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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
23/208

番外編 ある少年の目覚め

 魔法学校デール分校は今日も平和だ。



 昼食休憩中の教室で生徒たちが会話する声が響いている。

 教室の一角に、楽しそうに会話している3人の生徒。


 「この人が俺の母さんを治療してくれた人だよ!まっじですげぇんだ」


 ジョージは手配書を机に広げながら熱弁をふるっていた。


 彼はナツキと出会ってから、思うところがあったのか 、真面目に勉学に励んでいた。

 ずっと目の敵にされていたポールが不思議なことに長期休学となり、学校生活は充実していた。

 なぜ、休学になったのか疑問だが、わざわざお見舞いにいく関係ではない。

 それに、いまのジョージにはそんなことはどうでもよかった。

 広げている手配書には「“青眼”のナツキ」と書いてある。



 ナツキがデールを出奔してから、町は似顔絵付きの手配書で溢れかえっていた。


 ジョージがはじめて手配書を見たのは、分校の中央校舎掲示板である。

 学校に手配書が掲示されるなんて異例のことだ。

 果たして、手配書を見た最初のジョージの感想は――


 「え!?あの人が青眼(ブルーアイ)だったの!!!!」


 あまりの驚きに、掲示板にかじりついて手配書をまじまじと見る。

 おかげで、廊下を行きかう生徒の注目の的になってしまった。


 ジョージはもとから、貴族からお金を盗んで下町でばら撒く、青眼(ブルーアイ)のことが好きだった。


 自分のようにお金に困って苦しむ人間を、見返りなしで助けてくれるようなナツキだ。

 あの薬屋が義賊・青眼(ブルーアイ)だったという事実は、すとんとジョージの胸におちたのだった。



 そして青眼(ブルーアイ)、その人こそが、自分の母を助けてくれた恩人なのだと、学友に自慢していたのである。


 友人たちも「すげぇ」「まじかよ」と反応してくれるので、ジョージは気を良くしていた。



 バタン


 突然、乱暴に教室の扉が開いた。


 クラスのみんなが沈黙して、一斉に視線を向けている。



 「けッ…」


 片足を引きずりながら杖でヨタヨタと大人が入ってくる。

 およそ3週間ぶりに登場したポール先生だった。


 「先生……久々に会えて嬉しいです」


 ポール先生に媚をうっていた貴族の生徒たちが話しかける。


 「見舞いにもこなかったくせに。まぁ、なんとか歩けるようにはなったよ」


 久々に顔を見るが、居丈高な態度は相変わらずのようだ。



 ジョージからしてみたら、また、あの嫌な生活に逆戻りか…という気分だ。せっかく気持ちよく談笑していたのに、気持ちが萎んでくる。

 しかし、以前のように一方的にいじめられるのはもうしない。こいつのことは許せない。


 母は助かったが、倒れた日に薬を燃やされた恨みは忘れていない。


 なにかしてきたら、何度でも闘う。ジョージの胸には内なる炎が燃えていた。



 「よお、ジョージ」


 ポールが話しかけてきた。視線が、机の上の手配書へと向いている。途端に表情が一変した。


 ギリリッ


 歯軋りをさせ、鬼の形相をするポール。


 「こんな奴……!」


 ポールがグシャッと音をさせながら手配書を手にとった。

 そして、様々な悪態をつきながら、ビリビリと破り捨ててしまった。


 (盗みに入られた恨み…?)


 それにしては、憎しみが大きすぎるようにも見えた。

 なんにせよ、自分の憧れの人の手配書を破いたことは、我慢できない。


 「なにをする!」

 「なんだ、おまえ、逆らうのか?」

 「その人の手配書を破ったこと、謝れ」

 「ほう、俺がいない間に偉そうな口をきくになったな」


 2人の口論がはじまり、ポールの後ろには貴族の生徒が数人集まってきた。


 ジョージの後ろにいた学友2人は罰の悪そうな顔をしながら縮こまっている。いまにも逃げ出したげな、そんな表情だ。



 「だから、こんなすごい人いないって!」


 ナツキのことは譲れないジョージだった。


 「しつこいぞ!!」


 ポールがいきりたって、胸倉をつかんできた。


 「その人のこと悪く言うのは、わたしも承知ませんよ!」


 よく通る大きな声が教室で響く。


 目線を横に向けると、クラスメイトのクララが立っていた 。普段あまりしゃべったりする仲ではないが、たしか商店街の肉屋の娘だった気がする。


 「なんだァ、おまえ。文句あるのか?」


 ポールはジョージの胸倉をつかんだまま、クララに凄んでみせた。


 「あるわよ。この人、商店に迷惑をかけていたごろつき集団、スネークを壊滅させたのよ。ほんっとにすごいんだから。あんたみたいなヤツに言っても無駄でしょうけど。私はこの人のこと尊敬してるんだから!」


 教室がざわざわとしはじめる。


 「まじ?嘘じゃないよね…」

 「え、あのやばい奴らを壊滅させたのって青眼だったの…?」

 「俺の親の店も理不尽な取りたてに困ってたから、すげぇ助かったんだよね」


 ジョージの後ろにいた2人も顔を見合わせて、眼をパチクリとさせている。


 貴族の生徒たちは「そんなヤバイ奴だったんだ…」などと会話していた。


 ポールは眉間にシワをよせながら、クララを睨みつけている。


 クララもまっすぐポールを睨み返した。



 ジョージはクララも同志と知って、なんだか親しみを感じていた。

 援護射撃を受けたようで、ますます負けん気が湧いてきた。


 「ほら、言ったとおりだろ!青眼(ブルーアイ)は庶民の味方だ。悪いやつらを懲らしめてくれたんだ!」


 「……その言葉軽くないぞ。お前たちには課外授業を行なってやる」


 ポールが睨みながら言ってきた。


 「なんだよ…課外授業って」


 「直接殴ってやりたいところだが、今は体が万全じゃない。放課後、召喚魔法で呼び出した下僕(しもべ)をつかった戦闘をする」


 「いいだろう。望むところだ」


 召喚魔法の成績にはいまいち自信がないから不安だが、引き下がるわけにはいかない。


 「俺が勝ったら、おまえは青眼(ブルーアイ)の手配書に唾を吐け。おまえが勝ったら、謝罪してやるよ」

 「その言葉、忘れるなよ!」


 蔑んだような一瞥をくれて、フンッと鼻を鳴らしてポールは教室を出て行った。



 教室に残った生徒たちの話題は、今しがたのやりとりで持ちきりだ。


 「ジョージが先生に勝てるわけないじゃん」


 そんな会話が耳に入ってくる。

 勢いで勝負を受けてしまったが、もう引き返せない。しかし、放課後までに強力な召喚魔法を覚えられるはずもない。


 「ちょっと、あなたが負けるのはどうでもいいけど、ナツキさんの手配書に唾吐いたら許さないよ。どうするの」


 クララが話しかけてきた。勝気なクララに押され気味だが、ジョージもここは譲れない。


 「そんなこと言ったって、手配書を破いたあいつを許せないだろ」

 「あなたねぇー、ならもうちょっとマシな種目で勝負できるように言いなさいよ」

 「ぐぐッ…」


 ジョージは頭を抱える。


 「で、あなた召喚魔法で呼び出せる精霊か魔物はいるの?」

 「…自我のない風属性の精霊くらいなら…」

 「あっきれた!もう、なら私が召喚は手伝ってあげる。私だって許せないし!」


 こうして、ジョージとクララ、即席の共同戦線が張られることになったのだった。





 放課後、ポールは校門の外で右手を胸に当てながらお辞儀をしている魔法使いのもとへ向かった。

 ポールの父アイザックが、二度と同じような被害を受けぬよう、上位魔法ギルドの人間を護衛を雇ったのだった。


 「お疲れ様です。ポール様」


 お辞儀をしたまま挨拶を述べてくる。


 「おい、フィン。おまえ、召喚魔法は使えるか?」

 「それはもちろんで御座います。なにか要望でも?」

 「あぁ、おまえの使える最強の召喚獣で叩きのめしてほしい奴がいる」


 召喚魔法は精霊魔法に区分される。

 魔法陣を描き、祈り・儀式などを行い、精霊に呼びかける。

 地属性の精霊なら粘土、水属性の精霊なら水を媒体にし、魔力を込めることで、精神体の精霊が現世に現れる。


 呼び出すには精霊をなんらかの方法で従える必要がある。戦闘による勝利、対話による要請など様々だ。

 ポールは自分で使える精霊でも勝てる自信はあった。しかし、怪我してから魔力が安定しない懸念材料が拭えない。万が一にも負けることなどあってはならない。


 そこで、護衛兵の呼び出す精霊をつかって勝利しようと考えたのであった。


 「仰せのままに」

 「よし。こい」


 ポールは邪悪な笑みを浮かべながらジョージ達の元へ向かった。




 ジョージとクララは魔法学校の校庭の端にいた。


 ジョージは不安な表情をさせつつ、佇んでいた。


 「ちょっと、しっかりしなさいよ。ナツキさんの名誉がかかってるのよ」


 「うっさいな。わかっているよ」


 クララが叱りつけてくる。まさか、クララがナツキと知り合いだったとは。

 驚いたが、彼の話をできる生徒が学内に見つかるなんて、不思議な気持ちだ。


 ポールとの戦闘が終わったら、色々語りたいところだ。



 「びびって逃げ出さなかったようだな」


 ポールがやってきた。

 後ろには青いマントを羽織った魔法使いがいる。

 口元には火のついた煙草がある。


 「それはこっちのセリフだ」


 とりあえず言い返しておく。


 「ふん。ではお互い召喚といこうか」



 クララが一歩前に出て魔法詠唱をする。


  ≪精霊召喚≫(スピリットエンゲージ)


 クララの足元から土が盛り上がる。

 ゴロゴロと音を立てながら、短躯な土の塊が出来上がる。


 クララの体から魔力の光が土へとながれ、生き物のように動き始めた。


 「がんばってね、ノーム」


 クララが呼び出したのは土の精霊ノーム。

 土属性では下位の精霊であるが、魔法使い見習いとしては優秀と言える。

 彼女は肉屋の手伝いをしてもらいたいと考えて、精霊魔法を懸命に学んでいたのであった。


 「おぉ!やるなぁクララ!」


 (クララに手伝ってもらってよかった!)


 ジョージは小さな声で感嘆の声をあげる。


 「その程度か。ははは」


 ポールは見下すように笑っている。


 「先生もさっさと召喚してくださいよ」


 「よし、やれ」


 後ろに控えていた魔法使いが前に出てきた。


 「ちょっと!魔法ギルドの人に召喚してもらうなんてズルイわよ!」


 クララが抗議をする。


 「あ?これは元々は俺とジョージの試合だ。そっちもクララが召喚したんだから、条件は同じだろ」


 「く……」


 言い負かされてしまったが、助っ人のレベルが違いすぎる。


 青いマントの魔法使いが詠唱を開始した。



 ≪精霊召喚≫(スピリットエンゲージ)


 「出でよ、サラマンダー」


 口元の煙草を前方に捨てる。

 突如、燃えている箇所から激しく炎が飛び出してくる。


 地を這うように蜥蜴のような姿の炎の精霊が生み出された。

 体のサイズはノームの3倍ほどもある。


 「くッ…」

 「まずいわね…」


 ジョージとクララは、明らかに格の違う精霊に焦りを感じていた。



 「ははは!ではショータイムだ!」


 ノームとサラマンダーの戦闘がはじまった。

 一般的には炎属性に土属性は有利である。

 攻撃によるダメージを受けにくいからだ。


 しかし、それは同レベル帯の話である。


 体格差がありすぎて、魔力を込めていない打撃でさえ、深刻なダメージをもらってしまう。


 サラマンダーが回転をしながら尻尾でノームを攻撃した。


 ノームは土の盾を作り出してガードする。


 ドォーン


 左手方向に5メートルほど飛ばされてしまった。


 「そんな!ガードは間に合っているのに」


 クララが嘆く。


 ジョージは慌てることしかできない。


 「はははは。愉快だな」


 ポールだけが楽しそうだ。


 サラマンダーが追い討ちするように≪炎弾≫(ファイヤーミサイル)で攻撃をする。


 ノームは土壁を作り出し、炎弾を全て防いだ。


 「おい、炎魔法なんかいらんだろ。打撃でねじ伏せろ」


 ポールが魔法使いに命ずる。


 (どうしよ…どうしよ…)


 ジョージは考えた。

 自分にできる魔法はない。応援することしかできないが、開始早々敗色濃厚。


 しかし、クララは優秀だった。


 ノームに必死に指示をだしながら、紙一重で攻撃を避けている。


 打撃に対して土壁をつくり、攻撃を受ける。

 サラマンダーののしかかりに対しては、土魔法で地面を堀り、地中へ逃げる。

 遠距離攻撃は全て土弾で相殺していた。


 「すごいな!クララ!」

 「今、集中しているの!ちょっと静かにしてて!」

 「ごめッ…」


 もちろん、勝機が見えたわけではないが、ジョージは素直にクララと精霊をすごいと思った。


 「くっそ、ちょこまかと…」


 ポールの額に青筋がうかぶ。


 「死ね!」


  ≪氷弾≫(アイスミサイル)


 ポールがノームに向かって魔法を放つ。

 サラマンダーの攻撃に集中していたノームは横からくる氷弾をまともにくらって吹っ飛んでしまった。


 3メートルほど吹き飛び、パキパキと凍りだしている。


 「ははは!これで俺の勝ちだな」


 「ちょっとー!なに直接攻撃してんのよ!あんたが直接対決できないから召喚魔法の勝負になったんでしょ!」


 「黙れ、下民」


 「あんた最低!!!」


 怒るクララに対し、ポールが暴言を吐く。



 ジョージは腹の底から怒りがこみ上げてくる。

 しかし、この局面で自分にできることなんてあるのか…。自分に魔法の技術などない。得意なことなど歌うことしかないのだ。



 “―――得意科目があるなら誇ったらいいさ。魔法だけしか見ないやつは、魔法も見えなくなるぞ―――“



 あの日のナツキの言葉が浮かんだ。


 ジョージは目を瞑る。


 この気持ちを歌に乗せよう。


 …



 『母なる大地よ

  父なる草木よ

  強き鼓動をきざみ

  我らと共に…』


 ジョージは古くから歌われている「大地の唄」を歌いはじめた。


 「あァん?気でもふれたか?」


 ポールが怪訝な表情を浮かべている。


 『大地よ、目覚めよ

  我らの声と共に』


 ジョージは魔力を込めながら歌い続けた。


 ジョージの体を草原色のオーラが包み込む。そのオーラには所々、大地のような土色の線が入っている。


 旋律にのって、風に舞い上がるように、光の小さな粒となって辺りに広がる。


 キラキラとしたオーラは凍りつきながら倒れ伏すノームへと流れていく。


 『大地よ 目覚めよ―…』


 ノームの体が歌に応える様に起き上がる。

 それだけではない。

 地面から土が盛り上がり、ノームの体に吸収されていく。

 見る見るうちに巨体へと成長を遂げていく。


 ノームはすでにサラマンダーを超える大きさとなった。


 青いマントの魔法使いも「バカなッ!召喚後に進化だと!?」と目を剥いている。


 「すっごーーい!」


 クララの歓声が響く。


 ジョージが使ったのは歌魔法。補助魔法の一種で、魔力を歌に乗せて強化を行う。

 魔法学校では教わらない特殊な魔力の使い方であった。


 「グァぁ…」


 サラマンダーが怯んでいる。


 ノームは右手を振り上げ、サラマンダーの頭に振り下ろした。


 「グァァァァ!!」


 悲鳴を上げながら、サラマンダーは倒れ、消えてしまった。

 召喚時に与えられた魔力を超えるダメージをうけると、精霊は消えてしまう。

 地面にはボロボロにちぎれた煙草が落ちているだけであった。


 ジョージとクララの勝利である。


 「なッ…!!こんなバカなこと認められるか!精霊同士の勝負だったはずだ。強化なんて汚いぞ」


 「なによ。自分だって魔法で横から攻撃したくせに。先生の負けよ」


 「くっ……」


 ポールが歯軋りをさせている。


 「いぇーーい!」


 ジョージとクララは巨大化したノームとハイタッチした。

 2人の笑い声と、微笑むノームがいた。


 「ふん。手配書に唾を吐くのは勘弁してやる。フィン!行くぞッ」


 ポールが逃げる様に去っていく。


 「あ!待て!謝ってないぞ!」


 すでにポールは去っていった。


 腹立たしいが、ジョージはクララと目を合わせ、にんまりと笑い合った。

 尊敬する人間の手配書を破いた男をギャフンと言わせたのは気分が良かった。

 

 この世に数少ない歌魔法使いが誕生した瞬間であった。


 この日をきっかけに、ジョージとクララによって、ナツキがスネークを壊滅した噂が学園で爆発的に広まっていくこととなった。


 ―――今日も魔法学校は平和(?)だった。

次話から主人公の旅の続きです

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