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薬屋の気ままな旅  作者: 結城隼人
第一部
10/208

09 盗人の葛藤④

 あれから3日経った。

 ミユはウィルソン邸からの逃走経路を探索し続けた。

 警官・軍人・魔法ギルドの魔法使いが大勢駆り出され、警戒網が厳重だったために町娘として買い物するふりをしながら少しずつ調べた。そのせいで時間がかかってしまった。


 (くそ…こんなに時間をかけたらすでに誰か拾われてしまっているだろう)


 とりあえずウィルソン家のものに回収されてはいないようだ。

 その証拠に盗みに入った翌日に自分の懸賞金が跳ね上がった。侯爵を本気で怒らせたらしい。


 町中で盗人青眼(ブルーアイ)の悪事を糾弾する新聞号外がまかれていた。

 記事には「金塊・宝石・その他家財を盗んだ」と書いていた。金塊と宝石以外に盗んだのはあの鍵しかない。それをまだ私が持っていると思っているのだろう。


 (やはりここにもないか…)


 これで自分が通った道は全て調べた。

 近くにあればすぐに気づけるよう、スキル「盗賊の鼻」は常に発動させている。

 しかし、見つけることはできなかった。

 誰かが拾って持っていったとしたらそいつを見つけなくては。町を出られたら厄介だ。


 焦る気持ちを顔には出さないように、買い物に興じる町娘を装いながら歩き回る。

 歩いている最中に聞こえてくる町民の会話の中には“青眼(ブルーアイ)”の話題も多い。


 「青眼(ブルーアイ)が貴族に一泡吹かせてやったのはスカッとしたぜ」

 「もし捕まえたら懸賞金でずっと遊んでくらせるな」

 「五星ギルドも大したことないな」

 「いいや、五星ギルドならすぐに捕まえるさ」


 反応は様々だ。


 別に慈善活動をしているわけではない。貴族の側が悪いと考えているが、自分のやっていることが褒められるようなことではないと分かっている。なので、良い噂も悪い噂もあまり気にしないようにしていた。


 (ん…この気配は…)


 大通りから下町の入口にきたところで「盗賊の鼻」が反応した。

 貧困にあえぐ人たちが生活する下町で、宝の気配がすることなんて滅多にない。


 ここの近くにあるのか。高揚する気持ちを抑えつつも、気配のする方向へと歩みをすすめる。

 数十メートルは歩いただろうか。

 ほぼ間違いないだろう。これだけ遠くから気配を感じ取れる宝は珍しい。


 「あそこか」


 ミユが目を向けた先には、地面に布を広げて薬の調合をしている男がいた。ローブはぼろぼろ、髪はぼさぼさ、見るからに怪しい行商人だ。


 (アイツは確か、あの夜に出会ったな…そうかあの時に落としたのか)


 ミユは念のために水分身で様子を見るほうがよいと考えた。


 下町の住居と住居の間の小さい路地に入り、水筒から水を出して、分身を作り出した。

 屋敷で使ったときよりも魔力を多くこめる。そして、複雑な会話でも対応できるように魔法式を組み込んでいく。

 これで普通に会話できる水分身ができあがった。


 「行け」


 ミユは水分身をぼろぼろのローブの男に向かわせ、木陰からその様子を見守ることにした。



 ナツキは憂鬱だった。


 3日前の晩飯を干し肉で我慢した時からケチがついてしまった。

 この2日間、稼ぎも悪い。


 商品が売れないのだ。そもそも増税で町民の財布の紐はきつくしまっている。

 それに加えて、人目につかないところで店を広げていたせいもある。


 なぜそんなことをしているかって?あの青眼(ブルーアイ)さんのせいですよ。


 おそらくアイツは召喚の鍵をなくしたことには気付くだろう。取り返しにくると考えられた。

 ナツキとしても青眼(ブルーアイ)には会っておきたい。盗人の動機を知りたいし、鍵の使用目的も気になる。


 そこで警察や魔法ギルドの人間が来ないような、下町の裏通りで店を広げていたのだ。

 暇すぎたので、わざわざ青眼(ブルーアイ)の肩傷に効く薬まで調合済みだ。

 俺ってなんて気が効くんだろうと自画自賛していたが、肝心の本人がこないのでは意味がない。


 (話しかけやすいと思ってこんな所にいるけど、逆効果か?だとすると俺の生活費を苦しくしているだけだなこりゃ)



 「はぁあぁーー…」


 大きなため息もでてしまう。


 どうやったら青眼(ブルーアイ)に会えるかわからないので、相手から話しかけてもらおうと考えていたが、作戦を変える必要があるかもしれない。



 「こんにちは。品物を見てもいいですか」


 (おっと、お客さんだ。めずらしいな、可愛らしいお嬢さんだ)


 髪型は茶色のミディアムヘア。

 服装は水色のケープに、白いプリーツスカート。

 そして、黒のブーツを履いている。


 (ふむ…どう見ても下町の裏通りを歩くような人間じゃない)


 「いらっしゃいませ。どうぞ見ていってください」


 明るく返事をしておく。


 (やっときたか…?)


 ナツキは鼻先にかかっていた丸眼鏡を中指で目の高さまで押し上げる。

 賢眼を発動させて客の女性を見ると――


 (すごいな。水で構成された魔体か。ずいぶんと綺麗な魔法式が刻まれている。一定程度の魔法使いでも、普通の人間と思うだろうな)


 相手の魔法に素直に感心した。ナツキの賢眼は相手の魔法の内容を看破する。そして魔力の流れ、性質、色までがわかる。


 (水の体に流れている魔力は透き通る薄い水色をしているな。悪人のオーラとは思えない)


 悪人であればあるほど、魔力の色は濁って見える。

 それによって魔法の威力や精度が落ちることはないから、気にするような話ではない。

 例外は聖魔法と闇魔法だ。悪の心に染まったオーラをまとうと聖魔法は効果が弱くなり、闇魔法は逆に強まる。

 魔族や魔物の魔力はどす黒い。魔物が聖魔法をほとんど使えないのはこれが理由であった。


 (本体はどこにいるのかな)


 ナツキは魔力感知の範囲を広げる。どうやら20メートルほど先の木陰に誰かいるな。

 おそらくアイツがこの魔法の主だろう。間違いなくアイツが青眼(ブルーアイ)だ。


 さて、目的を聞いてみるか。


 「なにをお探しですか」

 「そうね。めずらしいものを探しているの」

 「めずらしいもの?」

 「そう。この店で1番高額なものはどれかしら」


 そこまで露骨に聞いてくるなら、鍵を持っているか聞いてもいいものだ。

 ナツキの出方を伺っているのだろう。

 

 (分身との会話なんて人生で何度もできるもんじゃないし、もう少し堪能もしたいが、この生活もいい加減うんざりだ。さっさと本題に入ろう)


 「はい、どうぞ。と言いたいところですが、分身に本音を語るほどできた人間じゃないのですよ」

 「…!!」


 本当によくできた魔法だ。

 驚く表情まで浮かべている。木陰にいるやつも驚いているようだ。


 「なぜ分かった」

 「そんなもの一発で分かりますわ。体の構成が水と魔力のみなんて人間いないでしょ。まァ普通は見抜けないでしょうから、自信もっていいですよ」

 「あなた一体なにもの」

 「その問いは木陰にいるあなたの主に答えたいな」


 またしても驚いた表情を浮かべている。


 「そこまで見抜かれているとはね」


 そう言いながら木陰に隠れていた人物が出てきた。

 歩いてきた女性が水の分身に触れると、溶けるように消えていった。


 「まさか水魔法の使い手とはね。さすがは青眼(ブルーアイ)様」

 「本当になんでもお見通しね。そう、私が青眼(ブルーアイ)よ」

 「俺は薬屋だ。よろしく」

 「なぜ青眼(ブルーアイ)だと思ったの?」

 「まァ、ウィルソン家と五星ギルドの連名で手配書が回っていますからね。誰でもあの日の夜に出会ったのが青眼(ブルーアイ)だと分かりますよ。そして、こんな裏路地で俺に話しかけてくるのは、事情がある人間しかいないさ」

 「ならば私の目的も分かるでしょう」

 「鍵のことだろうね」


 (俺の売り上げを盗りに来たのかととぼけてもよかったのだが、俺も待たされすぎた。翌日に来てくれていたらもう少しふざけたかもしれないが、さっさと話をすすめよう)


 「その通りよ。渡してもらいたい。売り物だと言うなら買い取るわ」

 「なにに使うか教えてもらいたいね」

 「そんな邪悪な気配のするものは破棄しかないでしょう」

 「捨てるのか?」

 「えぇ。誰が手にしてても危険だからね」

 「俺の意見では、俺がもって封じておくのが1番安全なんだがな」

 「ふざけたこと言うわね。あなたを信用できるはずもない」


 もっともだ。いくら俺が清廉潔白だとしても初対面で信じてもらうのは難しいだろう。


 「信用できない気持ちは俺も同じさ」

 「なんですって…」

 「いいですかお嬢さん。これは悪魔を呼び出す魔法アイテムだ。こめた魔力に比例して強力なヤツを呼び出すことができる」

 「あなたは使い方を知っているの」

 「見るのは初めてだったがな。こういった力は持ち主を誘惑する。人間は独りでは生きていけない。なにをきっかけに力を欲して、鍵の誘惑に負けるかわからんものさ」

 「私はそんなものに惑わされたりしない!」


 どちらも鍵を他の誰かが持つことをよしとしていない。

 ナツキの気持ちとしては召喚の鍵を渡す気はない。

 青眼が破棄すると言ったら、実行するだろうが、こういう闇の魔法アイテムは不思議なことに悪人が再び手にするのだ。


 「値をつり上げようとして渋っているなら時間の無駄。あなたの言った額を払う。いくら?」

 「金はいらない」

 「なんですって」


 ぼろぼろの服を着ているからって、舐めてもらっては困る。


 「返してやってもいいが、条件がある」


 もちろんナツキに返す気はない。建前として言っているだけだ。


 「それはなに。早く言って」


 「盗人をやめろ」

 「…!!」


 よほど驚いたようだ。本日1番のびっくり顔をしている。


 「なぜだ!?」

 「簡単な話さ。あんたはこれを盗んだことで貴族を怒らせた。追手はどんどん厳しくなるぞ。次に盗みに入った時があんたの最後だ」

 「ふん。そんな話か。あんな奴らに捕まってたまるもんか」

 「それともう1つ。こっちの理由がメインさ。あんたは盗んだ金を貧民に与えているが、これは無意味だ」

 「なにを言うキサマ!!」


 青眼(ブルーアイ)が激怒して声を荒げる。


 (まぁ、最後まで聞きなよ。数日間考えて出した結論さ。あんたにもたっぷり葛藤してもらうよ)



 ミユは驚いた。

 拾ったのが誰であれ、金貨と交換できると思っていた。

 なのに、相手は金品はいらぬと言う。しかも予想外なことに、盗人をやめろということまで言ってきた。


 さきほど聞いた1つ目の理由は納得がいく。自分も強がってはみたが、次第に強まる警戒網の中で、再び盗みに入るのは厳しいだろうと考えていた。

 しかし、2つ目の理由は納得がいかない。盗みが悪いことなど知っているが、信念と誇りを持って活動していた。それをこんな得体のしれないやつに否定されるのは許せない。


 「さすがに怒りますか」

 「当たり前だ!悪事なのはわかっているが、困窮者から冷酷に生活費を奪っていくやつらが正義なわけがない!」


 「まァ話は最後まで聞けよ。おまえが盗むと貴族は財産の一部を失う。彼らは自分ではなにも産みださない。ならば、その穴を埋めるためにやることは1つ。さらに弱者から搾り取るのさ。最近、2回増税があった。色々な要素が絡み合ってはいるが、理由の1つはあんただ」

 「くッ…」


 ミユは自分でも悩んでいた。直近の増税は「青眼増税」などと言われたから気づかぬはずもない。


 「なら、どうすればいいの!やつらが奪うのを黙って見てろと言うの?」

 「そうは言っていない。俺も同じことに怒っている。ただ、この問題は根本から仕組みそのものを変えないといけない気がしている」

 「その方法はなによ」

 「まだ分からん」

 「ふん、お笑い草ね」

 「笑いたいやつは笑えばいい。だが、必ず見つけてみせる」


 ミユは何ということを言うのだと思った。仕組みとは王制と貴族制度のことだろう。それを無くすことなんて不可能だと考えていた。


 「そんなこと不可能だ」

 「諦めていたら不可能だろうな」


 男が笑いながら答える。

 ミユはそれにイラッとしながらも、どうやったらなくせるのか初めて考えてみたのだった。考えても妙案が浮かぶはずもないのだが。


 「それと、鍵を俺にくれるなら、俺がお前の代わりに青眼(ブルーアイ)として追われてやってもいい。そうすればあんたは安全になる」


 「は?」


 次から次へと予想外なことを言ってくる。


 「あなたの言っていることの多くは理解に苦しむわ。だいたいそんなことをする利点がない」


 ミユは長年盗人として活動してきたことで、個人として特定されることがどれほど危険か理解していた。

 自分の代わりに追われると言うことは、特定されることを指しているに違いない。

 そんなことをしては、五星ギルドやエディン領内に配備されている王軍から逃げ切れるはずがないのだ。


 「なーに、俺はもともと世界を見るために旅をしている。今はたまたまこの町にいるだけさ。あんたみたいに生活基盤がここにあるわけじゃない。それに、そろそろ旅立ってもいいかなと思っていたしな」


 目の前の怪しい男を信じることも、盗人をやめることも簡単に決断できるわけがない。

 しかし、なぜかコイツは不思議な説得力を持っている。


 (待てよ…。こいつが青眼(ブルーアイ)になった場合、結局私は盗人をやめることになるじゃないか…)


 ミユがそのことに気づいた瞬間。


 「ま、簡単には決められないよな。じゃあ3日以内に返事をくれ。とくにアクションがなかった場合は、俺が鍵をいただいて青眼(ブルーアイ)として名乗りをあげる。あとここに置いてある薬草は肩の傷によく効くからプレゼントするよ」


 そう言って男はあっという間に店をたたんで走り去っていった。


 「なッ!ちょっと待て!」


 必死に追うが、追いつけない。盗人のため足には自信があった。しかし、撒かれてしまった。ただの薬屋のわけがない。


 (一体あいつは何者だ…)


 その後、ミユは3日間ローブの男を探し回ることになる。

 しかし、どこを探しても見つからなかった。

追手の種類が多いので補足を書いておきます。

◆警察:町の治安活動を担う機構。

◆魔法ギルド:依頼をうけて行動する集団。今回の場合はウィルソンの依頼で町内の捜査をしてます。「警備兵」と表記しているのは、貴族の依頼をうけて元々屋敷に配備されていた人たち。仕事を民間企業に委託しているとお考えください。

◆王軍:町を魔物や敵国から防衛するために配備されています。貴族の要請をうけて町の警備や捜査を引き受けることもあります。上2つの機構より強い人間が多いため、ミユが悩んでいるのはこの人たちも行動しはじめたからです。


次話は明日アップします。

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[良い点] 気になったが、主人公の身元や正体は何だろう・・・? 読んでいくと分かってくるのかな?
[一言] 「俺の売り上げを盗りに来たのかととぼけてもよかったのだが、俺も待たされすぎた。」 ここ なんか 気に入った ナツキの賢眼 凄いね これからの展開 どうなるの 楽しみ
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