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翌朝5時、第1小隊MA格納庫前に小隊のメンバーが全員集まっていた。
「よーし、全員集まったな」
横1列に並ぶ男子隊員3名、女子隊員4名を前に腰に手を当ててトーマが話し始める。
「今日の訓練では我が第1小隊はフル装備の上、第4小隊MA格納庫へ向かい、第4小隊の装備品を借り受け、本校を出発、国境付近まで哨戒を行い、その後本日中に帰投する」
トーマが内容を伝えると、隊員からはあからさまにゲンナリとした雰囲気が上がった。
「たいちょー…」
ガックシと言った体制でトーマに話しかけたのは高等部2回生エイミィ=バーンズ、栗色の髪をセミロングにした華奢な少女である。
「なん…」
「だから言ったじゃありませんか!どう考えても無理があります!国境まででさえ約50キロあるんですよ!それをフル武装に更に追加装備した上での行軍なんて不可能です!他にもですね!」
トーマを遮って話し始めたのはフィオナで、今日の彼女は、体に真っ白な羽衣を纏い、美しい容姿とあいまってさながら女神か天使のようだ。
また、女性隊員は全員フィオナと同じような格好だ。
「まぁまぁ…」
そう言って宥めるのはマオで、マックとジョージは我関せずと言った顔で他所を向いている。
残りの2人の女性隊員はまたかと言った表情で呆れているようだった。2人とも肌は褐色で黒い髪をのばし、黒い目でよく似た顔をしている。背が高く発育の良い高等部3回生ソニア=バーバラと、華奢な高等部1回生タニア=バーバラ、2人は姉妹だった。
「確かに現実的な訓練じゃないかもしれない」
トーマは静かに話始める。
「追加の装備品も借用するのに、幾らか隊費がかかる」
腕を組んで首を縦に振るフィオナを見て、トーマは若干顔を引き攣らせるが、怯まず続けた。
「が、少数での強行軍の訓練が必要だと俺は考えている。いざ実戦でと考えた時、作戦の幅も増える。そして逆に実戦では難しいと判断出来たならそれはそれで収穫だとはおもわないか?」
「それはそうですが」
「俺は常にありとあらゆることを想定した訓練をしておきたいと考えている。俺達は確かに士官ではあるが」
彼らは国防軍民生士官学校の学生である。しかし実の所、別に国防軍直属の士官学校は王都に存在している。そちらは主に王族や貴族の子弟が入学する学校だった。
そして民生士官学校は平民が入学する学校であり、国境の要塞グランデアーロ要塞にほど近い場所にある。
「みんなも知っての通り、国防軍士官とは名ばかりで、実際は危険な前線に送られる民生国防軍の所属だ」
そう、彼らは皆平民出身で本格的な戦争がもし始まったら真っ先に前線に赴く立場にあった。
「戦争が始まらなければそれに越した事はないが、始まってしまった時にあの時にやっておけばと後悔したくない、させたくないと考えている」
トーマはそう言って満足気な顔をしてはいたが、ほかの面々は呆れたような表情をしている。
「そんなこと言って、この前はMAでダンスさせましたよね」
「その前はサッカーでしたね姉さん…」
ぼそっと呟くのはバーバラ姉妹。聞こえていたのかトーマは言葉に詰まりながらも続けた。
「うっ…い、良いからいくぞ!」
そう言って踵をかえし、格納庫の中へ歩いて行った。