメルの左手がオーラに包まれる。

 濃紫の輝く光だった。


 (こいつはめずらしい属性だ…。炎と氷属性の両方持ちか)


 ギーメルは稀に存在する、複数属性の力を持っていた。

 ちゃんと魔法を覚えたら炎と氷を使いこなせる両魔になれる。

 力任せで野生味ある戦闘スタイルといい、才能はすさまじい。


 「おまえ、炎と氷の才能があるな」

 「へー、なんでもいいが、どうやったら炎を出せるんだ」

 「とりあえず今回は俺が炎への変換を手伝う。やり方は感じ取れ」


 ゴォッ


 音とともにギーメルの左手から炎が上がる。


 夜営している周辺だけ明るく照らし出される。


 「うおおおお!すげぇえええ!」


 ギーメルが喜んで動き回っている。


 「ははは。よかったなー、って…」


 喜んだのも束の間、燃えた左手を振り回して岩や木を殴りはじめていた。


 「お…おい、調子に乗って使い続けるなよ」


 「ははは!こりゃいいや!はははー!」


 コツを掴んだのか、炎を飛ばしたり、消した直後に出したりと、調子にのって使いまくっている。よほど嬉しかったようだ。


 プスン…


 突如火が煙と共に消え、ギーメルが地面に倒れた。


 「ぁぁあああ…なんか急にしんどくなってきた…」


 「バカ!言わんこっちゃない。初魔術で威力調整もできないのに調子に乗りすぎだ」


 魔力切れで倒れた。


 (俺は薬屋だけど、バカにつける薬がほしい…)

次回は五星会議に関連して新登場人物が色々と出てきます。

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