ケセランパサラン
人の住む世界の外、東側には春の城、南側には夏の城、北側には冬の城、そして西側には秋の城がある。
秋の城に住む王様と女王様は、激しい夏から厳しい冬に向けての移り変わりを穏やかにするという役目があるのだが、女王様は寒がりだったので王様は夏の風を吹かせては夏の気候に戻してあげるのだった。そうすると冬の王様は世界が冬になるようにと冬風を吹かせ、世界は急激に冬へと進んだ。
この気温の変化によって体調が悪くなったり、気が悪くなったりした人間の頭の上に「もじゃもじゃ」のフキダシが現れ始めると、秋の女王様はいよいよ冬が来るのだと覚悟を決め、手袋や靴下、マフラーを編み始めた。
しかし、王様と女王様2人分編むには、秋の城中にある毛糸を使っても足りない。
困った女王様の目に映ったのは、編みかけのマフラーと、人間の頭の上にある「もじゃもじゃ」だった。
「試しに、少しだけ……」
女王様は何人かの人間の頭の上から「もじゃもじゃ」を摘み取って紡ぎ、毛糸にしてマフラーを編んでみた。
ほのかに暖かいその毛糸は、マフラーを編んでいる女王様の冷えた指先を暖めただけではなく「もじゃもじゃ」を摘み取られた人間の気分を良くした。それを見た女王様は嬉しくなり、次々と「もじゃもじゃ」を摘み取っては紡いでマフラーを完成させた。
人肌のマフラーは王様と女王様を暖め、無事に冬を越す事が出来たのだった。
それから毎年秋になると「もじゃもじゃ」を求めて秋の王様と女王様は、激しい夏から厳しい冬に向けての移り変わりを激しくするようになったという。
ある年の事。
激しい季節の移り変わりに、人間達の頭の上には沢山の「もじゃもじゃ」が出ていた。
それは、王様と女王様のマフラーや手袋、靴下、それにセーターを編んでも摘み取りきれず、女王様は兵士達にもマフラーを編む事にして次々と「もじゃもじゃ」を摘み取っていった。
「あら?」
1人の人間の頭の上から「もじゃもじゃ」を摘み取った後、女王様は不思議そうに首をかしげた。
何故なら、摘み取られたはずの「もじゃもじゃ」が、またすぐに出てきたからだ。
その人間の頭の「もじゃもじゃ」は摘み取っても摘み取ってもすぐに現れ、摘み取っても摘み取ってもその人間は笑顔にはならない。そして、摘み取った「もじゃもじゃ」で紡いだ毛糸はひんやりと冷たく、少しも暖かくはなかった。
なんとかしてこの人間を笑顔にしたいと考えた女王様は、マフラーを編む手を休めて人間観察を始めた。
「あら」
険しい表情で足早に歩く人間がパタリと立ち止まった場所には1匹の子猫。
ニッコリと微笑みながら子猫を撫ぜる人間の頭の上からは「もじゃもじゃ」が消えていた。
それに気付いた女王様は、摘み取るばかりではなく与えようと考え、人肌に暖かい「もじゃもじゃ」を手に取ると手で丸め、いくつものフワフワした粒を作り、それをフワッと人間の世界にばら撒いたのだった。
皆が笑顔になりますようにとの願いを込めて。