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「じゃあ、言わせてもらいます!」
怒りの表情でトーマに言うフィオナにトーマは冷や汗をかきつつ、先を促した。
「明日の訓練は活動時間を増すための訓練だったはずです」
「その通りだ」
「でしたら!これほどまでに重装にする必要はないのではないですか!?それもほかの隊の装備も借り受けての訓練など!」
フィオナの意見を受けて、トーマはニヤリと笑うと、必要だと一言返した。
彼女は絶句し言葉も出ない様子で、それを見たトーマは立ち上がりながらに明日皆にも伝えると言いながら扉を開け、振り向いた。
「フィオナ、ほかの隊の備品の心配もいいが、俺は例え訓練でも今後の作戦行動で実際に行われるかもしれないことは1度は体験しておくべきだと思っている」
何も言い返さないでいる彼女を暫く見たあと、トーマはそのまま出ていった。
「少数での強行軍の訓練も兼ねているという事なのでしょうが、安くはない装備品を借り受けるということがどういう事なのかをもう少し考えて欲しいですね」
彼女は他の小隊への借り賃の支払いに頭を悩ませながら机から自らの魔石を取り、画面が消えたことを確認してから多目的室から出ていった。
余談ではあるが多目的室の鍵を閉めなかったトーマが寮母に怒られるのはまた別の話。
フィオナと別れたトーマが疲れた顔をそのままに自室へ戻るとリビングで3人の男子生徒がソファに座って談笑していた。
国防軍民生士官学校高等部の寮では基本的に小隊で共同生活を送ることになっている。
5LDKの部屋で1人1部屋ずつ、そして小隊長の執務室となっていた。
「隊長おかえりなさい」
声をかけたのは1人のみで残りの2人は立ち上がり左手を左の眉の辺りに上げ敬礼していた。
この部屋のメンバーは小隊長のトーマを始め、高等部3回生のマオ=ユン、高等部2回生のマクシミリアン=フランクリン、高等部1回生のジャック=アンダーソンの4名である。
女子隊員は当然女子寮で共同生活をしており、そちらも同じような部屋を4人で使っている。執務室は女子の部屋長であるフィオナが使っていた。
トーマが率いる第1小隊は男性4人女性4人の8人編成の小隊である。
「ただいま。明日は早いからお前達もさっさと寝ろよ?俺はシャワー浴びたら寝るから」
そう言って脱衣場へと入っていったトーマを見送ったあと残された3人は顔を見合わせにやっと笑った。
「なぁマック、あの顔見たか?多分またフィオナになんか言われんたんじゃねえか?」
そう話し出したのは残った3人の中の最年長のマオ、背は平均的だがトーマと同じく黒髪黒目は東方の血だろうか。小隊のほかの面々に比べると少々痩せているようにも見える。
「マオ先輩、自分もそう感じました」
マオに話を振られたマクシミリアンは苦笑いを浮かべて頷く。赤毛で茶色の目をした人の良さそうな印象を受ける青年だ。
「同感です」
最後の1人のジャックは高等部1回生ながら小隊の中で1番背が高く180を越える。そして鍛え上げられた筋肉がカーキ色の軍服の上からでもはっきりわかるような大柄な男子生徒だった。
マオが大きくため息を吐きながら、ソファにもたれ掛かる。
「どーせ隊長がまた変な訓練を考えてフィオナに詰められたんだろうな」
それを聞いた2人も同じようにソファにもたれ、明日の訓練を考えて憂鬱になるのだった。