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美咲ちゃん

 休日。

 約束通りヒロと商店街の写真屋さんに焼き増しをしてもらいに。

「ちょっと時間ちょうだいねー」ということだったので、駅前のハンバーガーショップに来ていた。

 二階の窓際、ヒロと談笑していると、「千尋ちゃん?」と、あたしを呼ぶ声が……。

 声の方に顔を向けると、そこにはショートカットの良く似合う、黒縁のめがねをかけた可愛らしい女の子が、あたしとヒロの間に立っていた。

 あたしは内心、ドキリとした――。

「美咲ちゃん! 久しぶり! 元気だった!? 今日はどうしたの? 誰かと一緒?」

「ぁ、ぅん。 お昼ついでに勉強しよっかなって思って……1人だよ」

 美咲ちゃんは微笑む。

「へー、そうなんだ! 偉いね!」

『浮足立つって、こういうことかな?』

 頭の中で、そんなことがぎる。

「とりあえずこっち座って♪」

「ぁ!? ぅ…ぅん」

 本当は『嫌』という感情があった。

 美咲ちゃんと二人【だけ】でなら、楽しく話せた――。


「桜井♪ 覚えてるでしょ? 美咲ちゃん!」

「お、覚えてるに決まってんじゃん♪ 長瀬の友達で、同じクラスだったことのある……」

「そう! 小島美咲ちゃん♪」

【先日の話に出てきてくれて助かった】という表情をヒロはしている(苦笑)。

「美咲ちゃんも、覚えてるよねぇ~?」

 冷やかし半分と、美咲ちゃんの心境知りたさ半分で聞いてみた。

「!? ぅ…ぅん……」

「……美咲ちゃん、学校はどう?」

 あたしは直ぐに話題を変えた。

 美咲ちゃんの気持ちは、あの頃のまま……ううん、それ以上に強い想いを持っていると分かったから。

「ぅ、うん。勉強は大変だけど、友達も直ぐに出来たし、楽しいよ♪」

「進学校だもんね」

「千尋ちゃんも入学すればよかったのに……」

「ゎ!? 私は、家から近い方がいいから……」

 ヒロと同じ高校へ行きたかったなんて、絶対言えない――。


 そのあと、美咲ちゃんと二人でガールズトークで盛り上がっていると、ヒロの視線を感じた。

【あたしに】ではなく、美咲ちゃんに対して。

「……なによ?」

 あたしは堪らず、ヒロに声をかける。

「ん? 小島ってかわいい顔してんだなと思って。なんなら、めがねやめてコンタクトにでもしたらいいんじゃねーの?」

 あたしの心に、ヒビが入る音が聴こえてきた。

『!?』

 美咲ちゃんは――と見ると、あたしとは対照的な音を確かめるように聴いていた。


『ダメ……』


 進まないで欲しかった、止まって欲しかった、終わって欲しかった時間が、正確に時を刻み始めた――。


 あたしは俯き、やり場のない思いに囚われる。

 なんとか二人の時間を留めたくて、シューズの裏で床をキュッと擦り付けてみた……。

「あ、小島悪い。変なこと言って」と、あたしがそんなことをしていたら、ヒロが美咲ちゃんに謝り始めた。

「小島にとって、話にくい相手なんだろうし、嫌ってるかもしれないのに悪かった。ごめん」

『ヒロ……違うよ』

 あたしは胸が締め付けられていくのを感じながら、ヒロのその言葉を心の中で否定した。

 

 すると――


「そんなことない!」


『!?』


 あたしの心の中の否定より、美咲ちゃんが断然つよく否定する!

 あたしが丁度、気持ちだけでもその場から逃げ出そうと、外の景色に目を移した時だった。

 美咲ちゃんは、バンッ!と両手でテーブルを叩きつけながら立ち上がり、仰け反るヒロに詰め寄った。

 あたしとヒロは、美咲ちゃんの思いがけない行動とその迫力に圧倒されてしまった…………って、アレ? もしかして、美咲ちゃん本人が、一番ビックリしてたりする?……(汗)。

 

 美咲ちゃんは、そのまま動かない……

 ぁ!? 小刻みに震え出した!

 ぉ!? 顔が真っ赤になった!

 わ!? 頭から湯気デテルヨッ!


 そこから美咲ちゃんはクルクルと顔色を変え、目をぐるぐると回しながら「ちっ!? 千幌ちゃん……。わたす用づ思い出しちゃったから…か、かっ、カェルね!」、そう言って、あっという間に走り去ってしまった!

「ぁ!?、美咲ちゃん!」

 あたしの声がむなしく宙を彷徨さまよう……(汗)。

「……な、なんだったんだ?(汗)」

 ヒロはその態勢のまま、仰天している。

「……」

 そんなヒロを見てあたしは、何をどう話したらいいのか分からなかったけど、「とりあえず美咲ちゃん、あんたのこと嫌いではないよ」と、ぽつりと、それだけを口にした。

 ホントは、そんなこと言いたくないのに――。


「……さて、そろそろ行ってみよっか?」


 美咲ちゃんの時の流れの中へ連れ去られてしまいそうなヒロを、あたし達の時間に引き戻したくて、その場から立ち去ることにした――。


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