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約束

 パタッ、パタッ、パタッ。

 サンダルを鳴らしながら、道を挟んだ向かいの家へ。

 ヒロの晩御飯を作るようになった頃から、ヒロのお父さんが渡してくれた合い鍵。

「チーちゃん、ほんとにいつもありがとう」

 優しいヒロのお父さんの言葉が、心に響く。

 出張から帰って来た時には、必ず、私にはお土産を買ってきてくれる(笑)。

 ガチャリと鍵を開け、勝手知ったる他人の家へ。

 そのまま二階へと上がり、ヒロの部屋まで躊躇ためらうことなく進む。

 トントンッ♪とノックをして、返事を待たずにドアを開けた――


「小説家だー!」

『は~!?』

 そこには、部屋の真ん中で両手を握りしめて叫ぶアホ……間違ってないけど、一応(苦笑)、幼馴染のヒロがいた。

「なによ? 急に」

 あたしには察しがついていたものの、社交辞令で聞いてみる。

「?、よー♪」

 ヒロがこちらに振り返り、いつも通りの挨拶。

 あたしも、「よー♪」と返しつつ、お目当ての本棚へ。

 ヒロの既にひるんだ目が後をついてくる(汗)。

『どれにしよう?』

 数ある漫画の中から、今日の一冊を思案する。

 漫画や食の好みとか、ヒロとは気が合う所が多い。

 食については、我が長瀬家の味に慣れさせてしまったのかもしれないけど(笑)。

「小説家、よくない?」

「いいって、何が?」

 前に集中したいあたしの後ろから、弱々しいヒロの声が邪魔をする。

 ……う~ん、正直、相手をするのが少々面倒くさい(苦笑)。

 そもそも、いつもあたしに納得と応援してもらわなきゃ出来ないっていうのが、どうなのよ?

「楽して金が入る!」

「売れたらでしょ?」

 チラッと振り返って、で釘を差す……すると、ヒロは一歩後ずさる(汗)。

「売れるようなの書けばいいんだろ!?」

 口で勝てないの分かってるくせに、突っかかるんだから(困)。

「だいたいあんた、まともな文章書けるの? あたしとのLINEでさえ、意味不明な日本語じゃない。幼馴染だからわかるようなもんでしょ?」

「今時と言え」

「共通の言語になってない」

「それに、この間はなんだっけ?」

 題名を指で確認しながら順に追っていく……うん♪ 読みたいのが決まった!

「漫画家……」

「何日続いた?」

「…1日……ぐらい」

「半日持たなかったでしょ!? はい、おしまい」

 付き合っててもらちが明かないので、ヒロのベットにうつ伏せになって、本を読む態勢を整える♪

「アレは仕方ないだろ!? あんなに難しいなんて思わなかったんだから!?」

 まだ言うか(^^;)……よし! 少し懲らしめてやろう!

「で、その前はなんだっけ?」

 狼狽えるヒロ(笑)。

「その前の前は?」

 あたしは漫画のページをめくりつつ、耳と口だけはヒロに貸してあげた。

「小説家だって、結局おんなじこと言って終わるんだろね~」

「小説だったらオレでも書ける!」

「ちょっと!? ツバ飛ばさないでよ!」

「わっ、ワリィ……今回はできそうな気がするんだよ!」

「もぅ……そもそも動悸が不純なのよ。小説家が楽なわけないでしょ? ずーっと考えて文字にして、1日中、机とくっついてるようなもんなんじゃないの? それで売れなかったらショックでしょ? ヒロにそれを受け入れるだけの根性があるわけないじゃん」

【これでヒロは完全に屈しただろう】……そう思っていた。

 ところが、「いやっ! あ…る……とはいわないが!? これからつけてく! 動悸が不純でも原動力には変わらん!」

 ……ちょっとだけ驚いた。

 ヒロがここまで言うことが、今までなかったから。

 大抵、あたしが少し強く言えばそれで済んできた。

 早く起きて、部屋片付けて、食べ残しは駄目……等々。

 あたしはヒロの方に顔を向けると、好奇心と期待する思いから聞いてみることに。

「ふーん。じゃあ、どんな小説書くのよ?」

「ん~、そうだな……長編スペクタクル異世界ファンタジーなんてどうだ? それとも歴史物か? いやいや、恋愛小説なんかも捨てがたい♪」

 ヒロはおくすることなく、無駄な日本語を連射する(汗)。

 あたしは、漫画にのめり込むフリをした……すると、少しの沈黙の後、「おい…(汗)」

 来た(笑)。

「スペクタクルの意味は?」

「!?」

「歴史、得意だったっけ?」

「いや、まぁ、追々勉強すれば……」

「ましてや、恋愛小説なんて絶対無理に決まってるでしょ?」

 もう一息!

「なんで断言できるんだ?」

「あんた、恋愛って分かってんの?」

「ま~あれだ、そのー……(汗)」

 無駄だと分かっていても、一応テストしてみる。

「中学の時、クラス一緒だったことのある美咲ちゃん覚えてる?」

「? ん~……」

「黒縁メガネの」

「あー! 黒縁、覚えてる」

「小島美咲ちゃんね(^^;)……話したことあるよね?」

「ん~……たぶん。何回か話したような気がする……それが?」

 ヒロは全く会話の意図を理解していない。

 あたしは少しホッとしつつ、「やっぱムリね」と、再度断言してみせる。

『食いついてくるかな……?』

「話の脈絡、無さ過ぎねーか?」

「もういい」と言って、あたしはわざと突き放す態度を取る。

 すると、

「!? 意味分からんが、そこまで言うんだったら、恋愛小説書いてやろうじゃねーかっ!」

 ハイ! また来た♪

「……はいはい」

 リリース♪

「絶対だからな!」

 少しリールを巻く。

「じゃ、期限は?」

「ん?」

「だから期限。いつまでに書き上げんのよ?」

「1週間!」

 ヒロ魚さんが川面で暴れる(笑)。

「無理」

「じゃ、1ヶ月!」

「3ヶ月」

「よ~し、 3ヶ月だな! すんげ~の書いてやっからな! 心臓バクバクで、救〇飲みたくなるようなやつ書いてやる!」

 ヒロ魚さんゲット(^^♪)。

 ていうか、たまには最後までやってみせなさいよね(・・#)。

「まぁ、せいぜい楽しみにしてるわよ。あ、今日ごはんウチね!」

「おぅ!(♪)」


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