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ミーティア歴518年、国防軍民生士官学校も今期で6期目を迎え、中等部1-3年、高等部1-3年の全学年が遂に勢揃いした。
ここで説明するが、ここはワーレンガルド王国。
東は広大な砂漠に接し、南は海、北は急峻な山岳地帯で西方は強大な軍事国家ファークロス王国に接している。
緑豊かな国で、北方の山々からは魔石が産出され、国土の割に国力は高い。
疑問がのこるかもしれないが、実は魔石とは隕石そのものでは無い。隕石の落下後、世界各地の鉱山で採掘が可能になった。科学者達の見解では隕石のもつ何らかの作用で地下の好物が変質し魔石になったというのが通説である。
魔石は今や生活インフラに欠かせないものとなっている。先の生徒達の机でもそうだが、魔石は生物が触れるとエネルギーを生成し、不可解な現象を引き起こす。
ミーティア歴が始まって以来、人類の歩みは常に魔石とともにあった。
この500年で魔石テクノロジーは進化を続け、人々は魔石を使って徐々にではあるが、以前の豊かな生活を取り戻しつつあるのであった。
「トーマ小隊長!」
校舎からほど近く、男子寮と女子寮の間にある道路でそう声を書けられたのは、高等部3回生トーマ=神崎であった。最上級生となったトーマは背も伸び、声も大人の男性となっていた。
「どうした?」
トーマに声をかけたのは白い軍服を着た平均よりも少々背が高く、金の髪を長くのばし、緑の目をした女生徒だった。名前はフィオナ=ハーキュリー、トーマの率いる第1小隊の隊員である。
「神崎小隊長、明日の小隊訓練についてお聞きしたい事があります。お時間頂けないでしょうか」
トーマは一瞬顔を顰めたが、一呼吸置いてから、着いてこいと一言伝え、寮に併設されている多目的室へ向かう。
フィオナの方はと言うと、多目的室へ向かう彼の背中に呆れたような視線を向けて、すぐに、彼に着いて歩き出した。
小隊長権限で持ち歩きが許されている多目的室の鍵を使い部屋を開けると、トーマは足早に部屋に入り、正面の黒板の前に置かれた座席に座った。
同時に入室してきたフィオナは丁寧に扉を閉めると、トーマの正面に仁王立ちする。
「はぁ、で?明日の小隊訓練の話だと聞いたが、なにか問題でもあるのか?」
彼女は一層眉間に皺を寄せ、同級生ではあるが一応上司でもあるトーマへ口を開いた。
「問題でもあるのか?じゃないわ!」
バンと音をたてて両手をトーマの座る前の机に叩きつけると、前のめりに手をついたまま軍服の胸ポケットから右手で魔石を取り出し握りしめる。
すると途端に魔石が薄緑に光り、机に画面を表示させた。
「い、一応俺は君の上司でもあるんだが…」
いきなり机を叩かれたことで驚いたトーマは後ろに仰け反ったまま、そして目の前の部下の豊かな胸から視線を逸らしながら慌てたように応えた。
「トーマ…」
擬音をつけるのならグヌヌと言った表情で呟くフィオナにトーマはタジタジであり、慌てて向き直り、画面に表示された画像を見る。
「これは我が第1小隊のMAの装備品発注一覧だろ?これがどうかしたのか?」
トーマの言うMAというのは正式名称、隕石発動機搭載型人型装甲戦闘車両と言い、全高15-6メートルの兵器である。隕石と装甲からミーティアアーマーとも言われMAとはその略である。
現代の戦争は、神の断罪の月の前の戦争とは大きく異なっている。まず文明レベルは依然として中世代と変わらず、薪で火を起こす。
が、魔石という新たなテクノロジーがある。何百年も前、名も無き科学者が、魔石を用いて新たな合金を生み出した。
既存のどんな物質よりも耐久性が高く、軽く、硬いこの合金はミスリルと名付けられた。
このミスリルと魔石というエネルギー源を得た人類は様々なものを発明していく。
その過程で、およそ200年前、ミスリルを用いてMAを作り出し、以後国家間の戦争ではMAと歩兵による戦争が主だったものになっていた。