婚約破棄されたら、国が滅びかけました
「貴様には失望した!私は、シャルロッテ・グリースベルトと婚約破棄をする!そしてここにいる私の愛おしい、マリーネ・スルベリオと婚約をする!」
そう叫ぶのは、このルオナス王国の王太子であるレオナルド・ルオナス。そしてこの日は、学園の卒業パーティーだった。14歳の時から4年間通った学園に別れを惜しみながらも、友と、婚約者と過ごす最後の学園生活を各々が楽しんでいる中、空気を読まない王子と一人の可愛いという言葉が似合う女子生徒、そしてその取り巻きの数人の男子生徒は一人の女子生徒にーこちらは美しいという言葉が似合うー向かって怒鳴った。周りの生徒たちは何事か、と部屋の中心を見た。
「理由を…お聞きしても?」
「はん!良いだろう教えてる。ルイード!」
レオナルドは、取り巻きの一人であるルイード・シーサイドーシーサイド公爵の息子で父親が宰相ーを呼んだ。ルイードは一歩前に出ると、眼鏡をクイっと上に押し上げて言った。
「シャルロッテ・グリースベルト公爵令嬢。貴女はマリーネ・スルベリオ男爵令嬢の物を盗んだり、聞くに耐えない暴言や暴力を振るったという証言がマリーからが出ている」
「レオさまぁ…うぅ…私っ…本当に怖くてぇ…グスっ」
「あぁ可哀想にマリー。大丈夫私がついてるよ」
目の前の茶番にシャルロッテは呆れてため息をつき、扇子を開いて口元を隠し言った。
「私がやったという証拠は?そもそも、その方はマリーネという名前だったのですね。今初めて知りましたわ」
「なっ…しらばっくれる気か!」
「別にしらばっくれてなんかいませんわ。私はただ証拠はあるのか、と聞いているだけですわ」
「ふ、ふん!証拠ならあるぞ!アーヴェス!」
今度はアーヴェス・レイクガッティナー有名な商人の息子ーが前に出て破れた制服をシャルロッテに突きつけた。
「これが証拠の破られたマリーの制服だ」
「あら…ご自分でもできますでしょう?そのくらい。そんなもの証拠になりませんわ」
コロコロと笑っていうと取り巻きと王子が睨みつけてきた。
「わ、私はただ、シャルロッテさんに謝って欲しいだけで…!ほ、ほんとうに怖かったんです!」
怯えたように目を潤ませてマリーネが言うと取り巻きたちはみな優しい言葉をかけた。
「さっさと謝れ!シャルロッテ!今なら謝罪だけで許してやる!」
「お断りしますわ。私何もやってませんもの」
「貴様…!捕らえろ!」
レオナルドが命じると、騎士団長の息子であるデヴィッド・ハースネスはシャルロッテの方に飛び出し、15歳という若さで魔術師団に入団し18歳と言う若さで魔術師団長に就任し今尚、様々な伝説を残す団長の次に天才と言われる、ジェイル・シャーリオスが氷魔法を
足元に放ってきた。シャルロッテは思わず身構えると、炎の壁がシャルロッテの前にそびえ立った。
「な、なに?」
「きゃぁ!こわぁい!」
「大丈夫だよ、マリー。私がついてるよ。あいつは私に攻撃できない」
それぞれがそれぞれの反応をする中、ジェイルは驚いて目を見開き固まった。
「そんな…今の魔力は…」
「ジェイル?」
「あ…マリー。大丈夫だよ」
ジェイルがマリーネに声をかけた途端部屋のドアが勢いよく開いた。部屋の中にいた全員の視線がドアの方へと向いた。そこには、卒業パーティー会場におらず、どこかに行っていたルオナス王国の王、レーディオス・ルオナスが怒りの形相で立っていた。そして、王は中央まで進むと息子であるレオナルドの頬を叩いた。
「なっ!父上?!なにをするのですか!!」
「お前は!この国を滅ぼしたいのか!!」
「へ?」
「シャルロッテ嬢。この度は我が愚息が大変!迷惑をかけた。申し訳ない!」
「!!お、お顔をお上げください、陛下。私は「ダメだよシャル」
「え?」
「ギルハーツ!そ、そのだな…」
「ご安心を陛下。陛下には怒ってはおりません。が、ねぇ?」
ふふふ、と笑うこの男こそが、18歳という歴代最少年齢で魔術師団の団長になった『最凶の魔術師』と呼ばれるシャルロッテたちの2歳上の銀髪に深い青色の目を持ち服の上からでもわかる逞しい体が美貌をさらに引き出しさらに、色気を醸し出している20歳の男がシャルロッテを後ろから抱きしめる形で立っていた
「きゃぁ!ギルハーツ様も私のこと守ってくれるんですかぁ?うれ「師匠!」
マリーネの言葉を遮ったのはジェイルだった。
「どういうことですか!この女を守るなど!さっきの炎の壁は師匠のでしょう?!」
「そうだよ」
「ギルハーツ殿!どういうことだ!」
「どういうことだ、ねぇ。私こそお聞きしたいのですが、殿下。そんな大勢で一人の令嬢を攻撃するとはどういうことですか?」
「ふん!その女が可愛いマリーを罵倒したのだ!」
「証拠は?」
「マリーがそう言っている!」
「はぁ?」
いつも余裕の笑みを浮かべるギルハーツの顔が少しポカンとなった。がすぐにいつもの笑みを戻した。
「私、本当に怖かったんですぅ!」
「そんな女を守るなど、師匠一体どうしたんですか!」
「別にいつもどうりだよ?でもこの国ももう未来はないかもねぇ。次代が腐ってるようじゃあ」
「ギ、ギルハーツ!どうか、民だけは!」
王は縋るようにギルハーツを見て次に未だにポカンとしているシャルロッテを見た。シャルロッテはギルハーツの方を向き何度か言葉を発しようとハクハクと口を動かした後、断罪されていたときのような凛々しい声ではなく、幼い少女のような声を絞り出した。
「ウィル…?」
「あぁ、シャル。そんな不安そうな顔をしないで」
「どう…して…?」
「ん?シャルの14歳の誕生日にあげたネックレスだよ」
シャルロッテの誕生日にギルハーツが渡したネックレスは、ギルハーツが絶対に外してはいけないと言ったのでずっとシャルロッテは言いつけを守ってつけていた。
「それは魔道具でね。シャルに悪意ある攻撃が向けられた時にシャルを守ると同時に私にその位置がわかるようになっているんだ」
「ギルハーツ殿!どういうことだ!」
「バカ息子!黙っておれ!ギルハーツ。いや、ウィルリート・アンダーソン。どうか、怒りを収めてはくれぬか?」
「ウィルリート・アンダーソンだと?!」
そう叫んだのは2年前に卒業したはずの隣国の王子だった。
「なぜ貴様が生きている!貴様は6年前の大戦で死んだはず…!」
「ああ、死んでないよ」
「本当にウィルリート・アンダーソン…『最悪の悪魔』本人か…?髪色は黒だったはず…」
「髪色変えてるからね。こっちが本当の色」
そう言ってウィルリートは指をパチンと鳴らすと銀だった髪が漆黒に変わった。
「ウィルリート…」
「私はどちらでもいいんですよ。こんな腐った国、壊しても。私にはそれだけの力がある」
「ウィルリートさまぁ。そんなっ、国を壊すとかひどいですぅ!」
「あぁ、気持ち悪いから近寄らないでくれる?」
「貴様!国を壊すなどと聞いておれば!」
「君達もちょっとうるさいよ。ちょっと黙っててよ」
「本当にウィル?」
「そうだよ。シャル。あぁ、そんな泣きそうな顔をしないで。閉じ込めて私だけしか見えないようにしてしまいたくなる。私の可愛い可愛いシャル。婚約は破棄したようだし、私と結婚してくれるかい?」
「っ!」
ウィルリートはシャルロッテの頰を両手で包んで甘い熱を持った瞳でシャルロッテの瞳を見つめるとシャルロッテは顔を真っ赤にした。
「あぅ…私は…」
「お前は本当にウィルリート・アンダーソン…今はギルハーツか?常になににも執着しない?」
「そうだって言ってるでしょう。現に執着していないからこんな国いつでも滅ぼせる」
「ギルハーツ・クレンラント!貴様は国家反逆罪だ!」
「まってぇレオさまぁ!ギルハーツ様はぁ、その女に騙されているんですぅ。そうですよねぇ?」
「まさか。だいたいこんな小国に私はいる必要はなかった。私は公爵家の人間だけど家族はいないし当主は私だけど養子をとって教養を身につけさせた後この国から出て行っても良かった。あの大戦の後色んな国からうちに来ないかという話があった。今もね。それでも私がこの国にいたのは、私の可愛いシャルがいたからだよ」
「ウィル…!今の話本当なの?私に縛られてこの国にいたの?ウィルは昔冒険者になりたいって言ってたじゃない!夢を叶えられるのに…」
「やだなぁ、シャル。シャルが私を縛っていたのではなく、私がシャルを縛っていたんだよ。シャルが私の手の中から出て行かぬように」
「師匠…貴方には失望しました!貴方は俺の憧れだった!何にも執着せず、常に冷静に最適な判断を下す貴方が!でも、そんな女に執着して…!」
「私は君に会うずっと前からシャルに執着してたんだよ?シャルがこういう風になるように仕向けたのも…私だ」
「もういい!捕らえろ!!」
レオナルドが叫ぶとレオナルドの私兵が飛び出した。デヴィッドとジェイルも。
「シャル、少し下がっていて。陛下も危険ですよ」
そう言うとウィルリートは指をパチンと鳴らし、氷魔法を炸裂させ時々剣を使っていたーウィルリートは剣も騎士団長並みに強いーすぐに全員が地にひれ伏し呻き声をあげた。
「ひっ!」
「みんな!」
「この国を滅ぼすのだけはやめてくれ。この通りだ」
王が頭を下げると、ウィルリートはじっとその姿を見つめ一つ息を吐いた
「わかりました。頭をあげてください」
「ありがと「ですが、それはあくまでも私の話です。問題は、シャルが何を望むか」
そう言うと再びシャルロッテの頰を両手で包み目を合わせた。
「さぁ、シャルは何を望む?望んでよ。そしたら私が叶えてあげる。シャルが望むならこの国だって滅ぼそう」
「わ、私は…」
「シャルロッテ嬢…頼む…!」
「さぁ…」
「私は、お家に帰りたいです」
その答えが意外だったのか少し目を見開いた。しかしすぐにスッと目を細め微笑んだ。
「いいよ。それじゃあ、帰ろうか」
「ま、まて!」
ウィルリートが王子の方を向いてぼそりと何かを言うと王子達側の窓がバン!と開きそこから巨大な目が現れた。
「ひぃぃ!」
「こわぁい!」
「下がって、マリー」
怯える王子達に対しシャルロッテは嬉しそうに顔を輝かせた。
「ギルハーツ!久しぶりね!会いたかったわ」
『久しいのぅ、シャルロッテ。息災であったか?』
シャルロッテがバルコニーに出るとそこには右目の当たりに大きな傷のある大きな竜がいた。
「古竜?!な、なぜここに…!」
「ギルハーツは私の親友でね」
『何が親友だ。こき使いおって。ひとの名前まで勝手に使って…』
「仕方ないだろう?ウィルリートは死んだと言うことになっていたのだから」
『本当かのう…』
「シャルのそばにいるためだよ」
『お主…相変わらずシャルロッテに執着しておるのか…嫌われるぞ?』
「大丈夫だよ。シャルは私がいなきゃ生きていけないから。ふふふ」
『…はぁ。シャルロッテ。この男にはくれぐれも気をつけるのだぞ』
「?うん…?どうして?」
「ほらね?」
『…さっさと乗れ。帰るのだろう?』
「ああ、そうだね」
ウィルリートはバルコニーから飛び降りるとギルハーツの背に乗った。そしてシャルロッテに手を差し伸べた。シャルロッテはその手をとりウィルリートに抱きついた。ウィルリートはシャルロッテの頭を撫でるとギルハーツは飛び立った。シャルロッテの家の方へ。
その後王はシャルロッテの冤罪を晴らし、レオナルドは国を滅ぼしかけた罪で廃嫡のうえ一生涯塔に幽閉された。マリーネは公爵令嬢に冤罪をかけたとシャルロッテに訴えられ、マリーネを諌めずしっかりと教育を行わなかった罪でスルベリオ男爵一族は民衆の前で公開斬首の刑となった。取り押さえられ、処刑の日まで城の地下で拷問を受けることになったマリーネは、こんなはずではなかった、私はヒロインなのにと訳のわからないことを言っていたという。そして、汚い言葉でシャルロッテを罵った。拷問の末、シャルロッテにかけた冤罪は全て自作自演だったと認めた。その真実を知ったレオナルドは絶望し幽閉される直前に逃げ出し、シャルロッテの家まで押しかけもう一度婚約しよう、私は騙されていたんだ、と叫んだ。しかしシャルロッテに思い切り頰を引っ叩かれよほどショックだったのか、王城からの迎えが来るまで放心状態で膝から崩れ落ちていた。第一王子に変わり、優秀だと言われていた第二王子が王太子となった。ウィルリートの怒りをこれ以上買わぬように最適な判断が下された。
シャルロッテはウィルリートと結婚をし、ウィルリートに甘く愛された。